過眠症

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監修医師:
伊藤 有毅(柏メンタルクリニック)

専門領域分類
精神科(心療内科),精神神経科,心療内科。
保有免許・資格
医師免許、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医

過眠症の概要

過眠症は、日中に過度の眠気を感じる状態で、通常の睡眠時間を取っていても起こることがあります。これにより、仕事や学校でのパフォーマンスが低下し、日常生活に支障をきたすことが少なくありません。

過眠症にはいくつかの種類があり、代表的なものとしてナルコレプシー、特発性過眠症、周期性四肢運動障害などがあります。

過眠症の種類症状

ナルコレプシー突然の強い眠気や睡眠発作、筋力の一時的な喪失、幻覚などが特徴

特発性過眠症日中に持続的な眠気を感じるもので、睡眠時間を長くとっても回復しないことが多い

周期性四肢運動障害睡眠中に脚や腕が無意識に動くことで、睡眠の質が低下し、結果的に日中の眠気を引き起こす

過眠症の診断には、専門医による詳細な問診と睡眠検査が必要です。過眠症の症状は他の睡眠障害や身体的、精神的な疾患と重なることがあるため、正確な診断が求められます。治療は症状の原因に応じて異なり、薬物療法や生活習慣の改善が主な対策となります。過眠症は日常生活に大きな影響を与えるため、適切な治療を受けることが重要です。

過眠症の原因

過眠症の原因は多岐にわたります。まず、ナルコレプシーの原因は、脳内の神経伝達物質であるヒポクレチンの欠乏が関与しているとされています。このヒポクレチンの欠乏は、免疫系が誤って自身の神経細胞を攻撃する自己免疫反応によって引き起こされることが多いです。

一方、特発性過眠症の原因は明確には解明されていませんが、脳内の睡眠・覚醒を調節するメカニズムに何らかの異常があると考えられています。また、周期性四肢運動障害は、鉄欠乏や腎疾患、神経障害などが関連していることが知られています。

その他の過眠症の原因には以下のようなものがあります。
・うつ病や不安障害などの精神的な問題
・甲状腺機能低下症や糖尿病などの内分泌系の異常
・睡眠時無呼吸症候群や慢性疲労症候群などの他の睡眠障害

これらの原因は、複合的に作用することが多く、一つの要因だけでなく複数の要因が絡み合って過眠症を引き起こすことが一般的です。

過眠症の原因を特定するためには、医師による詳細な問診と検査が必要です。特に、生活習慣やストレスレベル、既往症などの情報をもとに、原因を絞り込んでいくことが重要です。適切な治療を行うためには、まず原因を正確に把握することが不可欠です。

過眠症の前兆や初期症状について

過眠症の前兆や初期症状は、日中に感じる強い眠気が最も顕著です。この眠気は、十分な睡眠を取ったはずなのに、日中に急に眠り込んでしまうほど強いものです。仕事中や運転中など、集中力が必要な場面で突然眠くなることが多く、生活に大きな影響を与えます。

ナルコレプシーの初期症状としては、カタプレキシーと呼ばれる筋力の一時的な喪失が挙げられます。これは笑ったり怒ったりした際に突然筋力が抜けてしまうもので、時には倒れてしまうこともあるほどです。また、入眠時や覚醒時に現れる幻覚や、睡眠麻痺と呼ばれる一時的な体の麻痺も見られることがあります。

特発性過眠症の場合、日中の眠気が持続するため、夜間の睡眠時間が長くなりますが、目覚めた後もすっきりしません。このため、朝起きるのが非常に困難であり、日中に何度も眠ってしまうことが一般的です。

周期性四肢運動障害の場合、夜間の睡眠中に無意識に脚や腕が動くことで睡眠の質が低下し、その結果として日中に強い眠気を感じることがあります。これに伴って、疲労感や集中力の低下、イライラなどの症状が現れることが多いです。

初期段階で適切な対策を講じることで、症状の進行を防ぎ、日常生活への影響を最小限に抑えることができます。

診断を受けられる医療機関としては内科や心療内科、精神科が一般的ですが、睡眠外来が設けられている病院もあります。

過眠症の検査・診断

過眠症の診断には、専門医による詳細な問診といくつかの検査が必要です。まず、患者の睡眠履歴や日中の眠気の程度、生活習慣などについて詳しく聞き取ります。これにより、過眠症の種類や原因を特定するための手がかりを得ることが重要です。

