実の息子の中学受験に悩む43歳大手企業社員が中卒の料理人の夫の浮気を疑うようになるまで

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10月は中学受験の「魔の月」とも

2024年9月19日、首都圏模試センターは「2025年中学入試予想偏差値一覧」を公開した。これは、合格率80%の偏差値を男女別・日程別にまとめて掲載したものだ。中学受験に取り組む6年生にとって、秋の偏差値が、志望校選びの指針になることが多いという。

それゆえに、中学受験をする子供たちの感情は不安定にもなる。「もうやめる」「無理だ」などという子供が増えるから、いつの頃からか中学受験界隈では10月、11月を「魔の月」と呼ぶようになった。保護者からの暴言や暴力が増えるのもこの頃だという。

キャリア10年以上、3000件以上の調査実績がある私立探偵・山村佳子さんは「中学受験は、“子供に勉強させなければ”という親の責任がのしかかる受験です。親の思い通りに取り組まない我が子へのストレスから、家庭の雰囲気が悪くなり、浮気でストレス解消する親もいます」と言う。

山村さんに依頼がくる相談の多くは「時代」を反映している。同じような悩みを抱える方々への問題解決のヒントも多くあるはずだ。個人が特定されないように配慮をしながら、家族の問題を浮き上がらせる連載が「探偵が見た家族の連載」だ。

今回山村さんのところに相談に来たのは、43歳の沙織さんだ。「夫が浮気をしているみたいなんです。子供が中学受験期なのに……」と山村さんに連絡をしてきた。中学受験と浮気の関係とは。

山村佳子(やまむらよしこ)私立探偵、夫婦カウンセラー。JADP認定 メンタル心理アドバイザー JADP認定 夫婦カウンセラー。神奈川県横浜市で生まれ育つ。フェリス女学院大学在学中から、探偵の仕事を開始。卒業後は化粧品メーカーなどに勤務。2013年に5年間の修行を経て、リッツ横浜探偵社を設立。豊富な調査とカウンセリング経験を持つ探偵として注目を集める。テレビやWEB連載など様々なメディアで活躍している。

一番困っていることは「息子の中学受験」

今回の相談者・沙織さん(43歳)は、深夜に泣きながら電話をかけてきました。「今夜も夫が帰ってきていません。絶対に女のところにいるはず」と何度も繰り返していました。

翌朝、9時にカウンセリングルームに来た沙織さんのまぶたは泣き腫らしており、顔色も悪い。「結局、夫は帰ってきませんでした」と肩を落としている。どこから話せばいいかわからない様子だったので、「今、一番困っていることは何でしょうか?」と質問しました。

「息子の中学受験です。全然、成績が上がらないから、家族がバラバラです。だから夫も浮気をする。そもそも夫はバツイチなんですよ。“絶対に幸せにする”と言っていたのに。私を何だと思っているんだ! なめるな!」

沙織さんは、感情を吐き出し続けていました。そこからわかったことは、夫は腕がいい料理人であること。前の妻との間に27歳の息子がいることでした。

中学卒業後に和食店に弟子入り

「私は28歳から2年間、アメリカ支社に勤務になったんです。とはいえ、全くの下っ端ですよ。後輩の男子も一緒に赴任したのですが、そいつは今、ヨーロッパ支社にいます。私は海外から2年で返されちゃったんです。海外勤務は私の夢で、それが敗れて絶望していた時に、たまたま和食店に入ったら、びっくりするくらい美味しい茶碗蒸しが出てきたんです。それを作ったのが夫でした」

7歳年上の夫は中学卒業後、和食店に弟子入りし、そのまま修行を積み独立したのだそうです。

「夫は海外の店でも働いた経験がある。だから、めちゃくちゃ落ち込んでいた私の話を聞いてくれて、私の好物をたくさん出してくれたんです。私も酔ってしまって、気がついたらホテルにいました」

夫は沙織さんがこれまで交際した人の誰よりも、性の技巧に長けていたといいます。

「食材を扱っているからかすごく繊細なんです。私の体を宝物のように扱ってくれて、褒めてくれて、本当に幸せでした。その後、何度か関係を持つうちに妊娠。結婚しようとプロポーズされたのです」

バツイチとは知っていたけれど

交際1年もしない入籍は、親も大反対。ただ、それなりに評価を得て人気もある和食店を構えていることや、夫のおおらかな人柄、そして沙織さんがベタ惚れしており、さらに妊娠もしていたので、両親も受け入れてくれたそうです。

