いやー、自由民主党総裁選が終わって、俺たちの石破茂さんが新総裁に選出されました。5度目の挑戦で、もはや「終わった」と評された石破茂さんの逆転人生からの黄金期到来となるのでありましょうか。

【写真】安倍晋三元総理を「国賊」と呼んだ人に、あだ名が「おしりふき」にならないか心配な人も…

 ある意味で、人間どんなに失敗しても、馬鹿にされても、あきらめずに取り組み続けていけばどこかで大きく報われる瞬間は来るのだ、という教訓と希望を人類に与えてくれたと感じます。石破茂さん、総裁ご就任おめでとうございます。

 そこから週末を経て人事を見てみれば、頭を掻きむしったり、椅子から落ちたり、窓を開けて叫んだり、阿鼻叫喚となってしまって大変であります。どうしてこうなってしまったんでしょう。


石破茂新総裁 ©時事通信社

石破茂さん、相当いろんな筋を心から恨んでいたんだね」

 おいなんだあの総務大臣に村上誠一郎さん抜擢って。

 よりによって、安倍晋三さんが凶弾に斃れるにあたり「国賊」発言まで踏み込み顰蹙を買った人物を政権要職の総務大臣にあてる人事って、すごくすごいな(語彙力)って思うんですよ。

 それに、概ね今回の石破人事は、早期に行われるであろう衆議院の解散総選挙に向けて、重厚感と爆発力とが兼ね備えられた、実にねっとりとした質感を抱かせる代物となっています。

 農水族と地方自治と慶應人脈が目立つんですが、それ以上に「石破茂さん、いままで日陰者で自民党非主流派にいたために、相当いろんな筋を心から恨んでいたんだね」っていう感じの報復人事スペシャルといったところでしょうか。

 というのも、旧石破派(水月会)の解体に繋がった有力な人物が、今回ことごとく組閣や党人事から見事に追い出されているのです。

 実績と実力を考えれば重用されて然るべき人物として、日本の半導体立国の立役者であった齋藤健さん、医療・社会保障政策のエキスパートで厚労族筆頭の実力を持つ田村憲久さん以下、旧石破派にいて石破さんを見放した山下貴司さん、古川禎久さん、伊藤達也さんら政策通はみんな冷たいごはんを食べることになってしまいました。どうしてこうなってしまったんでしょう。

 そればかりか、女性閣僚として安定した仕事ぶりで頑張ってきた上川陽子さんや、その下で支えた女性議員は全員冷たいごはん。また、今回総裁選筆頭と見られた小泉進次郎さんを支えた人たちや、自民党改革をかなり本腰でやろうとした小林鷹之さんを応援した中堅は見事に全員冷たいごはん。冷え冷えですよね。その辺で座ってこれでも食ってろ的な。

 その一方で、本人と推薦人含めて21票あるところ1回目投票で16票しか入らず決起集会のカツカレーを食い逃げされた加藤勝信さんは、決選投票では高市さんに投票したにもかかわらず安定した能力と人柄を買われて財務大臣に。最後の報告会にも17人が出席していて、青山繁晴さんが加藤勝信さんに投票したのが事実なら、他候補に投票したけど何食わぬ顔でやってきたユダが2人いたわけですよ。

 加藤勝信かわいそう。これもう財務大臣の職権で財務省職員を動員しカツカレーを奪っていったやつを調べ上げるべきだと思います。

 また、岸田文雄政権の正統後継であり目下日本一の政策通となる林芳正さんが官房長官留任に。まあ石破茂さんが好き放題やっても最後は林芳正さんがケツを拭いてくれるだろうという暗黙の諒解で「いるだけで何となく盤石」なのが高く評価されていました。裏を返せば林芳正さんぐらいじゃないと石破茂さんの子守りはできないだろうとみんな思ってる時点で最高の人事だと思うんですよね。

平将明さんの愛称が「おしりふき」になってしまうのではないか…

 同じく石破茂さんの忠臣として最後まで支えてきた平将明さんがついにデジタル大臣として入閣。逆神とか煽り散らかして申し訳なかったのですが、デジタル庁と言えば河野太郎さんが地方自治体のシステム標準化で派手にやらかして兆単位の損害を出している状態からのスタートですから、その後始末に追われる平将明さんの愛称が「おしりふき」になってしまうのではないかといまからとても心配です。

 Web3とか意味のない政策をやっている場合ではありません、戦う相手はAmazon(AWS)であり富士通であり、ピン留めを外して合理的な自治体DX、ガバメントクラウドの計画に再着地させることになっているのです。恨むなら河野太郎を恨んでください。

 さらに厚生労働大臣が福岡資麿さん。意外でしたね。強制労働省とか墓場省とか言われる厚労省の激務に耐えられる中堅として抜擢との話でしたが、解散総選挙を前に税と社会保障の一体改革も含めた社会保障改革を一手に担う重要ポジションの割に、特に厚労関係でやれる感がないキャリアの人が据えられて割と萎え気味になっています。大丈夫なのでしょうか。

 特に26年には診療報酬改定に絡んで医療提供体制の抜本的変革と医療DX、医療情報系での大口の決済がある横で、働き方改革の着地をどうするのという難題も立ちはだかり、君も僕たちと寝られない夜を一緒に過ごそうという感じの展開になっています。

 石破茂さんとしては、解散総選挙もにらみつつ、おそらくは総裁、総理のテーマとして地方創生的な、地方経済の復興と人口減少への対策に乗り出したいのだろうという布陣になっています。

 特に、今回官邸で政策取り回しを担当する官房副長官には、元高岡市長(富山県)で地方自治のエキスパートでもある橘慶一郎さんと、僻地の衰退を間近に抱えてきた青木一彦さんという地方問題のエキスパートがふたりも就任しています。青木一彦さんは青木幹雄さんのご長男でやんすね。橘慶一郎さんも地雷がありげですが、まあ副なら乗り切れるでしょう。

 この流れでは、公明党も代表が俺たちの山口那津男さんから石井啓一さんにスイッチしたこともあり、定席となっている国土交通大臣は斉藤鉄夫さん留任からの地方経済救済ネタで行くのはほぼ確定したと言えます。公明党の党大会でも、自公の関係強化で選挙を乗り切る話を石破さん自らがされていましたしね。

「ぼくのかんがえた最強の安全保障」体制?

