MT-09Y-AMTに搭載されるY-AMTのレイアウト図(写真:ヤマハ発動機)

写真拡大 (全12枚)


ヤマハから発表された新型バイク「MT-09 Y-AMT」(写真:ヤマハ発動機

ヤマハ発動機(以下、ヤマハ)は、2024年7月26日、自動化MT(マニュアル・トランスミッション)の新機構「Y-AMT(ワイ・エーエムティ)」を搭載したスポーツバイク「MT-09 Y-AMT」を、2024年内に国内発売することを発表した。

Y-AMTは、クラッチレバーやシフトペダルを廃し、ハンドルに装備したシフトレバーで変速操作を可能とする新開発の自動変速トランスミッションだ。また、フルオートで変速するAT(オートマチック・トランスミッション)機能も備え、ライダーが任意に選択することが可能。これらにより、ライダーは、クラッチやシフトペダルの操作が不要となり、体重移動やスロットル開閉、ブレーキングなど、ほかの操作に集中できることで、よりバイクを操る楽しさを堪能できるという。

【写真】ヤマハが発表したY-AMT搭載のスポーツバイク「MT-09 Y-AMT」とは? なぜ、バイクメーカー各社がセミオートマ化を進めるのか?(83枚)

各社が投入するセミオートマのバイク

いわば、パドルシフトによる手動変速とATモードを備える4輪車のセミオートマ(セミオートマチック)的な機構がY-AMT。2輪車では、従来、こうした機構はあまり一般的ではなかったが、本田技研工業(以下、ホンダ)が、2016年に同様の機構「DCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)」を「CRF1100Lアフリカツイン」に世界初採用。また、2024年には、クラッチレバーやシフトペダルを備えつつ、操作を自動化した新機構「ホンダE-クラッチ」を「CBR650R/CB650R」の2024年モデルに搭載し、ヤマハに先行している。ほかにも、ドイツBMWバイクブランドであるBMWモトラッド(以下、BMW)でも、Y-AMTと似たような機構「ASA(オートメイテッド・シフト・アシスタント)」を発表。今後、世界的にスポーツバイクのセミオートマ化が進む傾向にあることがうかがえる。

ここでは、ヤマハが開催したメディア向けオンライン会見に参加し、新開発のY-AMTをはじめ、搭載モデルMT-09 Y-AMTの概要について取材。それらの内容を紹介するとともに、他メーカーの動向も踏まえ、スポーツバイクのセミオートマ化が今後のトレンドとなるのかなどについて検証する。

ヤマハが発表した自動化MTの新機構「Y-AMT」の概要


MT-09にY-AMTを搭載するレイアウトイメージ(写真:ヤマハ発動機

Y-AMTは、2024年6月に欧州で先行発表、国内では今回が正式発表となる。主な特徴を以下に紹介しよう。

一般的にバイクのMT車は、左手によるクラッチ操作と、左足によるシフト操作によってシフトチェンジを行う。対してY-AMTは、これらのアクションをアクチュエーター(電動モーターを使った駆動装置)が担当。人による操作なしで、自動的にギアチェンジを可能とするシステムだ。

主な仕組みは、ECU(エンジンの制御を司るエンジンコントロールユニット)とMCU(アクチュエーターの制御を司るモーターコントロールユニット)が通信で連携。ECUは、シフトアップ時のエンジン点火/噴射、シフトダウン時の電子制御スロットルなどをコントロール。MCUは、ECUからの情報をもとに、最適なシフト操作・クラッチ操作をアクチュエーターに指示し、ギアチェンジを自動で行う。

しかも前述のとおり、シフトレバーで手動操作する「MTモード」と、変速を完全自動化する「ATモード」の両方を搭載。モードの変更は、ハンドルのスイッチボックスに備えた切替ボタンで行う。


左ハンドルのシフトレバー(写真:ヤマハ発動機

MTモードでは、左ハンドルにあるシフトレバーで変速操作を実施。「+」レバーを人さし指で引けばシフトアップ、「−」レバーを親指で押せばシフトダウンする。また、スポーツ走行で素早く減速する際などは、親指も使ってハンドルグリップをしっかりとホールドすることも多い。そうしたシーンでは、「+」レバーと人さし指のみの操作も可能で、引けばシフトアップ、外側に弾けばシフトダウンとなる。


右ハンドルの切替ボタン(写真:ヤマハ発動機

一方、ATモードにすると、車速やアクセル開度に応じて最適なギアをバイクが自動的に選択する。ライダーが行うのはアクセルとブレーキ操作だけだ。また、ATモードには、穏やかな走りとなる「D」と、スポーティで俊敏な走行が可能な「D+」といった2つのモードも用意。なお、MTとATの切り替えは、右ハンドルのスイッチボックス外側にあるレバーを押すことで可能だ。

