パレスチナの武装勢力であるハマスがイスラエル南部を奇襲攻撃して始まった「ガザ地区戦争」が7日で1年となった。イスラエルはハマス幹部のイスマイル・ハニヤ氏を除去するなどハマスの勢力をほぼ壊滅させた。ガザ戦争の渦中に多くのパレスチナの民間人も犠牲になった。

米国など国際社会は休戦を促しているが、イスラエルのネタニヤフ首相はむしろレバノンの武装勢力ヒズボラとイエメンのフーシ派を狙った戦争拡大に突き進んでいる。ハマスの奇襲攻撃を防げなかった政治的責任を回避しようとする彼の政治的計算が作用したと解釈される。イスラエルが大々的な空爆でヒズボラ指導者のナスララ氏を除去すると、イランが4月に続き200発のミサイルをイスラエルに発射し、イスラエルとイランの全面戦争の懸念も提起されている。

ガザ戦争は1カ月も残っていない米大統領選挙でも熱い争点だ。大統領選挙激戦区であるミシガン州で相当数のムスリム有権者が民主党支持撤回の動きを見せると、バイデン大統領とハリス副大統領は彼らの票を得るためガザ戦争休戦と戦争拡大防止を叫んでいる。

しかしイスラエルの宿敵イランと核合意(JCPOA)を結んだ民主党をネタニヤフ政権は政治的に助けなさそうだ。ネタニヤフ氏はイラン核合意から離脱し、駐イスラエル米国大使館をイスラムの反対にも大統領在任中にエルサレムに移したトランプ氏にさらに友好的だ。

ネタニヤフ氏はガザ戦争の休戦どころか戦争拡大に拡大を重ねる局面だ。ネタニヤフ氏はイラン中心の「抵抗の枢軸」と呼ばれる反イスラエル勢力を押し倒し、これを機に中東の勢力バランスを根本的に変えようとする態勢だ。反イスラエル勢力を抜本的に根絶するという意図がみられる。

もしイスラエルがイランの原油・ガス生産設備や核施設を爆撃してもイランは自制するだろうか。穏健派のペゼシュキアン大統領が米国など西側との関係改善を試みながら経済制裁解除を狙うイランのジレンマだ。だが孤立主義性向のトランプ2期政権が発足しても米国の中東政策が現在のように維持されるのは難しいだろう。もしネタニヤフ氏の計算通りにさらに悪化した中東情勢が有利に作用しトランプ氏が超接戦状況で勝利するならば世界的にバタフライ効果は手のほどこしようもなくなるだろう。

ロシアとどうにか戦っているウクライナは、もしかしたら休戦を強要される境遇に追いやられることもあるだろう。韓半島(朝鮮半島)でもトランプ氏は金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長との良好な関係を継続し、北朝鮮と核をめぐる駆け引きをしたり在韓米軍撤退論を再び提起するかも知れない。北朝鮮はかなり前から中東の反米諸国やテロ組織と陰に陽に連係してきた。

数千キロメートル離れた中東で進行中の戦争は対岸の火事ではない。もしイスラエルとイランの全面戦争が起きれば原油を全量輸入に依存する韓国経済に原油価格急騰などの暗雲が再び押し寄せることになりかねない。実際に2022年2月のロシアのウクライナ侵攻に続きガザ戦争により世界的に供給網が混乱し食品物価にも悪影響を与えた。

フーシ派がハマスを助けるとしてスエズ運河を利用する商船を威嚇して攻撃しており物流大乱はさらに悪化しかねない。レバノンに派兵された韓国の東明部隊、ソマリア海域で活躍する清海部隊、アラブ首長国連邦(UAE)にいるアーク部隊など、海外派兵部隊と在住韓国人の安全にも政府は万全を期さなければならないだろう。

国際政治的に敏感な問題も潜んでいる。米国と欧州連合(EU)、英国、日本など国際社会がすでに長く実施しているヒズボラ、ハマス、フーシ派に対する経済制裁措置に韓国政府はまだ参加していない。中東戦争が拡大する場合、「国際的責任を全うせよ」という圧力が生じるかもしれない。

韓国の防衛産業の成果は国益に多いに役立つことは事実で意味も大きい。ただ韓国が輸出した先端武器をはじめとする防衛産業装備を交戦勢力の一方が使う場合、倫理論争に巻き込まれる懸念もある。韓国政府と防衛産業企業の細心な備えが必要だ。世界的中枢国を指向する尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権にガザ戦争1周年と中東の戦争拡大危機はまた別の外交試験台となる格好だ。

シン・ドンチャン/法務法人栗村弁護士

◇外部執筆者のコラムは中央日報の編集方針と異なる場合があります。