知覚過敏

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監修歯科医師:
木下 裕貴(歯科医師)

北海道大学歯学部卒業。同大学病院にて研修医修了。札幌市内の歯科医院にて副院長・院長を経験。2023年より道内の医療法人の副理事長へ就任。専門はマウスピース矯正だが、一般歯科から歯列矯正・インプラントまで幅広い診療科目に対応できることが強み。『日本床矯正研究会』会員であり小児の矯正にも積極的に取り組んでいる。

知覚過敏の概要

知覚過敏とは、歯が冷たい飲み物や甘いもの、あるいは風などの外的刺激に対して感じる一過性の痛みです。通常、歯はエナメル質という硬い表面によって保護されていますが、様々な理由で内部の象牙質が露出すると刺激が神経に直接伝わりやすくなり知覚過敏を生じます。
知覚過敏は誰にでも起こり得るものであり、特に20代から40代の若年層に多く見られます。知覚過敏の原因には、歯周病や歯ぎしり、過度なブラッシングなどがあり、これらの要因が重なると、象牙質が露出し、知覚過敏が発生しやすいです。
知覚過敏の痛みは一時的なものが多く、通常は刺激がなくなれば痛みも和らぎます。しかし、放置しておくと慢性的な痛みに発展することもあるため、早期の対応が必要です。知覚過敏は生活の質を著しく低下させることがありますが、適切な治療で症状を軽減可能です。
知覚過敏の症状を緩和するには、適切な歯磨き方法や知覚過敏用の歯磨き粉の使用が推奨されます。さらに、歯科医院での専門的な治療を受けることで、症状の改善を図ることが可能です。日常生活での予防策を取り入れることも、知覚過敏の発症リスクを低減するために重要です。

知覚過敏の原因

知覚過敏の原因は多岐にわたりますが、その主な要因は歯のエナメル質の損傷や歯茎の退縮です。エナメル質が薄くなったり、欠けたりすると、内部の象牙質が露出します。象牙質には象牙細管という無数の微細な管があり、これを通じて刺激が歯の神経に伝わるため、痛みや不快感が生じます。

過度な歯磨き

過度な歯磨きはエナメル質を傷つける原因になります。強い力で歯を磨くことや硬い歯ブラシの使用は、エナメル質を摩耗させ、知覚過敏を引き起こします。また、酸性の飲食物を頻繁に摂取することもエナメル質を侵食し、象牙質の露出を促進します。例えば、炭酸飲料や柑橘類の果物は酸性度が高いため、エナメル質を溶かしやすいです。

歯周病

さらに、歯周病も知覚過敏の一因となります。歯周病によって歯茎が退縮し、歯の根元が露出すると、象牙質が直接外部刺激にさらされます。また、歯ぎしりやくいしばりは歯に過度な負担をかけ、エナメル質を傷つけるだけでなく、歯の根元の損傷を引き起こします。

歯の治療

歯の治療は知覚過敏の原因です。例えば、虫歯治療で歯を削ると神経が痛みを感じやすくなり、知覚過敏が発生します。時間が経てば症状はよくなる場合が多いですが、再治療が必要になる可能性もあります。また、矯正治療やホワイトニングも一時的に歯を敏感にすることがあります。

加齢

最後に、加齢も原因の一つです。年齢を重ねるにつれて歯への負担は蓄積していくため、エナメル質が自然に摩耗し、象牙質が露出しやすくなります。これにより、知覚過敏のリスクが高まります。知覚過敏の原因は個々の生活習慣や健康状態によって異なるため、総合的な対策が必要です。

知覚過敏の前兆や初期症状について

知覚過敏の前兆や初期症状は、日常生活の中で様々な形で現れます。以下で具体的な症状を解説します。

冷たいものを食べた時の痛み

冷たい飲み物や食べ物を摂取した際に、一瞬の鋭い痛みを感じることがあります。これは知覚過敏の典型的な症状であり、多くの患者さんが最初に気づくサインです。この痛みは瞬間的であり、刺激がなくなるとともに消えるのが一般的です。

甘いものや酸っぱいものを食べた時の痛み

甘いものや酸っぱいものを食べたときにも、同様の痛みを感じることがあります。特に、砂糖や酸の含まれる食品や飲料は、象牙質に直接刺激を与えるため、痛みを引き起こしやすいです。このような痛みは、虫歯とは異なり、広範囲にわたることが多いです。

