総裁選で存在感を示した高市早苗氏

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「石破氏、逆転勝利」と同じくらい、いや、SNS上ではそれを凌ぐほど「高市氏はなぜ敗れたのか」について多くの人々がコメントを寄せている──。議員票72、党員票109、合計181票で高市早苗氏が第1位。9月27日の自民党総裁選で、第1回目の投票結果が発表された瞬間、誰もがこう思っただろう。このまま決選投票で高市氏が新総裁に選ばれ、第102代の内閣総理大臣に指名される、と。しかし、結末は違った。

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【写真】「わぁ、こんなにきれいな人がこの世にいるのか!」 総裁選に勝利した石破総理は慶大時代、妻・佳子さんにひとめぼれしたという

 決選投票は国会議員の場合、2回目の投票を行う。党員票は都道府県ごとに2氏の順位を比較し、得票の多い候補に1票を与える。

総裁選で存在感を示した高市早苗氏

 高市氏の議員票は173だったのに対し、石破茂氏は189で逆転。都道府県票も高市氏は東京、愛知、大阪、広島、福岡など都市部で強さを見せて21都府県を抑えたが、石破氏が26道県で上回った。

 この結果を日刊スポーツ(電子版)は「大逆転負け」と報じた(註)。あまりにも劇的な高市氏の敗北に、強い関心を示す国民は多かった。ならば高市氏のことを翌日の朝刊はどう伝えたのだろうか。28日の朝日、読売、毎日、産経、そして東京の紙面を比較してみると、意外なことが分かった。担当記者が言う。

「私も比較して初めて把握したのですが、新聞各紙では想像した以上に『高市氏が』という主語で始まる見出しや記事の数が少なく、意外な印象を受けました。もちろん総裁選の勝者は石破さんですから、紙面の多くを割くのは当然です。とはいえ、読者の関心の高さを考えれば、勝利に手が届きかけていた高市氏のことを各紙が大きく扱うのはむしろ自然に思っていました。ところが実際は全く違っていたのです」

高市氏が登場しない敗因記事

 具体的に見てみよう。トップバッターは毎日新聞だ。3面「クローズアップ」のコーナーで、「自民総裁選 石破氏、薄氷の逆転劇」との記事を掲載した。

 見出しにある通り、記事の前半は石破氏の勝因に焦点を合わせた。後半で高市氏の敗因を詳報していくのだが、不思議なことに“主役”は高市氏ではない。

「毎日新聞の記事は、麻生太郎氏の動きを詳報したのです。記事によると、麻生派が応援していた河野太郎氏は9人の立候補者のうち8位と惨敗。保険として考えていた小林鷹之氏も上川陽子氏も決選投票に進めず、《「窮余の策」として浮上したのが高市支持》だったそうです。その後も麻生氏が石破氏を嫌っていたことや、安倍派が高市氏を支持したことに触れるだけで、高市さんがどう総裁選を戦い、どう破れたのかということにはほとんど触れていませんでした」(同・記者)

 読売新聞も3面「スキャナー」のコーナーに「『反高市』票 流れる 石破新総裁 決選 岸田・菅氏が支持」との記事を掲載した。

 見出しから明白だが、こちらも高市氏の選挙戦に焦点を絞った記事ではない。麻生氏、岸田文雄氏、そして菅義偉氏の動きに注目している。

 記事の冒頭部分は興味深い。《自民党総裁選の決選投票で、石破茂・元幹事長は、党内随一のタカ派である高市経済安全保障相の政策を懸念する議員から支持を集め、逆転勝利をたぐり寄せた》という書き出しだった。

産経新聞の不思議な紙面

「読売新聞の記事でも麻生さんの動きが詳報されています。とりわけ、総裁選前日の9月26日に岸田さんと麻生さんが電話で話した内容を詳細に伝えた部分には迫力がありました。麻生さんが岸田さんに対し、高市氏支持への協力を要請し、それを岸田さんが断った理由や背景がしっかりと伝えられており、興味深い内容ではあります。とはいえ、毎日も読売も記事の関心は“キングメーカー”の動きに向けられており、それに取材力を投下して記事を作ったことが分かります」(同・記者)

