コラムニストの小林久乃が、ドラマや映画などで活躍する俳優たちについて考えていく、連載企画『バイプレイヤーの泉』。

第141回はタレントの作間龍斗(HiHi Jets)さんについて。彼の所属するグループは「ハイハイ ジェッツ」と読む。所属する事務所の動画を見ていると、ローラースケートを履いて歌っている。この一文で胸熱になるのは、昭和生まれ平成育ちを証明しているようなものだ。そう昭和を駆け抜けたアイドル・光GENJIがローラースケートを履いて、歌って、踊っていた。女子中高生たちは彼らに熱狂して、バレンタインには11トントラック4台分のチョコレートが届くという事態に。

作間龍斗が主演する舞台『138億年未満』のポスタービジュアル(11月23日より公演)

それまでローラスケートなんて、遊び道具の一環でしかなかったのに、光GENJIの登場により、履けば一目置かれる魔法のシューズと化した。

その後、Kis-My-Ft2もローラースケートを履いて、華々しくデビュー。メンバーが30代になった現在もコンサートでは履いていると聞く。これで所属事務所が作った、ローラスケート伝説も打ち止めかと思っていたところに、HiHi Jetsが現れた。初見では光GENJIの10倍近くスマートに滑りこなしている。これぞ猛烈な暑さは知っているけれど、熱さには無頓着な平成生まれの特徴だろうか。

そんなグループに所属する作間龍斗さん、昭和生まれは絶対に持っていない"膝から下が長い足"のスタイル抜群男子である。雑誌『FINEBOYS』でモデルも務めているのも納得。そして演技がうまい。

○おじさん、作間に萌える

彼が出演していた『コタツがない家』(日本テレビ系 2023年)の放送当時。出版社に勤務する、いわゆる業界仲間のおじさん(私はおばさん)が、鼻息荒く彼について話してきた。

「作間くん! すごいよねえ、演技が上手だよねえ!! いやあ、あの(所属)事務所はあんな子を見つけてくるんだから、いや……」

言葉に詰まるほど興奮していた。その発言にほくそ笑む私。実は『コタツがない家』以前に、映画『ひらいて』で彼の演技を見て「これは……!」と目をかっ開いていた。クラスの一軍のビジュアルを持ちながら、物静かな少年・西村たとえ役。この"物静かさ"というのが厄介な演技で、一歩踏み間違えるとイタイだけで終わる。が、作間の演技はイタイどころか、佇まいだけで「ん?」と観る側を引き込んでいた。

続けて『コタツがない家』の深堀順基役も良かった。進路も決まらず、急にタレントになりたいと言い出す、その辺にいそうな飄々とした高校生。絶妙なやる気のなさを表現していた。その姿を見て、前述のおじさんは興奮したのである。

その興奮は続き、同年公開の藤井道人監督の映画『ヴィレッジ』へ出演。同年放送の大河ドラマ『どうする家康』(NHK総合)で豊臣秀頼役として出演。映画、ドラマで見せた空気の抜けた雰囲気は何処へやら、凛々しい侍だった。

「すごいよねえ、大河出てるよ! もうスター街道まっしぐらじゃん」

おじさんの興奮は止まらない。

○彼の淡々、飄々さが示すもの

雑誌『ViVi』(2023年4月号)のインタビューで彼はこう話している。

「2014年所属事務所やめたい期→老化スタート はじめの1〜2年は小学生らしく親に「やめたい」と訴えたことも。周囲の期待とプレッシャー&家にいすぎたため徐々に老けはじめ、中学生の頃すでに『24歳?』とか言われてました」

「2018年 ちなみに僕、中高ともに仕事を言い訳にあまり学校へ行ってなかったけど、成績は優秀だったんですよ。授業を受けずとも良い点数を取る方法を編み出しちゃいました」

彼の話をトータルすると、本人やる気はなかったのに事務所に加入。やめたいと言いながら続けて、人気アイドルに。学校はほとんど行かなかったのに、秀才だったという3本柱を備えた超絶イケメンということになる。聞けば聞くほど少女漫画の世界だけど、これは現実。

演じる才能とはある日、飄々と現れるから才能だと彼に教わった。もっと言えば彼の先輩たちも同じ傾向を持っている。たとえば二宮和也も飄々を装いながら、いつの間にかハリウッド映画に出演して、日本アカデミー賞の常連になっていた。岡田准一も同じく。近年では郄橋海人(King & Prince)が記憶にある。割と弟キャラを全面に出して、ポヤポヤしていたのに実は幼少期からダンスを習得して、役に入り込ませると視聴者を泣かせた。『ドラゴン桜 第二シリーズ』(TBS系 2021年)の瀬戸役には、どれだけ泣いたことか。

所属事務所内には数百人以上の才能が集まっているのに、演技で抜きん出るのはごくわずか。芸能界全体で考えれば、四方八方、敵ばかり。熱狂的ファンだけではなく、その辺のおじさんやおばさんにも周知されるのは元来の才能を持ち合わせた人のみ、と思う。

で、その才能。大昔のように「アメンボ赤いな、あいうえお!」と発声練習をして、雑巾掛けで体力をつけてついてくるものではない。むしろそういった努力は見えないところで重ねるものであって、デリケートな令和には受け入れられない。そうなると求められるのは、作間龍斗のような飄々さである。するっと現れて、さっと別人を演じる。時にはローラースケートを履いて歌う。コンビニのレジで、財布を広げて小銭を探すあたふたぶりではなく、スマホ決済して秒さ去るような現代のスマートさ。それらを彼は持っている。

最近、Prime Videoで『ながたんと青と -いちかの料理帖-』を見た。15歳年上の女性と結婚する大学生を、淡々と飄々と演じていた。前述の『ViVi』のインタビューで撮影時のことをこう話している。

「共演者の方々がすごく豪華なので不安もあったけど、なぜかマジで緊張しませんでした(笑)」

これである。学校生活の勉強と同じく、いい演技ができる方法を編み出しのか。いずれにしても彼の今後は見ておいたほうがいい。いつかどこかの居酒屋で「作間くん、昔から注目してたんだよ〜!」と、自慢ができるから。

小林久乃 こばやしひさの エッセイ、コラム、企画、編集、ライター、プロモーション業など。出版社勤務後に独立、現在は数多くのインターネットサイトや男性誌などでコラム連載しながら、単行本、書籍を数多く制作。自他ともに認める鋭く、常に斜め30度から見つめる観察力で、狙った獲物は逃がさず仕事につなげてきた。30代の怒涛の婚活模様を綴った「結婚してもしなくてもうるわしきかな人生」(KKベストセラーズ)を上梓後、「45センチの距離感」(WAVE出版)など著作増量中。静岡県浜松市出身。Twitter:@hisano_k この著者の記事一覧はこちら