生涯年収をより高くするにはどうすればいいのか。実業家の堀江貴文さんは「統計では依然として高卒より大卒のほうが生涯年収は高いが、そうでもなくなってきている。『大卒』の肩書きのためだけに“あの場所”に行くのは金と時間の無駄でしかない」という――。

※本稿は、堀江貴文『ニッポン社会のほんとの正体 投資とお金と未来』(徳間書店)の一部を再編集したものです。

■「大卒」という肩書きの価値は薄れつつある

義務教育だけでなく、大学に進学することの意味もなくなっている。何十年もまえであれば、大学は「高度な知識と教養を得るための、選ばれし者のための機関」であった。わざわざ進学する理由もあっただろう。

しかし、いまや大学全入時代と呼ばれ、希望すればだれでもどこかしらの大学に入学できるようになった。かつてはエリートの証しだった大学も時代とともに劣化し、だれでも行ける場所に成り下がったのだ。

「大卒でないと就職が不利になる」という意見があるかもしれない。しかし大学全入時代なのだから、採用する企業側も「大卒」という肩書きだけでは価値を見出さなくなっている。

その一方、大卒の学歴よりも実務スキルや即戦力となる人材を求める企業が増えている。実際、人手不足に悩むいまの日本では、高卒の求人は増加傾向にある。特に実習経験のある工業高校や高専の生徒が人気だ。

2024年3月末時点で、高卒の求人倍率は3.98倍とバブル期を超える過去最高を記録。大卒でも入社が難しい有名企業でさえ、技術職だけでなくオフィスワークでの高卒採用を増やしているほどである(2024年7月13日付読売新聞「高卒求人の争奪戦、工業高校は倍率20.6倍…人手不足で新たに高卒採用始める企業も」)。

■ホワイトカラーの仕事は生成AIに奪われるかもしれない

「大卒のほうが生涯年収は高い」という意見もあるだろう。たしかに統計上はその傾向が見られる。労働政策研究・研修機構の調べによると、学歴別の生涯賃金は次のとおりだ。

[男性]
 高校卒業 2億500万円
 大学・大学院卒業 2億6190万円
[女性]
 高校卒業 1億4960万円
 大学・大学院卒業 2億1240万円
(労働政策研究・研修機構「ユースフル労働統計2022」2023年1月25日)

このデータを見れば、高額な学費を払ってでも大学に進学したほうが得に思えるかもしれない。しかし、これは言うまでもなく平均値の話だ。さらに、あくまで現時点での数字であり、これから先の生涯賃金の差を示しているわけでもない。

むしろChatGPT(チャットジーピーティー)など生成AIの発達によって、大卒のホワイトカラーの仕事のほとんどが淘汰される可能性だってある。そう考えると、この平均値も少し先の未来では大きく変わっている可能性が高い。

提供=徳間書店

■一流大学の講義がネットで見られる時代

そしていまや、わざわざ大学に進学しないと学べない内容もなくなった。特に文系の場合、授業内容は指定された教科書に書かれていることがほとんどだ。本当に学ぶ意欲があるなら、その教科書を自分で読んだほうが効率的である。しかも大学教授のほとんどは研究者なので、教え方が上手い教授のほうが少ない。

つまり、自習のほうがコスパもタイパもよっぽど優れているのだ。もし教科書を読んでも理解できないのであれば、そんな人はそもそも高等教育機関である大学に行くべきではない。

「情報の民主化」は、アカデミックの世界にも波及している。たとえばスタンフォード大学など世界屈指の名門校の講義がネットで開放されている。やはり、学ぶ意欲さえあれば、わざわざ進学する必要はないのだ。

多くの高校生が「やりたいことが不透明だから」「親のすすめで」「モラトリアム期間を楽しみたいから」「周りのみんなが行くから」「就職に有利だから」といった、あいまいな理由で大学に進学する。

しかし、ここまで説明したような状況を考慮すれば、大学進学は時間とお金の無駄な浪費にほかならないとわかってもらえるだろう。

研究者などアカデミックな世界での活躍を目指す人以外は、大学へ進学せずに働くほうが、コスパもタイパも圧倒的に優れているのだ。ほとんどの人にとって大学に行く必要はないのである。

写真=iStock.com/DGLimages
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■Fラン大学にだけは行ってはいけない

