生物の体内には、病原体やウイルス、寄生虫、がん細胞まで、体の害となるものを検知して反応する免疫系が備わっています。イスラエルのワイツマン科学研究所の生物学者であるロン・センダー氏らは、人体の免疫細胞がどこにどれくらい存在し、それらの総重量はどれくらいになるのかを計算した結果を公開しています。

The total mass, number, and distribution of immune cells in the human body | PNAS

https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.2308511120

The Immune System Weighs The Same as a Pineapple, Study Finds : ScienceAlert

https://www.sciencealert.com/the-immune-system-weighs-the-same-as-a-pineapple-study-finds



人の免疫力は獲得免疫系と呼ばれる免疫系のサブシステムを持っており、免疫的な記憶を得ていくことで抗体を獲得するなど、強力で複雑なシステムを備えています。免疫細胞に関する実験はマウスで実施されることが多く、分析により人の免疫系でも同じ反応が見られると推定されることが多いですが、免疫システムの全体像を推定しようと試みるこれまでの研究では、人間への一般化した研究は限られた範囲でしか実施されていませんでした。

免疫細胞は幼少期に経験した痛みを長期にわたって記憶している - GIGAZINE



センダー氏らが2023年10月に米国科学アカデミー紀要(PNAS)で発表した研究では、人体の免疫細胞の分布を特徴づけ、その総数や総重量を示しました。研究によると、平均的な人の免疫システムはおよそ1.8兆個の細胞で構成され、平均的な体格の成人男性の場合、その重量は約1.2kgと推定されるそうです。科学系メディアのScience Alertは、約1.2kgという重量を「パイナップル1個」「ハムスター6匹」と例えています。

免疫細胞の種類については、リンパ球が免疫細胞の総数の約40%、免疫細胞全体の質量の約15%を占めており、白血球の一種である好中球も同等の割合があります。質量の割合が大きいのはアメーバのように運動する白血球の1種であるマクロファージで、数としては免疫細胞の約10%ですが、マクロファージは1個あたりのサイズが大きいため、細胞全体の質量の約50%を占めているとのこと。

以下は、人体における免疫細胞の分布を示したもの。四角形1個ごとに10億個の免疫細胞を示しており、四角形の色は免疫細胞の種類です。図によると、特に免疫細胞の数が多いのは、青色で示した好中球が大半の骨髄と、濃い赤のT細胞や薄い赤のB細胞が多いリンパ系。



センダー氏は「人間の免疫システムをさまざまな角度から調査した研究は豊富にありますが、より深い理解を得るためには、さまざまな種類の免疫細胞の分布と質量を包括的に調査する必要がありました。今回得られた免疫細胞の量や分布、重量についての知識は、免疫システムの統合的な定量的見解を提供し、研究モデルの開発を促進します」と研究の意義について語りました。

研究者らはさらに、主に体型に基づいて、成人男性における推定結果から成人女性と子どもの免疫細胞の数も計算しています。体重73kgの20代男性が合計1.8兆個、重量約1.2kgの免疫細胞を持っているとすると、同年齢で体重60kgの成人女性の場合、免疫細胞の数はおそらく約1.5兆個で、重量は約1kgとなるそうです。また、10歳の子どもの場合、免疫細胞の数は約1兆個で、重量は600gと考えられます。ただし、女性は関節リウマチなどの自己免疫疾患を発症しやすかったり、子どもの免疫システムは成熟段階で変化しやすかったりと、単純な推定値では測れない部分もあるため、慎重に解釈する必要があります。

消化管には最も多くの免疫細胞が含まれていると言われることがありますが、センダー氏らの研究では、ほとんどの免疫細胞は消化管ではなくリンパ系と骨髄に存在することが分析で示されました。人体の中でどの臓器に最も多くの免疫細胞が蓄積されているかという分布や、細胞の種類や重量といった情報は、健康や病気と明らかに強いつながりがあるため、さらなる発見と分析が求められています。