歯磨き中の痛み

歯磨き中に痛みを感じるのも知覚過敏の前兆です。特に冷たい水でのうがいや、硬い歯ブラシを使ったときに痛みが増す場合、知覚過敏の可能性が考えられます。歯ブラシが歯茎に触れた際に痛みを感じることもあり、これが歯茎の退縮やエナメル質の摩耗を示している可能性があります。
他にも、歯が浮いたような感覚や、歯がしみる感じがすることも知覚過敏の前兆です。これらの症状は、歯の保護機能が低下しているサインであり、早めの対処が望まれます。
知覚過敏の初期症状は一過性のものである場合が多いため、放置されがちです。しかし、症状が頻繁に現れる場合や、痛みの度合いが強くなってきた場合は注意が必要です。初期段階で適切な対処を行うことで、症状の進行を防ぐことができます。
知覚過敏の前兆や初期症状に気づいた場合は、自己判断せずに歯科医師に相談するのが大切です。専門的な診断と適切な治療を受けることで、症状の改善が期待できます。

知覚過敏の検査・診断

知覚過敏の検査・診断は、問診、視診、感覚検査、レントゲン撮影などを行います。

問診

まず患者さんの症状を詳細に聞き取ります。どのような刺激に対して痛みを感じるのか、痛みの程度や持続時間、どの部位に痛みがあるのかなど、具体的な情報を提供することが重要です。これにより、歯科医師は知覚過敏の可能性を把握しやすくなります。
また、患者さん自身の生活習慣や食事の内容も聞き取ります。例えば、酸性度の高い飲食物を頻繁に摂取している場合や、過度なブラッシングを行っている場合には、これらが知覚過敏の原因となっている可能性があります。

視診

次に、口腔内の視診が行われます。歯科医師は歯や歯茎の状態を直接確認し、エナメル質の損傷や歯茎の退縮、虫歯の有無などをチェックします。視診に加えて、触診も行われることがあります。

感覚検査

冷水や空気を使った感覚検査も一般的な検査方法です。冷水や冷風を直接歯に当てることで、知覚過敏があるかどうかを確認します。知覚過敏の歯は、冷たい刺激に対して瞬時に鋭い痛みを感じることが多いため、診断の補助になります。

レントゲン撮影

さらに、レントゲン撮影が行われることもあります。レントゲンは、歯の内部構造や根の状態、骨の異常を確認するために用いられます。特に虫歯や歯周病が疑われる場合には、レントゲン検査が有効です。これにより、知覚過敏の原因を特定し、適切な治療法を選択することができます。

口内のpHと唾液の測定

また、患者さんの口腔内のpHバランスや唾液の量と質を測定することも重要です。唾液は口腔内の健康を保つために重要な役割を果たしており、唾液の分泌量が少ない場合や、酸性度が高い場合には、エナメル質が侵食されやすくなります。
これらの検査結果をもとに、歯科医師は知覚過敏のリスクを評価し、予防策を提案します。
知覚過敏の検査・診断は、単一の検査だけでは原因を特定するのが難しいことが多いため、複数の検査結果を総合的に判断するのが重要です。適切な診断を受けることで、早期に治療を開始し、知覚過敏の症状を緩和することが可能です。

知覚過敏の治療

知覚過敏の治療は、症状の原因や程度に応じて様々な方法が取られます。以下で具体的な治療内容を解説します。

知覚過敏用の歯磨き粉

日常生活での予防策として、知覚過敏用の歯磨き粉の使用が推奨されます。これらの歯磨き粉は、エナメル質を保護し、歯の神経を鎮静化する成分が含まれているため、痛みを軽減する効果があります。

歯磨き方法の習得

適切な歯磨き方法を習得するのも重要です。強い力で歯を磨くことは避け、柔らかい歯ブラシを使用して優しく磨くように心がけましょう。特に歯と歯茎の境目はデリケートな部分なので、丁寧にケアすることが大切です。また、酸性度の高い飲食物を摂取した後はすぐに歯を磨くのではなく、少し時間を置いてから磨くようにしましょう。これにより、エナメル質が損傷しにくくなります。