 また、もうひとつの石破さんのテーマとして国防・安全保障があるわけなんですが、こちらはすでに波高しの状態になりつつも防衛大臣には大臣経験者の中谷元さん、外務大臣には同じく防衛大臣経験者の岩屋毅さん、そして安全保障担当の首相補佐官には長島昭久さんが抜擢されています。

 きっと石破茂さんは「ぼくのかんがえた最強の安全保障」を実現させたいんだと思いますが、アメリカの保守系シンクタンクであるハドソン研究所に、あろうことか総理大臣就任前にいきなり「日米安保条約の改定」で核の持ち込みに意欲を示したうえ、集団的安全保障の概念的ハードルとかお構いなしに「アジア版NATOの実現」とか言い始めて我が国の安全保障クラスタが総立ちになってブチ切れております。

 その割に、日本がアジアで担うべきサイバー安全保障のサの字も言わないので、石破茂さん的には安全保障の専門家を自認している割に、周辺に「大将、それ的外れでやんすよ」と囁いてくれる有識者がいないことがいきなりバレてしまうという大変な事態なんですよね。この状況で石破茂さんが安全保障の専門家を自認しているのはマズいんじゃないかと思います。

 つか、ハドソン研究所に総理就任前に雑文を寄稿するなんて、明らかにバイデンさんや後任のハリスさんに喧嘩オンセールであることに気づかないってよっぽどだと思うんですよ。さっそく事態収拾でワシントンで土下座する外務省関係者に心よりご同情申し上げます。

 そして、高市早苗さんには総務会長を打診し、無事断られるという伝統芸能を繰り広げつつ、菅義偉さんは副総裁に棚上げ。麻生太郎さんも最高顧問に祀り上げられて、あの世代の長老政治は終わりの気配を感じさせます。おそらく、石破さん的には何が何でも次の解散総選挙に勝つために、選挙対策委員長に就けた小泉進次郎さんと全国行脚して地方票をかき集め、減らす議席を最小限にするんだという作戦なのでしょう。

 もちろん、小泉進次郎さんにいきなり「1か月足らず後に解散総選挙でやんす」と言ってもロジなんてできませんので、組織運動本部長にスライドした小渕優子さんと党務担当その周辺に実務関係はぶん投げて、石破さんと小泉さん2人が候補者の両脇に立って街宣車の上で手を振ってくれればそれでいいんです。

 なんせ総務大臣も村上誠一郎さんですから、おそらくは解散総選挙で一定の議席を確保したら、来年の通常国会に向けて小幅の人事改造をやる前提で組閣と党人事をやったのでしょう。幹事長森山裕さん、議運委員長浜田靖一さん、政調会長小野寺五典さんでちゃんと党務と議会が回ってくれれば、打ち上げ花火的に置いた閣僚人事の一部の改造ぐらいは大丈夫だろうという読みなのではないかなと思います。

 今回勇退した岸田文雄さんが1回休みなのは折り込み済みとして、やはり茂木敏充さん、河野太郎さん、上川陽子さん、小林鷹之さんあたりは冷たいごはん試食会ってことで良いのではないでしょうか。

 今後の論点としては、今回の9人も出た総裁選で、各候補者を中心とした新たな派閥やグループにまとまっていく動きになるでしょうし、その中で今回冷たいごはんを積極的にお口に放り込まれているのは裏金議員(政治資金収支報告書への収入未記載)が目立つということです。

特筆されるべきは裏金議員が慎重に排除されていること

 明らかに、組閣でも党人事でも裏金議員が慎重に排除されているのは特筆されるべきことです。また、細野豪志さんも含め、石破さんと近いと見られているのに大樹総研(と関連会社の旧JCサービス)やライズ・ジャパンなど政治とカネ関係で問題になりそうな人も登用されていません。

 裏金議員の追加処分はさすがに今回の解散総選挙では間に合わないんじゃないかと思いますが、一部の話では石破茂さんは岸田文雄さんと総裁選投開票前に面談しています。その折に、旧安倍派の面々に対してすでに岸田さんが一度手がけた党内処分にさらに踏み込む可能性も示唆されたという話も流れてきていて、実にカオスであるとも言えます。

 エネルギー関係もおそらくは今回退任となる筆頭首相秘書官であった嶋田隆さんから井上博雄さんにスイッチし、GX関連・発送電分離や原子力発電所の新設・更新と再生エネルギーほか調達の責任を担うことになりそうです。

 社会保障改革も含め、大玉の政策はこっそり裏側でやり、ダイレクトに票になる地方創生ネタと外交・安全保障で選挙を勝ち抜こうという石破茂さんの頭上に勝利は輝くのでしょうか。

 ただ、マクロ経済に関しては、残念なことにまったく評価されず、さっそく市場からも見放されたかのような株価になってしまって、これなら岸田文雄留任で良かったんじゃないか、岸田フォーエバーの声がこだましているのは悩ましいところです。

 どういう形であれ、石破茂さんが悲願の総裁に就任、そして総理になられるからには、国民のためにしっかりと汗をかいて、素晴らしい治世とし、国民と共に良い社会をつくる先導を担ってほしいと心から願っています。改めて、石破茂さん、おめでとうございました。

(山本 一郎)