「官製バブル」の上海株急騰、「大学卒業規制」で失業率改善!…ごまかしても覆い隠せない、習近平「中国経済」のひどすぎる惨状!

写真拡大 (全2枚)

危険な賭け、官製バブル

一般的に株価は景気のバロメーターであるとよくいわれている。要するに、株価と景気動向が多少のタイムラグがあっても、基本的に連動して動くものということである。だからこそアナリストが株価の動きを予測するときに、必ず上場企業の業績や市場の需給バランスと経済のファンダメンタルズをみて判断する。

中国経済の動きをみると、明らかに下り坂を辿っている。3年間のコロナ禍(2020〜22年)は中国経済に深刻な影を落としており、投資と消費のいずれもさえない状況にある。中国経済にとって外需が決定的に重要だが、アメリカ政府によって厳しく制裁されている。中国経済の新たなけん引役として期待されている電気自動車(EV)についてもアメリカ政府は100%の制裁関税をすでに発動している。

こうした状況において、上海株価総合指数は突如として急騰している。

そのきっかけは中国人民銀行(中央銀行)が実施した金融緩和政策だった。今回の金融緩和は公開市場操作、具体的に国債を購入することによって金融市場に1兆元以上(20兆円以上)の流動性を供給した。中国株式市場の特徴の一つは機関投資家が弱小という点である。

多くの個人投資家は足元の株価の動きをみて売買を決めている。突然、巨額の流動性が入場してきたので、株価は買いが買いを読んでみるみるうちに、株価は大きく上昇するようになった。しかし、今回の株高は官製バブルであり、危険な賭けである。

中国経済のファンダメンタルズ

2022年12月、習近平政権は突如として厳しいロックダウンを伴うゼロコロナ政策を取りやめ、コロナ禍が終息した。それを受けて、市場では、中国経済はV字型回復するだろうと期待されていた。しかし、2023年の中国経済は力強い回復がみられず、消費が委縮して、不動産バブルが崩壊した。中国経済はデフレに突入したのである。

むろん、中国政府が発表している公式統計では、中国経済の減速を必ずしも確認できない。2023年、中国の実質GDP伸び率は5.2%成長したといわれている。この統計は明らかに実績を過大評価したものといわざるを得ない。

米国シンクタンクのラジウムグループの推計によると、2023年、中国経済の実際の成長率は1.5%程度といわれている。この推計は中国の貿易収支、消費と投資を検証して得られた結論である。個人的な体感温度とぴったり合致するものである。

中国政府が発表した2023年6月の若年層失業率は21.3%だった。それ以降、同統計の発表を中止した。若者の雇用が改善されていれば、その統計を中止する必要はなかったはずである。それから半年経って、同統計の発表が再開され、2023年12月の若年層失業率は14.9%と改善したようにみえる。中国国家統計局の説明によれば、在校生の失業をカウントしないことにしたから数字が小さくなったといわれている。正直にいうと、意味不明な説明であるといわざるを得ない。

若年層失業率統計がなぜ下がったかについて述べる前に、中国経済のファンダメンタルズについて述べておこう。

SNSの情報を集計して得られた結論をいうと、3年間のコロナ禍により、約400万社の中小零細企業が倒産したとみられている。今年に入って新たに100万店の飲食店が閉店した。中小企業セクターはもっとも雇用に寄与するもので、これだけの中小企業が倒産したため、若者の雇用は超氷河期に入ったのである。雇用が悪化した結果、消費者の消費性向(消費÷可処分所得)が下がってしまった。反対に一般家計の貯蓄性向が上昇し貯蓄率が上がった。こうしたなかで不動産バブルが崩壊したので、安心して投資できる金融商品が少ない。

出口を失った巨額の家計の金融資産は官製バブルに飛びつく形で株式投資を増額して資産バブルとなった。では、なぜ政府は官製バブルを作り上げたのだろうか。株価が低迷したままだと、政府にとって不都合な問題が生じている。というのは年金を含む社会保障基金の証券投資が利益を上げられず、困った状況に陥った。それは中国は日本以上に高齢化のスピードが速いからである。

最近では、中国政府はやむを得ず会社員の定年延長を決定した。定年を延長したことで今年から年金を授受する世代の実際の授受は3~5年後になり、年金のひっ迫がいくらか緩和された。それでも、地方債務問題により年金ファンドが枯渇しそうな地方が多い。今回の官製バブルにより一部の地方の年金ファンドに余裕が出てくる可能性があると期待されている。

若年層失業率統計のカラクリ

では、どのようにして若年層失業率が低下するようなったのだろうか。

実際の統計の作りを覗きにいくことができないため、大学と大学院卒業生の卒業手続きをみれば、かなり実態を判明することができる。大まかなトレンドとして、一流大学卒業生の就職率が高いが、三流、四流大学に行けばいくほどその卒業生の就職率が低くなる。仮に一流大学から五流大学までその卒業生の就職率を並べると、中位の三流大学卒業生の就職率は40〜50%程度とみられている。しかし、その実態が統計上に現れにくい。

中国の大学と大学院生は毎年6月に卒業するが、卒業の3か月前に、大学当局は卒業生に就職先企業との雇用契約書コピーの提出を求めている。一部の大学は雇用契約書コピーを提出しないと、学位証書(学位記)を交付されない可能性があると暗に示唆する。むろん、これは中国では規則違反の行為である。中国の大学には各学年の同じ専門ごとにクラス分けしており、それぞれのクラスに担任の先生を派遣している。これらの担任先生は学生たちの学習などを管理する役割である。卒業生に雇用契約書コピーの提出を求めるのはこれらの担任の先生である。ある担任先生の証言によると、学長から1学年の失業率が10%以下に抑えないといけないとノルマが課せられているといわれている。

2024年7月に大学・大学院卒業生は1176万人にのぼり、実際に内定をもらったのは全体の48%程度といわれている。どのように頑張っても、10%以下の失業率という目標を達成することができない。では、どのようにこの厳しい目標を達成したのだろうか。

実際に証言した卒業生によれば、雇用契約書コピーの提出を厳しく求められ、就職先が見つかっていないため、仕方なくSNSで雇用契約書を有償で交わしてくれる会社に頼んで、300元(約6000円)を払ってそのコピーを入手して、担任の先生に提出した。この雇用契約書コピーの提出で当該学生は失業者とカウントされなくなった。大学と担任の先生にとってもこれでよかったという結果になる。しかし、仮にこの失業率統計に基づいて経済政策が決定されていれば、おそらく間違った政策になってしまうのだろう。

結論的に、目下、上海の株価は急騰しているが、それはマクロ経済ファンダメンタルズが改善されているからではなく、官製バブル、すなわち、政府によるマネーゲームに過ぎない。上場企業の業績改善のないマネーゲームはゼロサムゲームであるため、そのバブルがクラッシュしたとき、不動産バブル崩壊と重なって、想像以上のマグニチュードの衝撃になるだろう。かつて、中国でもっとも権威のあるエコノミストで国務院発展研究中心の研究員だった呉敬蓮氏は「中国の株式市場は賭博場」と警鐘を鳴らしたことがある。

中国人は貯蓄が好きである点について日本人とよく似ているが、日本人はお金を貯めても、リターンを求めないのに対して、中国人はリターンを求める傾向が強い。しかし、リスクをみずにしてリターンを求めるのは自殺行為であるとここで戒めておこう。

いま中国で若者の長江への身投げが止まらない〜崩れても「壊れ」は押さえ込む「ステルス経済恐慌」の深層