フッ化物の塗布

歯科医院での治療方法では、フッ化物の塗布が一般的です。フッ化物はエナメル質を強化し、結果的に象牙質を保護する効果があります。定期的にフッ化物を塗布することで、知覚過敏の症状を緩和することができるでしょう。また、歯の表面に特殊なコーティング材を塗布し、象牙質を物理的に保護する方法もあります。

樹脂による治療

さらに、深刻な知覚過敏の場合には、象牙質の露出部分を樹脂で覆う治療が行われます。この方法は、露出した象牙質を直接カバーして、外部刺激から保護し、痛みを防ぎます。この場合、歯の内部の神経を除去し、痛みの原因を根本的に取り除く治療が行われます。

生活習慣の改善

生活習慣の改善も治療のひとつです。例えば、歯ぎしりやくいしばりが知覚過敏の原因となっている場合には、ナイトガードの使用が勧められます。ナイトガードは就寝時に装着することで、歯への負担を軽減し、エナメル質の摩耗を防ぐ効果があります。
知覚過敏の治療は継続的なケアが必要です。定期的に歯科医院での検診を受け、自分の歯の状態を確認しましょう。また、日常生活での予防策を継続することで、知覚過敏の再発を防ぎ、健康な歯を保つことができます。

知覚過敏になりやすい人・予防の方法

知覚過敏になりやすい人には、いくつかの共通点があります。それぞれ具体的に解説します。

歯ぎしりや食いしばり癖がある人

歯ぎしりやくいしばりの癖がある人は、歯に過度な負担をかけるため、エナメル質が摩耗しやすくなります。これにより、象牙質が露出し、知覚過敏のリスクが高まります。また、強い力で歯を磨く習慣がある人も、エナメル質を傷つけることが多いため、注意が必要です。

酸性度の高い飲食物を頻繁に摂取する人

酸性度の高い飲食物を頻繁に摂取する人も知覚過敏になりやすいです。例えば、炭酸飲料や果物ジュース、酢を使った料理などは、エナメル質を侵食しやすくします。これらの飲食物を過度に摂取すると、歯の表面が弱くなり、知覚過敏の原因となります。

歯周病

や歯肉退縮がある
さらに、歯周病や歯肉退縮がある人も知覚過敏のリスクが高いです。歯周病は歯茎を後退させ、歯の根元を露出させるため、象牙質が直接外部刺激にさらされます。この状態は、知覚過敏を引き起こしやすいです。また、年齢を重ねると自然にエナメル質が薄くなり、知覚過敏が発生しやすくなります。

予防の方法(適切な歯磨き習慣を身に着ける)

まず適切な歯磨き習慣を身につけることが重要です。柔らかい歯ブラシを使用し、優しく磨くように心がけましょう。歯と歯茎の境目も丁寧に磨くのが大切です。また、知覚過敏用の歯磨き粉を使用することで、症状の予防や軽減が期待できます。

予防の方法(食生活の改善)

食生活の改善も効果的です。酸性度の高い飲食物を控え、バランスの良い食事を心がけましょう。また、飲食後にすぐに歯を磨くのではなく、水で口をすすいでから少し時間を置いて磨くのがエナメル質を保護するために有効です。

予防の方法(定期的な歯科検診)

定期的な歯科検診も欠かせません。歯科医師による歯のクリーニングやフッ化物の塗布は、エナメル質を強化し、知覚過敏の予防に役立ちます。歯周病や歯肉退縮の早期発見・治療も、知覚過敏を防ぐために重要です。

ストレス管理

ストレス管理も忘れずに行いましょう。ストレスが原因で歯ぎしりやくいしばりが起こることが多いため、リラックスする時間を持つのが大切です。ナイトガードの使用も、歯への負担を軽減するために有効です。
知覚過敏の予防には、日常生活の中でのちょっとした工夫が効果的です。適切な歯のケアや健康的な生活習慣を維持することで、知覚過敏のリスクを低減し、快適な口腔環境を保つことができます。


関連する病気

歯周病 歯ぎしり 虫歯

矯正治療

歯肉退縮

参考文献

日本歯科医師会知覚過敏

神奈川県歯科医師会

硝酸カリウム配合歯磨剤による象牙質知覚過敏抑制効果

歯痛の臨床診断推論

重度の咬耗による審美障害を全顎的な歯冠補綴治療で改善を図った一症例

神奈川県歯科医師会