いまや大学全入時代。望めばだれでも大学に進学できる。大学のインフレが起きているわけだ。その結果、Fラン大学が量産されてしまった。

Fラン大学とは偏差値の算出が不可能、もしくは偏差値35以下の最底辺の大学のことだ。「名前を書ければ合格できる」などと揶揄されている。

一部のFラン大学の授業内容は中学校レベルだという。英語のbe動詞の使い方。分数の掛け算。大学生がそんなことを教わっているのだ。高等教育の存在意義を根本から覆す光景だ。

勉強はできないが、「大卒」の肩書きは欲しい。そんな人がFラン大学に行く。でも行くな。絶対行ってはいけない。4年間という壮大な時間の無駄遣いだ。それだけではない。卒業後の人生も冴えないものになる。

はっきり言う。最終学歴が大卒であっても、Fラン大卒の場合はなんの箔にもならない。むしろマイナスだ。就職活動で苦労するのは明らかだ。「学力不足」「社会人としての基礎能力不足」と採用担当者は見なすだろう。Fラン大卒の肩書きのせいで門前払いされてもおかしくない。

■Fラン大学は「存在意義なし」

多額の奨学金を背負っているFラン大生も少なくないはずだ。哀れだ。たいした就職先にはありつけない。となると、低賃金労働&奨学金返済の二重苦が待っている。

Fラン大学に悪いところはあっても、良いところはない。そこに存在意義を見出すのは不可能だ。

しかしこのFラン大学、これまで増加の一途をたどってきた。18歳人口のピークは1992年。この年の私立大学数は384校だった。そして1992年を境に18歳人口は一気に減少していくのだが、私立大学はそれと逆行して増え続けた。2023年時点で実に622校にのぼる※注。

注:文部科学省「学校基本調査 令和5年度」、文部科学省「中央教育審議会総会(第137回)会議資料」(2023年9月25日)

出典=『ニッポン社会のほんとの正体 投資とお金と未来』

学生数と大学数の完全なミスマッチのなかで、とうぜんブランド力のない大学の立場は厳しくなる。となると入試のハードルを下げて定員確保に走るしかない。かくしてFラン大学が量産されてきたのだ。

しかし、そうしたなりふり構わぬ大学の戦法も限界に達しつつある。現在、私立大学を運営する567法人のうち101法人が経営難に陥っており、再編や統合が避けられない情勢にある(2024年5月20日付日本経済新聞「私立大101法人『経営困難』 全国18%、再編・統合加速も」)。

■「大卒」の肩書きを欲した若者を食い物にしている

本来であれば、文部科学省が手綱をしっかり握るべきところだった。大学数を管理して、教育水準を維持する責任が文科省にはあったはずだ。でもそのまま放置してきたのである。なぜだろう。

堀江貴文『ニッポン社会のほんとの正体 投資とお金と未来』(徳間書店)

大学・学部・学科の新設。各大学の定員数の設定。補助金の配分。文科省はそうした大学運営に関わる重要な認可権限を持っている。文科省官僚たちは私立大学に対してさまざまな便宜を図りながら、その見返りを得ていたのではないだろうか。

実際、2017年に発覚した「文部科学省天下り問題」では、多くの文科省官僚が利害関係のある大学に天下りしている実態が明るみに出た(2017年3月31日付日本経済新聞「文科省天下りで37人処分 最終報告、違法事案62件に」)。

彼らにとって私立大学とは既得権益なのだ。Fラン大学が量産された最大の理由はそこにある。

文科省とFラン大学の罪は深い。「大卒」という肩書きにつられた学生を食い物にしているのだ。

大学自体の存在意義が揺らいでいるいま、ましてFラン大学に立つ瀬はない。統廃合をすみやかに進め、「Fラン大学」という言葉が過去のものになることを願っている。Fラン大学に行ってはいけない。

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堀江 貴文(ほりえ・たかふみ)
実業家
1972年、福岡県生まれ。ロケットエンジンの開発や、スマホアプリのプロデュース、また予防医療普及協会理事として予防医療を啓蒙するなど、幅広い分野で活動中。また、会員制サロン「堀江貴文イノベーション大学校(HIU)」では、1500名近い会員とともに多彩なプロジェクトを展開。『ゼロ』『本音で生きる』『多動力』『東京改造計画』『将来の夢なんか、いま叶えろ。』など著書多数。
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(実業家 堀江 貴文)