「隠れパワハラ人材」見抜く採用担当あの手この手
限られた選考プロセスで、"隠れパワハラ人材"を見抜くのは相当困難です(写真:metamorworks / PIXTA)
組織をより良くするための“黒子”として暗躍している、企業の人事担当にフォーカスする連載『「人事の裏側、明かします」人事担当マル秘ノート』。現役の人事部長である筆者が実体験をもとに、知られざる苦労や人間模様をお伝えしています。連載6回目は、入社後にパワハラしそうな「隠れパワハラ人材」を見抜くための採用方法についてお伝えします。
前記事:「職場のパワハラ人材」容易に解雇できないワケ」
パワハラ人材の採用を未然に防いだ実話
パワハラ問題は一筋縄ではいかないだけに、そもそもパワハラしそうな人材(隠れパワハラ人材)は、あらかじめ組織に入れないのが鉄則。私自身は応募者とのコミュニケーションの中で、少しでも威圧感などの“パワハラ臭”を感じたら、不採用にすることを心がけている。
これはかつて私が働いていた会社での実例だが、あるとき経歴も実績も非の打ち所がないAさん(52歳)という応募者の男性が現れた。
最終選考まで進む段階になったとき、Aさんの経歴書類をたまたま見た人事部のスタッフが「この人、知ってます!」と驚いた表情で言い放った。どうやら前の職場でAさんと一緒に働いていた経験があるらしく、当時からあまりいい噂を聞かなかったと言うのだ。
「Aさんとは別の部署だったんですけど、わりと厳しめのマネジメントをする人で、部下が何人も辞めているって有名だったんですよ」と、苦い表情をするスタッフ。
その一言を聞いて、私はAさんの選考をストップした。部下が何人も辞めている時点で、Aさんはマネジメントに向いていないどころか、問題行動も起こしそうな予感がしたからだ。
いくら優秀な人でも、部下をバタバタと潰されては困る。パワハラしそうな人物の採用を未然に防げてよかったと安堵した実例だった。
このように、かつての職場での評判が巡り巡って、次の転職先にまで及ぶこともある。自身の行いをどこで誰が見ているかわからない。私自身も気を引き締めようと思った出来事でもあった。
適性検査と「キラー質問」
限られた選考プロセスで、隠れパワハラ人材を見抜くのは相当困難ではあるのだが、私なりの苦肉の対策方法についてお伝えしようと思う。
まず1つ目の対策として取り入れているのが、「適性検査」だ。中でも、脳科学や統計学に基づいて開発された、「TAL(タル)」という適性検査を活用している。
「TAL」は、ストレス耐性やメンタル疾患発症傾向を測ると同時に、応募者自身の内面の特性を把握・分析できるのが特徴だ。主に以下の項目について分析できる。
コミュニケーション力/ストレス耐性/責任感/積極性/行動力/向上心/メンタル傾向/コンプライアンス傾向 など
この検査は、36問の文章問題(7肢2択)と図形配置問題(1問のみ)で構成されている。出題内容がかなり独創的で、いったい何が正解なのかがわかりにくい。そのため、応募者が事前に対策しづらく、より本人の特性に近い内的傾向をつかめるのがメリットだ。
もちろん、この分析結果だけで応募者がパワハラするかどうかを見抜けるわけではない。だが、仕事で思わぬストレスがかかった時にその人がどういう状況に陥りやすいか、はたまたどういう問題行動を起こしそうか、ある程度の傾向をつかむことはできる。
分析結果でよほど気になる点が見つかった場合は、面接官全員に共有して、その気になる点を面接でも掘り下げる。そして結果の通り、問題行動を起こしそうだと判断したら、不採用にする。
このように、あくまで“選考の補助ツール”の一つとして使うわけだが、応募者の人間性を推し量るうえで役立っているのは間違いない。
最もその人物を知る手がかりを得られるのは、やはり面接の時間だ。手の内を明かすことになるので、質問の中身は言えないのだが、私自身、パワハラ人材を見抜くための「キラー質問」を用意している。
その質問をすると、ほぼ全員が驚いたり、困惑したりする表情をするので、応募者にとってはかなり想定外の内容なのだと思う。
私がそこで注目しているのは、答えの中身というより、質問に対する“答え方”だ。
