パリ五輪での雄姿

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 男子バレーボールがメジャープロスポーツになる日が来るのか。今季から始まる「SVリーグ」の男子開幕戦、サントリーVS大阪B(11日・東京体育館)がゴールデンタイムの民放地上波で生中継される。観戦チケットは1人8万円という最高額の席から完売。その中心にいるのが、新リーグスタートを期に国内で初めてプレーするサントリーの高橋藍(らん)である。まだ23歳だが、パリ五輪ではベスト8に入った日本代表の中心で実力もあり、稼げるアスリートとして俄然、注目を浴びている。

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 その人気は止まるところを知らず、本人のInstagramのフォロワーはまもなく300万人に達する。これまでのバレーボール選手では単なるアイドルアスリートが多かったのも事実だが、高橋は違う。メダル獲得を期待されたパリ五輪ではベスト8に終わったものの、攻守両面での大車輪の活躍だった。「僕は日本が世界に誇れるバレーボールリーグになると思って(日本で)プレーすることを決めました」と本人はこう胸を張る。

パリ五輪での雄姿

足を向けて寝られない

 バレーボールの日本リーグは1967年に誕生した。1964年の東京大会で女子代表「東洋の魔女」が、1972年のミュンヘン大会では男子代表が、そして1976年モントリオール大会では再び女子代表が、五輪でそれぞれ金メダルを獲得したこともあり、競技そのものの人気は高かった。「サッカーJリーグよりも前に何度もバレーボールのプロ化が真剣に検討された」(夕刊紙記者)。サッカーに遅れること1年、1994年にはVリーグを立ち上げたものの、悲願のプロ化は実現しなかった。2016年に「Bリーグ」を発足させたバスケットボールにも先を越された。

 そんな日本バレーボール界が最後のチャンスとして旗を上げるSVリーグが11日に開幕する。男子10、女子14チームによるリーグで構成され、27年まで完全プロ化を目指す。潮目が変わったのが、今年4月だ。世界最高峰のイタリアリーグでプレーしていた高橋がSVリーグに参戦するサントリーに移籍することが決まったのだ。

 この報を聞いたSVリーグ関係者は「足を向けて眠れないくらい」と興奮気味に話した。

「サントリーが提示した契約金が破格でした。年俸などの詳細の数字は出していませんが1年契約で1億円(金額は推定)以上なのは確実です。サントリーのGMは“東京では難しいけど家は2つ買える”と豪語し、一気にリーグへの注目が集まりました」(バレーボール担当記者)。

 バレーボールの国内リーグで1億円を超える年俸など過去にない。所属するサントリーでは自社飲料のCM出演もすでに「内定」している。当然ペイできると踏んだ契約だ。

CM枠にキャンセル待ち

 高橋の加入で勢いづいたSVリーグが極秘裏に進めたプロジェクトが、「開幕戦地上波でのテレビ生中継」の放映権契約だった。

「放映元として先行したのは、バレーボールの国際大会『ネーションズリーグ』を放映していたTBSでした。しかし、最終的には後発だったフジテレビが逆転して男子開幕戦の放映権を獲得したんです」(民放のスポーツ担当ディレクター)。

 フジでは長年、バレーボール中継を行ってきたが、それでもゴールデンタイムでの生中継となると「旧ジャニーズのタレントとコラボしてなんとか中継や観客動員を盛り上げていた」(夕刊紙記者)苦い過去もあった。それが「高橋がいるから必ず“数字”は稼げる」と局全体が結集し、開幕戦の放映権獲得にギアが入った。8月のパリ五輪で、男子代表は48年ぶりのベスト4入りに挑んだ。NHKが生中継したそのイタリア戦(8月5日)は、午後10時開始にも関わらず、平均世帯視聴率23.1%(ビデオリサーチ調べ。関東地区)を叩き出した。これはパリ五輪で日本人出場種目の最高視聴率でもある。

 最近はゴールデンタイムでもCM販売に苦慮するテレビ界だが、「高橋効果」は絶大。開幕戦の「CM枠」もあっというまに完売した。

「SVリーグのスポンサーはもちろんですが、ぜひウチも買いたいとスポンサーがあとをたたなかった」(前出関係者)。

 CM枠にキャンセル待ちが発生するという、まさにバブル時代のような状況が起きた。

「リーグにも、ぜひ男子開幕戦でCMを入れたい。なんとかならないかという問い合わせが殺到しました」(SVリーグ関係者)。

 開幕戦のチケットも最高額の1人8万円から完売。ネットオークションでは17万円まで値が上がったがそれも売れていた。

「チケットがないということは数字(視聴率)も当然期待できる」(別のフジテレビ関係者)。

カズを思い起こさせる

 先月30日には開幕記者会見が都内・虎ノ門ヒルズの最上階・46階で行われた。東京全体が見下ろせる絶景の中で、主役はもちろん高橋だった。

「リーグからは会見の当日まで場所や時間は完全非公開にしてほしいという要望がありました。高橋ファンの出待ちを防止するためだそうで、こんなことは他の競技ではあり得ないです」(夕刊紙記者)。

 日本のスポーツ界では大谷翔平を筆頭に有力選手が海外でプレーすることが当たり前になっている。その結果、放映権料が高騰し、民放はもちろんNHKでさえおいそれとスポーツコンテンツを放映できる状況ではなくなっている。しかし、

「高橋の場合は逆ですからね。人気と実力もある選手が日本で初めてプレーする。加えてバレーボールの放映権料はサッカーなどとは比べものにならないくらい廉価ですから」(民放局関係者)。

 男子開幕戦で高視聴率を叩き出せば他局やNHKも乗り出してくる。「事実、この開幕会見では、フジ以外のカメラクルーも多数集まっていただきました。他局も、いつでも男子バレーが放映できるようにスタンバイしていますと話していました」と、SVリーグはイケイケモードだ。

 思い起こせば、Jリーグ開幕時も、当時ブラジルでプレーしていた「カズ」こと三浦知良が帰国し、ヴェルディ川崎に入団。「サッカーブーム」を巻き起こした。高橋の人気はこれを思い起こさせる。

「地上波で生中継もしてくれるんですから、いいものをお見せします」――。そう語る高橋藍に注目が集まる。

小田義天(おだ・ぎてん) スポーツライター

デイリー新潮編集部