ヤマハ発動機の日高祥博社長と家族の間に起きた事件。警察は因果関係を捜査中です。日高氏は同社の業績アップだけでなく、日本自動車工業会副会長として、バイク業界の振興に精力的に携わっていました。業界からもその影響が危惧されています。

職務、経営の影響なし

 ヤマハ発動機の日高祥博社長(高ははしご高)が2024年9月16日午前3時頃、自宅で左腕を切り付けられました。磐田署は殺人未遂の疑いで、同居する娘を逮捕しました。前日には容疑者が被害を訴える「110番を通報した」という報道もあります。家族間のトラブルと病気を訴えるSNSの記述もあり、事件の究明と共に、家族への支援が重要な局面にきているのかもしれません。


レトロなスタイルで大人気となっているヤマハXSR125(画像:ヤマハ)。

 連休明け17日のヤマハ発動機は、次のようにコメントしました。

「プライベートの中で起きたことなのでコメントは差し控えます。日高は傷も浅く、職務への影響はありません。従って、経営の影響もありません」

 日高氏は2018年に社長に就任し、成長著しい東南アジア地域での戦略を見直しました。フレームやエンジンの共有化でコストダウンを図る一方、各国のニーズに合わせたバイクづくりを進めることで、業績を右肩上がりに押し上げてきました。

 特にブラジル、インド、インドネシアなど新興市場での業績が顕著です。また、国内では昨年末、125ccとは思えない豪華な作り込みを施した「XSR125」をリリースし、日本でもプレミアム・バイクのポジションを確立する挑戦を続けています。

 また、日高氏は日本のオートバイ振興のための業界活動に注力していることでも知られています。

 完成車メーカーを会員として組織される業界団体「日本自動車工業会」で、日高氏は2022年から副会長を務めていますが、それ以前の2017年12月から自工会の二輪車委員会(旧二輪車特別委員会)の委員長を続けています。

 自工会加盟14社中、ヤマハは唯一、バイクを主力とするメーカーとして日高氏が役員となり、関連するバイク・イベントを主導してきました。8月19日の「バイクの日」イベントでは主催団体の顔となり、毎年秋に開催される「バイク・ラブ・フォーラム」では会議の取りまとめ役を担ってきました。

他でもないヤマハ日高社長が「盛り上げ役」の理由

 ヤマハが長くこの役割を担っているのは理由があります。国内バイクメーカーは同社を含めて、ホンダ、スズキ、カワサキの国内4社が世界的なバイクメーカーとして名を馳せています。ただ、ホンダは登録車、スズキは軽自動車、カワサキは重工と、それぞれがバイクとは別に主力となる分野を抱えています。日高氏は自動車業界では副会長として参画しながら、バイク業界活動の表舞台を委員長として担っている形です。

 日本自動車工業会は、日高氏の今後の活動について、次のようにコメントしました。

「プライベートのことなので、特にコメントすることはありませんが、(副会長としても、委員長としても)当初の予定通り、活動を推進していきます」

 今年の「バイク・ラブ・フォーラム」は9月27日に宮崎県で予定されています。イベント関係者の一人は、こう話しました。

「家族のことは家族しかわからない。とてもたいへんで、これからもたいへんな中、無責任とお叱りを受けるかもしれないが、日高氏もバイクに乗られる。いろいろあることは承知で、これからも変わらずハートの回転数を上げてもらえたら心強い」

 ただ、さまざまな場面での重責を担いながら難局を切り抜けた経営者にも、家族と向き合う時間が必要かもしれません。日高氏は当面、オープンな行事への出席は見合わせるという話も聞かれます。仕事とバランスと取りながら、一刻も早く日常を取り戻したいという選択かもしれません。