【何観る週末シネマ】プラシャーント・ヴァルマ・シネマティック・ユニバース始動!『ハヌ・マン』
この週末、何を観よう……。映画ライターのバフィー吉川が推したい1本をピックアップ。おすすめポイントともにご紹介します。今回ご紹介するのは、現在公開されている『ハヌ・マン』。気になった方はぜひ劇場へ。
【写真】インドカルチャーとアメコミの融合、『ハヌ・マン』
〇ストーリー
青年ハヌマントゥは、姉アンジャンマと山奥の小さな村に住んでいた。気の強い姉の後ろに隠れて何の役にも立たない彼は、村の男たちに暫し小馬鹿にされていたが、ある日幼馴染のミーナークシを助けようとして海に転落し、そこで不思議な力を持つ宝石を手にする。その石はある条件下で彼を無敵のスーパーヒーローに変えることが分かるが、邪悪な組織がそれを狙いにハヌマントゥのもとへやってくる…!
〇おすすめポイント
インドでは、アメコミ自体がある程度流通しており、2000年代後半からリキッド・コミックス(旧ヴァージン・コミックス)が、アメリカのコミック界で活躍する作家をそのまま起用して作品を制作するなど、インド産グラフィックノベルに力を入れていた。それに加えて、サム・ライミ版「スパイダーマン」シリーズなどのアメコミ映画が人気を博し、その後MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)全盛期に突入するなどもあって、アメコミというものが身近にある環境で育った大人たちがそこら中にいる。
そのため、インドカルチャーとアメコミを融合させる動きは、今や当たり前となってきている。オマージュ程度の要素であれば、それは数え切れないのだが、ガッツリと表に出した作品というのは、まだまだ発展途上といったところ。
ヒンディー語映画としては『プラフマーストラ』や『クリッシュ』、『ゾッコモン』など、いくつか制作されているが、南インドにおいては、まだそれほど数が無いなかで、『ハヌ・マン』は、まさにその象徴的な作品といえるだろう。
そんな今作は、テルグ語映画界で頭角を表している若手監督プラシャーント・ヴァルマによる、ヒンドゥー神話×アメコミヒーロー&ファンタジーの融合を目指したPVCU(プラシャーント・ヴァルマ・シネマティック・ユニバース)の第一弾。
すでに第2弾となる『Adhira』が制作中であり、2025年には今作の直接的な続編『Jai Hanuman』も公開予定と、計画通りに行くかは微妙なところではあるが、かなり急ピッチで進められている企画だ。ちなみに『Jai Hanuman』では、『RRR』でラーマ神の精神を宿すかのような演出があったラーム・チャランが、本当にラーマ神を演じるともいわれていたりもする。
プラシャーントは、長年この企画を温めており、それは『ショーン・オブ・ザ・デッド』(2004)とテルグ語映画の名作『Samarasimha Reddy』(1999)を融合させた『Zombie Reddy』(2021)などを観てもわかるはずだ。同作のクライマックスで主人公マリオがガダ(ヒンドゥー神話においてハヌマーンやヴィシュヌなどが使用するハンマーみたいな武器)を持って闘うシーンがあるが、これは『ハヌ・マン』のメインビジュアルと完全に一致する。
『Zombie Reddy』にもアメコミ要素が散りばめられており、全体的な世界観を見ても、プラシャーント自身が、アメコミや洋ゲー、ジャンルホラーファンであることは間違いない。
またクリストファー・ノーランをリスペクトしており、脚本を務めた『Adbhutham』(2021)は、『インターステラー』(2014)の影響をかなり受けているといえる。完全なる海外カルチャーオタクなのだ。
さて今作を観てみると、さっそく冒頭から「スパイダーマン」や「バットマン」のオマージュが含まれているし、全体的な構成としては、実際に「スーパーマン」に対しての言及シーンもあるように、スーパーマン(クラーク・ケント)とレックス・ルーサーの因縁関係が下敷きにあるようにも感じる。つまり、力を持つ者と、力を追い求める者の対立構造。ヒーローが存在するからヴィランが誕生するといった、ヒーローコミック哲学の王道を突っ走っているのだ。
大衆向けというか、あくまでファミリー層をターゲットとしていることから、複雑な構成はほとんどなく、わかりやすいストーリーとなっているがユニバース化を見越しての接続ネタが所々に散りばめられているため、今作でだけで解決されない謎もいくつかあったりする。
そして忘れてはならないのは、今作の主演を務めるテージャ・サッジャーの存在だ。プラシャーントの作品には欠かせない出演者であり、良き理解者である。『ハヌ・マン』のキャラクター構築も、テージャの存在があったからこそだ。
(C)2023 RKD Studios & Primeshow Entertainment. All Rights Reserved
〇作品情報
英題:Hanu-Man
上映時間:158分
配給:ツイン
監督:プラシャーント・ヴァルマ
出演:テージャ・サッジャー、アムリタ・アイヤル、ヴァララクシュミ・サラトクマールほか
10.4(金)新宿ピカデリー他にて全国ロードショー!
