日本人学校に通う男子児童が襲われた現場付近(19日、中国・深圳で)=大原一郎撮影

写真拡大

 【深圳=鈴木隆弘、田村美穂】中国広東省深圳市で日本人学校に登校中の男子児童(10)が刺され、19日に死亡した事件では、中国当局が厳しい情報統制を敷いている。

 事件があった事実が広がることすら警戒していた可能性がある。

 「うちはこの事件は報じない」。ある中国メディアの男性記者は発生直後、こう断言した。現場で取材をしたのは、日本と香港のメディアが中心で、中国メディアの姿はほぼ見かけなかった。

 中国メディアは、共産党の宣伝部門の管理下にあり、報道内容も厳しく規制されている。突発事件が起きた際、内容にばらつきが出ないようにするため、各メディアに新華社通信の原稿を用いる指示が出ることが一般的だ。しかし、今回は新華社も発生を報じず、官製メディアはほぼ沈黙した。20日になって一部メディアが警察の捜査内容に沿ってようやく報じた。

 報道が低調なのは、男児を悼む声の高まりが事件を防げなかった政府への批判に転じることや、日本への同情や反感が広がって収拾がつかなくなる事態を避けるためとの見方がある。

 SNSへの投稿も続々と削除されている。江蘇省蘇州市で6月、日本人母子ら3人が襲われた事件では、IT大手各社が反日感情をあおるSNSの投稿を規制した。今回の事件では、反日感情をあおる内容だけでなく、供花された写真の投稿なども対象になった。

 深圳日本人学校に献花に来た住民は、日本の報道を引用したSNSの投稿や、日本に住む家族らからの話で事件を知ったケースが多い。SNSを見て供花に来た無職男性(59)は「報道されない状況が理解できない」と憤り、事件の背景を公表しなければ「同様のことが繰り返される」と指摘した。別の女性(35)も「政府は何かしらの影響を恐れているのでは」と語り、当局への不信感を募らせた。