MT-09 Y-AMTの概要


ヤマハMT-09のスタンダード仕様(写真:ヤマハ発動機

こうした新機構を搭載し、2024年内に国内販売を予定するのが、900ccのスポーツモデルMT-09 Y-AMTだ。このモデルは、アグレッシブなスタイルや、街中からワインディングまで軽快に走れることが特徴のMT-09がベース。888cc・3気筒エンジンを搭載するカウルレスのネイキッドと呼ばれるスポーツモデルだ。

エンジンは最高出力120PSものハイパワーを発揮。剛性バランスを最適化したCF(コントロールド・フィリング)アルミダイキャスト製フレームや、超軽量に仕上げた「スピンフォージド・ホイール」など数々の最新技術により、車両重量193kg〜194kgという軽い車体も実現する。これらにより、街中からワインディング、高速道路まで、幅広いシーンで軽快なハンドリングを楽しめるモデルだ。なお、ラインナップには、スタンダード仕様に加え、専用フロントサスペンションなどを装備した上級グレードのMT-09 SPも用意する。

新型のMT-09 Y-AMTは、このMT-09のトランスミッションに、Y-AMTを追加した仕様だ。ヤマハによれば、Y-AMTは、ベースとなるMT車の変速機構に大きな変更を加える必要がなく、しかもユニット重量は約2.8kg。軽量かつスリム・コンパクトな設計を実現することで、ベース車両本来のスタイリングやハンドリングへの影響を最小限に抑えることが可能だという。

実際に公開されたMT-09 Y-AMTのスタイル写真を見る限り、ほぼMT-09と変わらないといえる。MT車のスタンダードモデルと比較すると、パッと見はクラッチレバーとシフトペダルの装備がない程度。また、エンジンの一部には、追加されたY-AMTのユニットが見えるものの、それ以外はスタンダードのMT-09そのままだ。

Y-AMTの効果


オンライン会見で説明されたY-AMTによる効果(写真:ヤマハ発動機

Y-AMTを搭載することによるメリットは、ヤマハによれば、クラッチやシフト操作が不要なことで、「(MT車と比べ)より意のままにバイクを操れる楽しさを味わえる」ことだという。

とくにMTモードでは、MT車と同等以上にスムーズかつ素早いギアチェンジが可能。また、シフト操作は、アクセルを開けたまま行うこともできるため、エンジン性能を最大限に生かした爽快な加速が得られるという。

加えて、変速ショックが少ないことで、コーナリング中の安定感も向上。さらに、シフトペダル操作が不要なため、下半身でのホールド感、ライディングポジションの自由度などを向上させることにも貢献するという。


Y-AMTを搭載することによるメリット(写真:ヤマハ発動機

一方、ATモードでは、ライダーが行うのはアクセルとブレーキの操作だけとなる。そのため、例えば、ツーリング先でのんびりと走り、まわりの景色を味わうことも可能。また、市街地などでは、頻繁なギアチェンジが不要なため、ロングツーリングなどでのライダーの負担を大幅に軽減するという。

つまり、Y-AMTは、MTモードでよりスポーティかつスムーズな走りを体感できるだけでなく、ATモードで快適な走りも味わえる機構だといえる。ユーザーは、デイリーユースやツーリング、スポーツライディングまで、幅広いシーンにマッチする多様な走りを、1台のバイクで楽しめるということだ。なお、運転するのに必要な免許は、ベース車のMT-09が大型二輪免許なのに対し、MT-09 Y-AMTでは、AT限定の大型二輪免許でも可能だ。

ホンダのE-クラッチ、DCTとの違い


E-クラッチを採用したホンダのCBR650R(本田技研工業)

以上がY-AMTや搭載モデルの概要だ。前述のとおり、同様の機構では、ホンダが2024年6月に発売した650cc・4気筒の新型「CBR650R」と「CB650R」に搭載するホンダE-クラッチがある。

ただし、こちらは、従来のMT車と同様に、シフトペダルとクラッチレバーを備えており、シフトチェンジ時はペダルを動かす必要がある。あくまで、クラッチ操作を自動化した機構であることがY-AMTと異なる点だ。なお、通常のMT車と同じく、クラッチレバーを握ったり、離したりする手動操作も可能だ。


2024モデルのCRF1100Lアフリカツイン(写真:本田技研工業)

