笑顔で歴史を塗り替える大谷

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 日本時間の8月31日、アメリカのメジャーリーグ(MLB)ドジャース大谷翔平はダイヤモンドバックス戦に1番DHのスタメンで出場。2回に死球で出塁すると43個目となる盗塁を記録し、さらに8回に43本目のホームランを放ち、MLB史上初となる「43―43」(シーズン43ホームラン・43盗塁)を達成した。前人未踏の領域に入った大谷は、9月5日の時点で「44−46」まで記録を伸ばしている。(全2回の第1回)

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 盗塁ができる強打者──これまでの最高記録は1998年、マリナーズに所属していたアレックス・ロドリゲスの「42−46」だった。またまた大谷がMLBの歴史を書き替える偉業を達成し、日本のメディア、特に民放キー局が「ナ・リーグのMVPは大谷に決定」とばかりに連日、報道している。

笑顔で歴史を塗り替える大谷

 一部の海外メディアも同じ論調で、例えば韓国三大紙の1つである「朝鮮日報(日本語電子版)」も9月2日、「MLB:『44−43』達成した大谷、米大リーグ史上初の指名打者MVP狙う」との記事を配信。《大谷はこれで「今季MLBナショナルリーグMVPを確実なものにした」とみられている》と伝えた。

 ところが、アメリカ国内での議論を見ると、必ずしも“大谷一色”ではないようなのだ。

 例えば日本では馴染みのない名前かもしれないが、MLB屈指の名監督として知られるアメリカのバック・ショーウォルター氏はヤンキース、ダイヤモンドバックス、レンジャーズ、オリオールズ、メッツの5球団で指揮を執り、うちダイヤモンドバックスを除く4球団でリーグ最優秀監督賞を受賞した。これはMLB史上、彼だけが達成した偉業だ。

 ショーウォルター氏はアメリカの老舗スポーツ誌「スポーツ・イラストレイテッド」の取材に応じ、ナ・リーグのMVPは大谷ではなく、メッツのフランシスコ・リンドアで間違いないと太鼓判を押した。

プホルスも異論を披露

 リンドアはショートを守り、基本は1番バッター。9月5日現在、打率2割7分4厘、30本塁打、84打点、26盗塁という成績だ。

 大谷は「50―50」が実現するか話題を集めているが、リンドアも「30―30」の達成が期待されている。担当記者が言う。

「ショーウォルター氏が『MVPはリンドアで決まり』と断言した理由が、なかなか興味深いのです。まずリンドア選手については『たとえ4打数無安打でも、彼は(守備で)活躍することができるし、試合にも勝利できる』と評価。一方の大谷選手については『DHだと4打数無安打は問題だし、試合にも勝利できない』と厳しい評価を下したのです(註)」

 まだ他にもある。10年連続での打率3割・30本塁打・100打点という記録を持つアルバート・プホルス氏は、2012年から21年までエンゼルスに在籍。大谷のかつてのチームメイトであり、バッティングでの“師匠”と報じたメディアもあった。

 プホルス氏は日本時間の24日、MLBの専門チャンネル「MLBネットワーク」の番組に出演。司会者が「もし大谷が50−50を達成したら、MVPは決まりか?」と質問すると、プホルス氏は可能性が高いことは認めた。

三冠王と「43−43」

 その一方で、ブレーブスのマルセル・オズナが三冠王に輝いた場合、大谷を抑えてオズナがMVPに輝く可能性もあるとも指摘したのだ。

 9月5日現在のオズナの打撃成績は、打率3割0分5厘、37本塁打、98打点。打率は大谷を上回る2位で、ホームランは2位、打点は3位という位置に付けている。

 確かにMLBの長い歴史の中で、打点が公式記録となった1920年以降、三冠王は10人しかいない。それだけ難しいというわけだ。とはいえ大谷は「43−43」というMLBの歴史を塗り替える新記録を達成している。たとえオズナが三冠王を達成したとしても、どう考えても大谷のほうが偉業だと思ってしまう。だが、プホルス氏は違うようだ。

「大谷選手はホームラン王争いではトップですが、盗塁はレッズのエリー・デラクルーズ選手が61盗塁を記録しており、断トツのトップです。もしオズナ選手が三冠王、つまりホームランでも1位となると、たとえ大谷選手が『50−50』を記録したとしても、ホームラン王という『冠』はなくなってしまいます。つまり大谷選手は全てのタイトル争いから脱落してしまうわけです。プホルス氏は『三冠王のオズナと無冠の大谷を比較すれば、三冠王がMVPに輝くべき』と指摘したわけで、ある意味では当然の主張だと言えます」(同・記者)

来季の大谷は31歳

 大谷は来季、二刀流に復帰すると目されている。さらに来年の8月で31歳。つまり今後、投打の負担と年齢の問題から、バッターとしての大谷は徐々に下降線を辿る可能性があるのだ。第2回【メジャー新記録でも大谷翔平「MVP獲得」に相次ぐ反論…「MLBでDHは低評価」「ピッチクロックで走者が有利に」】では、そのことを熟知した大谷が「50−50」を狙った“クレバーな戦略”について詳報する──。

註:FOXが運営するスポーツ系ニュースサイト「OutKick」が9月3日に配信した「Buck Showalter Misses The Point On Francisco Lindor-Shohei Ohtani MVP Debate」との記事に掲載されたショーウォルター氏のコメントは以下の通り

"He can go 0-for-4 and win a game," Showalter said. "Those DHs can't go 0-for-4 and win a game."

デイリー新潮編集部