【あわせて読む】【何観る週末シネマ】ホラーファンを唸らせてきたブルームクイスト・ブラザーズ作品がついに日本で劇場公開
【写真】インドカルチャーとアメコミの融合、『ハヌ・マン』
〇ストーリー
青年ハヌマントゥは、姉アンジャンマと山奥の小さな村に住んでいた。気の強い姉の後ろに隠れて何の役にも立たない彼は、村の男たちに暫し小馬鹿にされていたが、ある日幼馴染のミーナークシを助けようとして海に転落し、そこで不思議な力を持つ宝石を手にする。その石はある条件下で彼を無敵のスーパーヒーローに変えることが分かるが、邪悪な組織がそれを狙いにハヌマントゥのもとへやってくる…!
インドでは、アメコミ自体がある程度流通しており、2000年代後半からリキッド・コミックス(旧ヴァージン・コミックス)が、アメリカのコミック界で活躍する作家をそのまま起用して作品を制作するなど、インド産グラフィックノベルに力を入れていた。それに加えて、サム・ライミ版「スパイダーマン」シリーズなどのアメコミ映画が人気を博し、その後MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)全盛期に突入するなどもあって、アメコミというものが身近にある環境で育った大人たちがそこら中にいる。
そのため、インドカルチャーとアメコミを融合させる動きは、今や当たり前となってきている。オマージュ程度の要素であれば、それは数え切れないのだが、ガッツリと表に出した作品というのは、まだまだ発展途上といったところ。
ヒンディー語映画としては『プラフマーストラ』や『クリッシュ』、『ゾッコモン』など、いくつか制作されているが、南インドにおいては、まだそれほど数が無いなかで、『ハヌ・マン』は、まさにその象徴的な作品といえるだろう。
そんな今作は、テルグ語映画界で頭角を表している若手監督プラシャーント・ヴァルマによる、ヒンドゥー神話×アメコミヒーロー&ファンタジーの融合を目指したPVCU(プラシャーント・ヴァルマ・シネマティック・ユニバース)の第一弾。
すでに第2弾となる『Adhira』が制作中であり、2025年には今作の直接的な続編『Jai Hanuman』も公開予定と、計画通りに行くかは微妙なところではあるが、かなり急ピッチで進められている企画だ。ちなみに『Jai Hanuman』では、『RRR』でラーマ神の精神を宿すかのような演出があったラーム・チャランが、本当にラーマ神を演じるともいわれていたりもする。
プラシャーントは、長年この企画を温めており、それは『ショーン・オブ・ザ・デッド』(2004)とテルグ語映画の名作『Samarasimha Reddy』(1999)を融合させた『Zombie Reddy』(2021)などを観てもわかるはずだ。同作のクライマックスで主人公マリオがガダ(ヒンドゥー神話においてハヌマーンやヴィシュヌなどが使用するハンマーみたいな武器)を持って闘うシーンがあるが、これは『ハヌ・マン』のメインビジュアルと完全に一致する。
『Zombie Reddy』にもアメコミ要素が散りばめられており、全体的な世界観を見ても、プラシャーント自身が、アメコミや洋ゲー、ジャンルホラーファンであることは間違いない。
またクリストファー・ノーランをリスペクトしており、脚本を務めた『Adbhutham』(2021)は、『インターステラー』(2014)の影響をかなり受けているといえる。完全なる海外カルチャーオタクなのだ。
さて今作を観てみると、さっそく冒頭から「スパイダーマン」や「バットマン」のオマージュが含まれているし、全体的な構成としては、実際に「スーパーマン」に対しての言及シーンもあるように、スーパーマン(クラーク・ケント)とレックス・ルーサーの因縁関係が下敷きにあるようにも感じる。つまり、力を持つ者と、力を追い求める者の対立構造。ヒーローが存在するからヴィランが誕生するといった、ヒーローコミック哲学の王道を突っ走っているのだ。
大衆向けというか、あくまでファミリー層をターゲットとしていることから、複雑な構成はほとんどなく、わかりやすいストーリーとなっているがユニバース化を見越しての接続ネタが所々に散りばめられているため、今作でだけで解決されない謎もいくつかあったりする。
そして忘れてはならないのは、今作の主演を務めるテージャ・サッジャーの存在だ。プラシャーントの作品には欠かせない出演者であり、良き理解者である。『ハヌ・マン』のキャラクター構築も、テージャの存在があったからこそだ。
(C)2023 RKD Studios & Primeshow Entertainment. All Rights Reserved
〇作品情報
英題:Hanu-Man
上映時間:158分
配給:ツイン
監督:プラシャーント・ヴァルマ
出演:テージャ・サッジャー、アムリタ・アイヤル、ヴァララクシュミ・サラトクマールほか
10.4(金)新宿ピカデリー他にて全国ロードショー!
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