一方、同じホンダのDCTは、Y-AMTに近い装備だといえる。クラッチレバーやシフトペダルがなく、AT機構に加え、左ハンドルのシフトレバーで手動変速も可能なセミオートマ機構だからだ。なお、DCTは、これも先に述べたとおり、2016年にCRF1100Lアフリカツインへ世界初採用。その後、「NT1100」や「レブル1100」「NC750X」といった大型ツアラーなどに採用し、搭載車種を拡大している。

Y-AMTとの違いは、DCTでは、1速-3速-5速-発進用クラッチと、2速-4速-6速用クラッチという2つのクラッチを備えていること。Y-AMTは、ホンダE-クラッチのように、通常のMT機構に追加する機構である点が異なる。実際にヤマハも、「ホンダのDCTは、(Y-AMTと比べ)変速のスムーズさでは上。だが、より軽量で、従来のMT機構を使える点がY-AMTの優位点」だという。つまり、Y-AMTは、今回採用したMT-09のY-AMT仕様車のように、大がかりな仕様変更が不要なため、本来のスタイルをさほど変えずに搭載が可能なのだ。その点も、ホンダE-クラッチに似ている。


ヤマハの「MT-07」(写真:ヤマハ発動機

なお、ヤマハは今後、例えば、700ccのスポーツモデルなど、Y-AMT搭載車をさまざまな機種へ拡大する方針だという。次の採用モデルとしては、おそらく、MT-09の兄弟車で700cc・2気筒エンジンを搭載する「MT-07」あたりが有力だろう。

ちなみに、ホンダも今後、ホンダE-クラッチの搭載車種を増やす方針を公表している。さらに、カワサキモータース(以下、カワサキ)が、発売を予定しているハイブリッドバイク「ニンジャ7ハイブリッド」「Z7ハイブリッド」も、クラッチレバーやシフトペダルのないセミオートマ車だ。ほかにも、ドイツのBMWが2024年7月に欧州で発表した新型の大型ツアラー「R1300GSアドベンチャー」にも、独自機構のASAを搭載。こちらも、Y-AMTに近いセミオートマ機構を採用している点が特徴だ。

各メーカーで加速するセミオートマ化

このように2024年に入り、各メーカーから続々と発表されているのがMTなど変速機構の自動化システム。まさに2024年以降のトレンドとなりそうな勢いだ。


ヤマハの「FJR1300AS」(写真:ヤマハ発動機

だが、こうした動向は、市場からのニーズの高まりなども影響しているのだろうか。この点について、ヤマハへ質問してみた。それによれば、ヤマハでは、2006年発売の大型ツアラーモデル「FJR1300AS(現在は生産終了)」に、「YCC-S」という自動化MTシステムを採用。これは、クラッチレバーがなく、変速操作は左足のシフトペダル、または左ハンドルスイッチにあるハンドシフトレバーで行う機構で、Y-AMTの前身といえる機構だ。

ヤマハでは、それ以来、長年にわたり電子制御シフトの開発を進めており、今回Y-AMTを発表。つまり、他メーカーからも同様のシステムが近いタイミングで出てきたのは、「たまたま」なのだという。ただし、発売前の市場調査などでは、「ホンダのDCT搭載車は参考にした」という。前述のとおり、2016年からCRF1100Lアフリカツインへ搭載し、現在は搭載車種も増えているDCTは、ヤマハの調査でも「欧州や日本などの市場に浸透してきている」ことがわかったという。そして、そうした市場の動向も、Y-AMT搭載車をリリースする後押しとなったようだ。

今後の展開について

MT-09 Y-AMTの国内発売時期は、2024年7月26日現在、未発表だ。ベースとなるMT-09と同様のグローバルモデルであるため、欧州など海外で先に発売されるか、ほぼ同時期の発売になるかもしれない。


東洋経済オンライン「自動車最前線」は、自動車にまつわるホットなニュースをタイムリーに配信! 記事一覧はこちら

また、価格についても、ヤマハは「まだ公表はできない」という。ただし、「(ベース車から)大幅な価格アップにはならない」はずだという。ちなみに、MT仕様のMT-09は、国内販売価格(税込み)がスタンダード車で125万4000円、上級グレードのSPで144万1000円だ。MT-09 Y-AMTは、これらに近い価格帯になることが予想される。

今後、スポーツバイクなどの市場で拡大が予想され、各メーカー間のシェア争いも激化しそうなのが、セミオートマ仕様車。MT-09 Y-AMTをはじめとするこうしたモデルたちが、これから我々バイク好きに、どのようなライディング体験を提供してくれるのか楽しみだ。

(平塚 直樹 : ライター&エディター)