ラクに生きるコツは「プランB」を用意すること どんな結果でも「これが最善だった」と納得できればそれで良し(古市憲寿)
最近よく思うことがある。人生は「プランBをいかに楽しくできるか」に懸かっているのではないか、と。
あなたに何か望みがあったとする。企画した商品を大ヒットさせたいでもいいし、好きな人と付き合いたいでもいい。お金持ちになりたいでもいいし、作家として世に名前を残したいといった大きな夢でもいい。それが本命「プランA」である。
だがプランAを実現させるのは難しい。そこで登場するのが次善策である「プランB」だ。さらにプランBもうまくいかなかった場合のプランCもあり得る。
プランBを受け入れる場合、どうしてもAのことが頭を過(よぎ)るだろう。Aのために全力投球していた人ほど後悔は長引くはずだ。
そんな時のために、プランBなりの「お楽しみ」を用意しておくといいと思う。たとえば政治家になって国を変えたいと願う若者がいたとする。彼にとってプランAはもちろん選挙に受かること。だが当然落選もあり得る。
そこでプランBとして政治家以外の人生を考えるわけだ。昨今の政治家に向けられる世間の目は厳しい。恋愛や不倫などの私生活を含めて一挙一動が注目される。そこでプランBだからこそできる楽しそうな人生を計画すればいい。
もっと小さな事例で考えてもいい。気になっている人がいたとする。食事をした後、バーなど次の予定に誘って、うまくいくのがプランA。だけど断られた場合のプランBにも、楽しい計画を練っておくのがいい。いつもの仲間と合流するでもいいし、一人で映画館に行くでもいい。ただ「プランAがうまくいかなかった」で終わるよりも、有意義な夜になるはずだ。
だが秋元康さんと「川の流れのように」の話になった時に、想定外のことに思い当たった。プランAだと思っていたものが最善なのかという問題だ。
「川の流れのように」は、美空ひばりさんが生前最後に発表したシングルで、売り上げは約150万枚。ひばりさんにとっても、そして作詞家秋元康としても、代表曲の一つといっていいだろう。
だが秋元さんはふと考えることがあるのだという。もっと別の形の「川の流れのように」はなかったのか。もしあれば今以上に人々の心に残り、愛される曲になったのではないか、と。
世間的に見れば「川の流れのように」は大成功である。全てが順調に進んだプランAそのものに見える。だが実はプランAAやプランAAAもあったのではないか。一般的な成功に飽き足らないクリエーターの意地を見た気がした。
同時にプランAに満足できないのは大変な人生ともいえる。生き方として楽なのは、他者から見て失敗でも「これが最善だった」と納得すること。どんな失敗をしても現状を受け入れてしまう。他の世界線に思いをはせることなどしない。成長はないが後悔もない。どうせ秋元康にはなれないのだから、僕はプランBだろうがCだろうが甘んじて受け入れていこうと思う。
古市憲寿(ふるいち・のりとし)
1985(昭和60)年東京都生まれ。社会学者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員。日本学術振興会「育志賞」受賞。若者の生態を的確に描出した『絶望の国の幸福な若者たち』で注目され、メディアでも活躍。他の著書に『誰の味方でもありません』『平成くん、さようなら』『絶対に挫折しない日本史』など。
「週刊新潮」2024年9月5日号 掲載