返答に時間がかかってもいいので、「自分自身を冷静に客観視した答えができているか?」「しっかりと自分の言葉で誠実に語っているか?」を注視している。答えをあやふやにしてごまかしたり、変に流暢だったりするのは疑わしいと見ている。
また、掘り下げる質問や予想外の質問を投げかけたときに、眼光鋭くなったり、顔色がピキっと変わったりする人もいるので、そうした一瞬の表情の変化も見逃さないようにしている。少しイラついたように「いや、ですから」「先ほども言いましたけど」などと、強い口調になるのも要注意だ。
面接中や面接後のやり取りのメールで、何度も細かく待遇などの条件について確認する人もあまり好感は持てない。
条件面について事前に確認するのは大事なことなのだが、あまりに度を越えた質問の多さや細かさがあると、執拗さを感じてしまう。入社後も部下や周りの社員にしつこく問い詰めるのではないかと容易に想像できるため、こうした人物も不採用候補になる。
面接以外の場で横柄な人こそアウト
最近はオンライン面接も増えたが、やはり対面での面接のほうが応募者の人柄を知るうえでメリットが大きいのは確かだ。
それは、面接中のみならず、“面接以外の場”での態度も見られるからだ。たとえば、応接室に通される前の受付での対応や、応接室で社員からお茶を出されたときの態度……。そうした面接以外のシーンで、応募者がどういう態度や言動をとったか、受付やお茶を出してくれたスタッフにヒアリングすることもある。
とくに40〜50代の男性に多いのだが、面接ではソフトで人当たりもいいのに、それ以外の場での態度が横柄な人も一定数いる。おそらく、受付やお茶を出してくれたスタッフを“自分よりも下の立場”だと思って、高圧的な態度になっているのだろう。面接前の気を抜いている時間だからこそ、本性が出やすい。
そういう人は、入社後も部下や立場が弱い人たちを軽視し、パワハラする恐れがあるため、不採用候補になる。
ちなみに、私がかつて勤めていた会社の事務職の女性は、応募者の受付対応やお茶出しをしてくれていたが、「私への態度で、応募者が採用されるか、不採用になるかが一瞬でわかるようになった」と言っていた。
つまり、自身への態度がぶっきらぼうだったり、横柄だったりすると、「この人は間違いなく選考で落ちるな……」と、確信していたということだ。
選考は、面接官だけでするわけじゃない。ときに他のスタッフも目を光らせる、“総力戦”で当たることもある。
一方、面接以外でその人物を知る手段として、「リファレンスチェック」というものもある。これは、応募者の職務経歴や実績に虚偽がないかどうか、本人の同意を得たうえで前職の上司や同僚、部下などに確認できる仕組みだが、このリファレンスチェックの内容も大いに参考になる。
それは、応募者のマネジメントの仕方や部下へのコミュニケーションの取り方など、前職の関係者へのインタビューによって、詳細に把握できるからだ。
たとえば、「〇〇さんは強いリーダーシップで部下を叱咤激励することも多い」とか、「やや神経質なタイプで、部下の進捗状況を細かく尋ねることもある」などのコメントがあった場合は、パワハラ気質がまったくないとも言い切れない。
このように気になるコメントがあった場合は、面接でも入念に掘り下げるようにしている。
パワハラ加害を恐れて絵文字を多用する上司
最近は、部下から「怖い」と思われないよう、ビジネスチャットで絵文字を使う40〜50代の管理職も出てきている。絵文字を多用する「おじさん構文」とは、もしや若い世代から恐れられないための窮余の策なのかもしれないと思うほどだ。
パワハラは決して許されないものだが、パワハラ加害を恐れすぎるのもまた働きにくさにつながってしまう。
誰もがその時々の体調や精神状態で感情が高ぶり、つい強い口調になってしまうこともあるし、受け取り側も必要以上に重く、悲観的に捉えてしまうこともある。だからこそ、互いの誤解や食い違いをなるべく早い段階で解消し、理解し合えるような空気も大切だ。
人事としては、パワハラしそうな人材を事前に見抜き、断固採用しないのはもちろんだが、一方でパワハラを過度に恐れすぎない「風通しのよい職場づくり」をしていく必要もあるのかもしれない。
【前記事】「職場のパワハラ人材」容易に解雇できないワケ」
連載一覧はこちら
(萬屋 たくみ : 会社員(人事部長))