その後、具体的な検査としてポリソムノグラフィー(PSG)や多相性睡眠潜時検査(MSLT)が行われます。

ポリソムノグラフィー(PSG)夜間の睡眠中に脳波、眼球運動、筋電図、呼吸などを記録することで、睡眠の質や異常を確認する

多相性睡眠潜時検査(MSLT)日中に短い睡眠を数回とることで、眠気の程度や睡眠発作の有無を評価

これらの検査に加えて、必要に応じて血液検査や画像診断が行われることもあります。特に、ナルコレプシーの診断には、ヒポクレチンの測定が有用です。この測定は、髄液を採取して行われ、ナルコレプシー患者ではヒポクレチンの濃度が低下していることが多いです。

また、他の睡眠障害や身体的な疾患が原因で過眠症の症状が現れる場合もあるため、総合的な診断が求められます。医師は、これらの情報を総合して、適切な治療法を選択します。

検査結果に基づいて、過眠症の診断が確定した場合、患者には治療方針について詳しく説明されます。治療の選択肢や生活習慣の改善点などについて話し合い、個々の状況に最適な治療計画を立てることが重要です。

過眠症の治療

過眠症の治療は、症状の原因に応じて異なります。まず、ナルコレプシーの場合、治療の主な目標は日中の眠気を抑え、日常生活への影響を最小限にすることです。これには、薬物療法が中心となります。具体的には、覚醒剤や抗うつ薬が用いられることが多いです。

特発性過眠症の場合も、日中の眠気を軽減するために薬物療法が行われます。覚醒剤やモダフィニルなどの薬剤が使用されることが一般的です。これらの薬剤は、脳内の覚醒システムを活性化し、日中の眠気を抑える効果があります。

周期性四肢運動障害の場合、治療の基本は生活習慣の改善と薬物療法です。鉄欠乏が原因の場合は、鉄剤の補充が行われます。また、抗てんかん薬や抗不安薬が使用されることもあります。これにより、夜間の四肢の不随意運動を抑え、睡眠の質を改善することが期待できるでしょう。

過眠症の治療では、薬物療法だけでなく生活習慣の見直しも重要です。規則正しい睡眠習慣を身につけること、ストレスを軽減すること、適度な運動を取り入れることが推奨されます。また、カフェインやアルコールの摂取を控えることも、睡眠の質を向上させるために有効です。

さらに、心理的なサポートも大切です。過眠症に伴う日常生活の困難やストレスを軽減するために、心理療法やカウンセリングが役立つことがあります。これにより、患者さんがより良い生活を送るための支援が提供されます。

過眠症は長期的な管理が必要な場合が多いため、定期的な医師の診察と治療の見直しが重要です。症状の変化や新たな問題が発生した場合には、適切な対応を行うことが求められます。

過眠症になりやすい人・予防の方法

過眠症になりやすい人

過眠症は遺伝的な要因が関与していることが多く、家族に過眠症やその他の睡眠障害の既往がある場合、そのリスクが高まります。また、ストレスの多い生活環境や不規則な生活習慣も過眠症を引き起こしかねません。特に夜勤や交代制勤務など、不規則な睡眠リズムの人はリスクが高いといえるでしょう。

精神的な健康状態も過眠症に影響を与えることがあります。うつ病や不安障害を抱えている人、甲状腺機能低下症や糖尿病などの内分泌系の異常のある人も過眠症になりやすいです。

予防の方法

まず規則正しい生活習慣を身につけることが重要です。毎日同じ時間に寝起きし、十分な睡眠を確保することが推奨されます。また、適度な運動を取り入れることで、睡眠の質を向上させることができます。ストレスを軽減するために、リラックスする時間を設けることも大切です。

食生活の改善も予防に効果的です。バランスの取れた食事を心がけ、特にビタミンやミネラルを適切に摂取します。カフェインやアルコールの過剰摂取は避け、規則正しい食事時間を守ることが大切です。

また、睡眠環境を整えることも予防に役立ちます。静かで暗い、快適な温度の寝室を作り、良質な寝具を使用することで、睡眠の質を向上させることができます。電子機器の使用を就寝前に控えることも、良い睡眠を促すために有効です。

最後に、過眠症の初期症状に気づいたら、早めに医師の診察を受けることが重要です。適切な診断と治療を受けることで、過眠症の進行を防ぎ、日常生活への影響を最小限に抑えることができます。定期的な健康チェックを受けることも、過眠症の予防に役立ちます。


関連する病気

ナルコレプシー 特発性過眠症

周期性四肢運動障害

参考文献

日本神経治療学会表人的神経治療:不眠・仮眠・概日リズム障害

睡眠障害ガイドライン