今や日本の“国民食”に

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 テレビCMには有名タレントが出演するようになり、レジではテイクアウト商品を受け取る人が目立つ。すっかり“国民食”として定着したマクドナルドに、一昔前に比べた「変化」を感じている向きも多いのではないだろうか。一時期の経営不振を乗り越え、2023年12月期決算では最高益を更新している。そんな同社のトップ、日本マクドナルドHD社長の日色保氏に、経済アナリストの森永康平氏が直撃した。(以下は「週刊新潮」2024年8月15・22日号掲載の内容です)

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【写真】昔と様子が変わった?都内各所のマクドナルド店舗の現在

森永 実は昨日、たまたまマクドナルドに行ったんです。妻が体調を崩してしまって、子どもたちに何を食べたいか聞くと、口をそろえて「マクドナルド!」と。

今や日本の“国民食”に

日色 ありがとうございます。対談前に良いエピソードを提供してくれる、親孝行なお子さんたちですね。

森永 ハンバーガーを食べたいというのもあるんですけど、ハッピーセットがとても気に入っているようです。「リラックマ」とか「ちいかわ」とか、新しいものが出るたびに行こうと言われます。

日色 マーケティングの成果が出ていますね(笑)。森永さんも何か召し上がったんですか。

森永 ちょうど格闘技の試合を控えていて減量中だったので、残念ながら私は食べられませんでした。今はやっている「ダイエットメニュー」などはあまり出されないのですか。

日色 これまで、健康系のメニューはなかなかうまくいかなかったんですよね。やっぱりマクドナルドには、ハンバーガーと言われて皆がイメージするような商品が求められているのかなと。

森永 たしかにそうですね。減量期間を除けば、私自身は昔から「フィレオフィッシュ」が大好きで、「えびフィレオ」が出てきてからは、その二つを交互に食べている感じです。

日色 どちらも当社の人気商品です。私は月並みですが、やはり「ビッグマック」でしょうか。あとは「朝マック」の「ソーセージエッグマフィン」も、1位と2位を争うくらい好きです。

ハンバーガー」65円の時代

森永 人それぞれにお気に入りがあって、すっかり「国民食」として定着した感があります。

日色 日本にマクドナルドが上陸して、もう50年以上になりますからね。日本マクドナルドの創業者、藤田田(でん)さんが銀座に1号店をつくったのが1971年のことでした。

森永 まだハンバーガーという食べ物自体が知られていない時代ですね。

日色 当時、米国からは「1号店は郊外の茅ヶ崎で」と提案されていたようです。ところが、藤田さんは「日本の流行は銀座からつくられる」と押し切った。すると銀座の歩行者天国で、若者が立ったまま“見知らぬもの”を頬張る姿がテレビで放送され、一気にハンバーガーが市民権を獲得していったんです。

森永 狙いがぴったり当たったのですね。

日色 その後の歴史を少しお話しすると、80年代には朝マックが始まったり、「サンキューセット」が流行語大賞の「大衆賞」を取ったりと、人気は堅調に拡大していきました。90年代になると店舗数を大幅に増やし、96年に2000店舗、99年には3000店舗を突破しました。当時、スーパーの中や銀行の隣など、小さなお店がたくさんあったのを覚えている方も多いのではないでしょうか。

森永 あの頃、「ハンバーガー」1個が65円くらいでした。

日色 店舗が増えた一方で、バブル崩壊後のデフレで需給バランスが崩れつつあった中、円高によってディスカウントの余裕が生まれてきた。こうして大幅な値引き戦略を取ったわけです。

危機的状況からのV字回復

森永 今では考えられないような価格です。

日色 昨年、価格改定を行った際、「ついこの間まで65円だったものを170円にするとは」というご指摘もあったのですが、実は90年代半ばまでは200円以上していたんですよ。物価高といわれていながらも、30年前の価格よりもまだ安いんです。

森永 いかに日本の経済成長が滞っていたか、という側面が表れている気がします。

日色 とはいえ大幅な値下げと狭小店舗の大量展開が重なると、生まれるキャッシュが小さくなり、店舗への再投資もできなくなってくる。傷んだお店が増えたり、新しい機械を導入できなくなったりして、次第にマクドナルドというブランドの歯車が回らなくなってきていました。そんな中で2014年、食の安全・品質に関してお客様の信頼を損なってしまい、会社はかつてないほどの危機的状況に陥りました。

森永 そこからよくV字回復を果たされましたね。

日色 まさに私が社長に就いた2019年は、なんとか経営危機を脱し、ようやく未来を考えたビジネスを行えるまでに回復したところでした。ですから、これまでできなかった店舗やシステムに対する投資によって新たな成長を描くことこそ、私に与えられたミッションだったのです。

〈そんな日本マクドナルドHDは、23年12月期決算で、全店売上高は前期比8.4%増の7777億円、最終利益は26.2%増の251億円と、最高益を達成している。その背景にある、デジタルや人材への投資の実態や、注目を集めた値上げの理由と影響などについては、有料版の記事で詳述している〉

日色 保(ひいろ・たもつ)
日本マクドナルドホールディングス代表取締役社長兼CEO。1965年生まれ。愛知県出身。1988年にジョンソン・エンド・ジョンソンに入社。グループ会社社長などを経て2012年より日本法人社長。18年に執行役員として日本マクドナルドに入社し、19年より社長に。21年から現職。

森永康平(もりなが・こうへい)
経済アナリスト。1985年生まれ。埼玉県所沢市出身。証券会社などでアナリスト、ストラテジストとしての業務に従事。アジア各国で新規事業の立ち上げなどを経験し、金融教育ベンチャーの(株)マネネを創業。アマチュアでキックボクシングやMMA(総合格闘技)の試合にも出場中。横浜DeNAベイスターズファン。父は経済アナリストの森永卓郎氏。

デイリー新潮編集部