(PERFECT DIARY、BYD公式サイトよりそれぞれ引用)

なにわ男子の道枝駿佑さんが、中国のコスメブランド・PERFECT DIARY(パーフェクトダイアリー、完美日記)のアンバサダーに就任し、テレビCMが始まった。

今年4月には中国大手自動車のBYDが長澤まさみさんをテレビCMで起用し、話題となったことも記憶に新しい。日本に進出した中国ブランドが大物タレントを起用し、CMを打つのはなぜなのか。その狙いと効果を、データや有識者の解説から分析した。

8月26日、中国のコスメメーカーのパーフェクトダイアリーが道枝さんをブランドアンバサダーに起用すると発表した。

畳みかけるように化粧品口コミサイト@cosmeのポップアップストアで期間限定イベントを行い、道枝さんのテレビCMも9月24日から始まった。CMは30日まで渋谷スクランブル交差点のスクリーンでも放映された。

Z世代から人気「PERFECT DIARY」

パーフェクトダイアリーは中国の逸仙電商(ヤッセン・ホールディング)が2017年に立ち上げたブランドだ。

中国では2010年代後半、Z世代女性をターゲットに、SNSマーケティングを駆使してECで売り上げを伸ばすブランドがいくつも現れたが、パーフェクトダイアリーはその代表的存在でもある。

中国版インスタグラム「小紅書(RED)」でファン基盤を構築し、2019年に中国最大のネットセール「独身の日(ダブルイレブン)」で、それまで日本や欧州のブランドが上位を独占していたコスメカテゴリーの販売トップに立った。2020年11月には逸仙電商がニューヨーク証券取引所に上場した。

日本に上陸したのは2022年7月。中国風メイク「チャイボーグ」の流行に乗ってそれなりに話題になったが、その後は動向が聞こえてこなかった。

運営会社の逸仙電商の業績は低迷している。2024年1〜6月の売上高は前年同期比3.45%減の15億6800万元、純損益は2億300万元の赤字。中国の6月のネットセールの戦績も振るわず、ピーク時の95%以上下落している。

消費低迷を受け、中国の化粧品市場も成長が減速しており、パーフェクトダイアリーは日本市場のテコ入れ策として道枝さんを起用したようだ。


PERFECT DIARYの公式アンバサダーに就任した道枝さん(写真:同社公式Xより引用)

電通での中国駐在を経て、TikTokを運営するバイトダンスの日本法人で副社長を務めた西田真樹さんは、パーフェクトダイアリーの道枝さん起用について、「新しい市場で認知や好意度をゼロから獲得する際は、有名タレントの起用が効率的。化粧品ブランドは主なユーザーである女性にSNSで訴求するため、女性ファンの多い男性タレントを起用する流れが強まっている」と分析する。「なにわ男子が中国で人気が高いので、中国本社の理解を得られやすかったのでは」とも見る。

インスタは1万2000フォロワー獲得

道枝さん起用の効果はどれほどなのか。SNS分析を手掛けるユーザーローカルに、パーフェクトダイアリーのX(旧Twitter)とインスタグラムのアカウントを解析してもらった。

まずXを見てみよう。8月23日まで約2万人だったフォロワーが、道枝さんのアンバサダー就任発表日に3000人以上増えている。Xアカウントはその後も道枝さん関連の投稿を連投し、CM放映を開始した9月24日、翌25日の2日間で80人近くのフォロワーを獲得した。9月25日時点でフォロワーは2万6798人になった。


(図:ユーザーローカル作成)

インスタグラムのアカウントのフォロワーは8月25日に1万7500人に届かなかったのが、アンバサダー就任発表から3日で5000人近く増え、9月25日に2万9310人になった。1カ月で約1万2000人のフォロワーを獲得しており、Xより道枝さん効果が現れている。


(図:ユーザーローカル作成)