「でもその後、一波乱あったんです。当時、37歳の夫がバツイチであることは知っていました。でもまさか、14歳の息子が同居しているとは思わなかった。夫は私と出会う3年前に離婚しているのですが、離婚するとき“パパがいい”と言い引き取ったんです。結婚し、私は妊婦なのに14歳の男の子の世話をしなくちゃいけなかったんですよ」

夫と先妻との息子は、家事も一通りこなせて、沙織さんの言うことをよく聞いたそう。生まれてきた沙織さんの息子の面倒もよく見てくれて、保育園のお迎えなどもサポートしてくれたとか。

義理の息子の大学進学を後押し

海外勤務経験もあり、誰もが知る企業で働く沙織さんを尊敬していることも伝わってきたある日、息子に進路を聞くと「高校か専門を出たら適当に働く」と即答。それに沙織さんは、「大学に行きなさい。そこから考えた方がいい」と勉強を教えます。筋はよかったそうですが、高校受験には間に合わなかった。そこで、少しレベルが低い都立高校に入学し、そこでトップの成績を維持し、指定校推薦で中堅私立大学に進学。現在は流通大手に正社員として勤務し、大学の同級生と結婚したばかりだそう。

「私は、夫にも義理の息子にもいいことをしている。それなのに、私の息子の中学受験には全然協力してくれないんです。模試の結果も悪くて、“ここが最低”というランクの学校にも手が届いていない。それなのに塾をサボるし、勉強はしないし。このままでは大学さえ行けない。中卒の夫の息子がそれなりの大学に行ったのに、私の息子が箸にも棒にも引っかからないのは、話になりません。こんなことなら産まなきゃよかった。消えてほしい。人生やり直したい」

我が子に対して、ひどい言葉を使うのは、相当追い詰められていると感じました。そこに夫が浮気をしているとなると、沙織さんは踏んだり蹴ったり。不満は弱いものに向くので、現在6年生の息子さんが心配になりました。

「夫は塾の夏季合宿あたりから、外泊が増えていました。と言うのも私が息子を叱ると“そこまで言わなくてもいい”と庇うんです。勉強量が足りないから、成績が上がらないのに“息抜きにどこか行こう”と連れて行ったりする。今が大切なんです。今頑張れば、上に行けるのに、夫はそこから逃げる手助けをする」

そこから外泊が増えていきました

沙織さんは、「あんたの息子は、私が“大学に行け”と言ったから、今の幸せがある」と言い、中卒の夫と、高校中退の元妻を罵倒してしまったそうです。

「そこから、外泊が増えていきました。夫の店は22時にお客さんが全て帰ります。その後に片付けや仕込みをして23時15分には全員撤収する。深夜0時前には家に帰って来ていたのに今は、明け方や私が出勤してから帰ってくることもあります」

沙織さんは、大学卒業後から同じ大企業に勤務しており、朝7時30分に家を出て、8時15分には会社のデスクにいるとのこと。このルーティンは絶対に崩さないそうです。

「始業は9時なのですが、どうしても早く行っちゃうんですよね。私は産休・育休・時短勤務を取得していたので、昇進が遅いし、給料も男性社員より少ない。頑張っているところをアピールしないと」

沙織さんは、努力で人生を切り開いてきました。言われた課題をこなし、昇進試験も合格し、社会や組織で「正解」とされるものを掴み取ってきたのです。

「結婚しましたし、子供もできたのだから、その子を完璧に育てたい。仕事をしている母だって、中学受験に成功できるんですよ。夏前から成績が伸び悩み、塾のテストでもどんどん下のクラスになる。息子に“受験をやめる?”と聞いたら、“まだ頑張る”と言う。それなのに夫はほっつき歩いている」

沙織さんの口ぶりから、夫に対する怒りもありますが、深い愛を感じました。沙織さんは「夫は若い子が好きだから、絶対に浮気をしている。別れさせてほしい」と繰り返しています。そこで調査に入ることにしたのです。

◇沙織さんの悩みもわかるが、母親からそのような態度を取られる息子さんのことが心配になってしまう人も少なくないだろう。息子に良かれと思ってのことではあるのだろうが、中学受験にしばられすぎて、彼の気持ちを置いていっているのではないだろうか。「中学受験をしないと将来が大変」などということはないはずなのに、その呪縛に家族が囚われ。悪循環が起きているようにも見える。

その呪縛は解けるのか。浮気の実態とその理由はなにか。詳しくは後編「浮気の原因は中学受験?料理人の夫を罵倒した43歳大企業勤務の妻が失いかけたもの」にてお伝えする。

浮気の原因は中学受験?料理人の夫を罵倒した43歳大企業勤務の妻が失いかけたもの