 それでは保守色の強い産経新聞の紙面はどうだっただろうか。こちらは2つの記事が目を惹く。

 1本目は「石破氏、首相支持追い風 高市氏、岸田路線否定で失速」で、2本目は「響いた誤算 高市氏、保守票獲得も惜敗」だ。共に高市氏の名前が主語として機能している。

「1本目は高市さんの人気が急上昇し、岸田さんが強い懸念を示したという内容でした。《防衛力強化のための増税などに反対する高市氏の言動は岸田路線の否定と映った》ことから岸田さんは石破さんの支持を決めたそうです。2本目はリーフレットの郵送問題が尾を引いた可能性があるとした上で、高市さんの善戦を讃えるというものでした。ただ劇的な敗者である高市さんの選挙戦に肉薄したような描写は皆無でした」(同・記者)

敗北を詳報した意外な新聞社

 そして、意外や意外、「高市早苗、かく敗れり」をしっかりとした取材で記事にしたのは朝日新聞だった。「高市氏、ネットとリアルのどぶ板 保守層基盤、党員票積み上げ 自民総裁選」という見出しで報じた。

「記事は冒頭で《善戦の理由は何だったのか》、《初の女性首相誕生まで、あと少しだった》と書き、高市さんの敗因を真正面から報じる姿勢を明確にしました。この記事で興味深かったのは、高市さんの選挙戦は、ネットをはじめとする“空中戦”で保守的な主張が支持を集めただけでなく、実は地道な地方遊説を積み重ねて党員票を掘り起こしていたことを明らかにしたところです」(同・記者)

 記事を実際に見てみよう。まず“空中戦”について触れた部分でも興味深い事実を明らかにしている。なぜネットで高市氏が人気を得たのか、その理由を朝日は次のように伝えた。

《陣営関係者は、7月の東京都知事選で165万票以上を獲得し、2位に食い込んだ石丸伸二・前広島県安芸高田市長を支援した民間スタッフ約50人が、SNS上での拡散に寄与したと明かす》

 実際、高市氏はネット戦略で他候補を大きくリードしていた。しかし、それだけではない。リアルな《どぶ板選挙》にも力を注いでいたという。

東京新聞の記事

《高市氏側は総裁選を見越し、地方票の掘り起こし戦略を検討。その一環として毎週末、各地の講演会に出向いた。保守系の運動団体「日本会議」と連携する地方議員たちも支援に回った。日本会議地方議員連盟の議員らが中心となり、全国各地の地方議員約1千人分の名簿獲得に奔走した》

 日本会議の名前が出てくるのも興味深い。他にも他候補がリベラルな政策をアピールしたことも、高市氏が保守票を獲得する追い風になったと指摘した。石破氏は女系天皇に理解を示し、小泉進次郎氏は選択的夫婦別姓を肯定的に言及した。

 ダメ押しになった可能性があるのは中国の動きだ。中国軍機が領空侵犯を行い、広東省では日本人男児が殺害された。対中強行派の高市氏に期待が集まったのだ。

 この記事のラストも印象に残る。朝日新聞は「党員の強い支持を受け、高市氏が急伸したことが皮肉にも敗因となった」と指摘した。

《「高市氏が首相になれば、戦後の外交・経済が全部ふっとぶ」(党幹部)との危機感をあおることにもなり、僅差(きんさ)での敗北につながった可能性がある》

「東京新聞も『「選挙の顔」 集票期待で逆転 高市氏、保守層支えに肉薄』との記事を掲載しました。やはり高市氏を主語にした記事を掲載し、読者の関心に応えようとしていました。読売や産経と比べても、紙面の主張が高市さんとは異なる朝日が、彼女の“善戦”と“敗因”を真正面から報じて、選挙戦をしっかりと総括した点は非常に興味深いです」(同・記者)

註:高市早苗氏は大逆転負け 初の女性総理は消滅 表情変えず口を真一文字…石破新総裁への拍手の中(日刊スポーツ電子版:9月27日)

デイリー新潮編集部