ちなみにインスタアカウントは8月中旬にそれまでの約600投稿を全削除しており、道枝さんを押し出す意図が強くうかがえる。

中国ブランドのCMでは、長澤まさみさんを起用したBYD(比亜迪)も話題になった。

運用型テレビCMサービスを展開するノバセル(東京・品川)がまとめた、2024年1〜6月に放映されたテレビCMの中から、放映前後に視聴者がCMについて検索したかを指数化した「指名検索スコアランキング」で、BYDは3位に入った。


BYDのCMに出演した長澤さん(写真:BYD公式サイトより引用)

6月末に発売したセダンEV「海豹(シール)」の販売が好調に推移しており、BYDは理由としてテレビCMの効果を挙げている。

長澤まさみ起用の狙い

西田さんはBYDのCMについて、知名度と好感度が高い長澤さんの起用もさることながら、「ブランド認知だけではなく、EVの安全性を訴求したうえで、『ありかも』と消費者の選択肢に入るメッセージを発するコピーが非常に秀逸」と評価した。

ただ、BYDジャパンのSNSアカウントは長澤まさみさんの起用で特別反響があった形跡はなく、日本市場での新車投入を発表したタイミングのほうがフォロワーが伸びている。

10月上旬時点でXのフォロワーは約1万8000人、インスタグラムは1万人とパーフェクトダイアリーを下回る。

西田さんは「(化粧品のような)消耗品と自動車のような耐久財は、マーケ戦略が異なる」と前置きしたうえで、「SNSからマスまで立体的なマーケティングが求められる時代において、テレビCMとSNSを連動してより相乗効果を出していくことが、BYDの次の課題かもしれない」と指摘した。

もう1社、テレビCMが放映されるたびにSNSをざわつかせているのが、激安越境EC「Temu」だ。

Temuは特番の番組内でサービスの特徴を紹介する「インフォマーシャル」の手法を採用しており、大物タレントをアンバサダーに起用したパーフェクトダイアリー、BYDとは異なり、CMごとに違う芸人を起用している(TemuのCMに関する過去記事:激安EC「Temu」テレビ、YouTubeで広告増える謎 )。

西田さんは「サービス名を認知してもらうだけでなく、Amazonや楽天市場と何が違うのか特徴を明確にし、実際に使ってもらうことを狙っている」と説明した。

データ分析を手掛けるヴァリューズによると、一連のテレビCMが始まる前の2024年2月のTemuの利用者数は1270万人(推計値、月に1度以上利用した人を1と数える)だったが、6月には1960万人まで増えた。

中国ブランドのマーケティングからは日中の消費者の違いも見える。

パーフェクトダイアリーのようにターゲットを「若い女性」に絞っているブランドは、中国ではSNSにリソースが注ぎこまれるのに対し、日本ではテレビCMも併用される。同ブランドは日本上陸から2年経っており、これまでの展開を通じてテレビCMの必要性を認識した可能性もある。

日本のマーケではテレビは外せない

西田さんは「日本ではアイドルのバリューチェーンとテレビは切り離せない。SNSで道枝さんのファンに深く訴求し話題になっている感を高めたうえで、テレビCMを放映することで、旧ジャニーズ(STARTO ENTERTAINMENT)ファンの周辺にいるさらに広い層に認知を拡大できる」と説明する。テレビ離れが言われるが、日本のマーケティングではまだまだ外せないというわけだ。

ところで、日本人は日本ブランド信仰が強く、「中国ブランド」に悪印象を持つ消費者も少なくない。タレント側に抵抗感はないのか。西田さんは「ウィンウィンだ」と断言した。

「エンタメのグローバル展開は韓国のK-POPが一人勝ちで、日本のタレントはなかなか入っていけていない。中国ブランドのアンバサダー起用は中華圏のファンや消費者にリーチできる機会が広がり、海外市場に挑戦したいタレントや事務所にとって魅力的な機会に映っている」

(浦上 早苗 : 経済ジャーナリスト)