結婚相談所の場合は「告白」がないため、最後の「プロポーズ」を重視する傾向があります(写真:shuu/PIXTA)

結婚相談所の経営者として婚活現場の第一線に立つ筆者が、急激に変わっている日本の婚活事情について解説する本連載。今回は、婚活をしている男女が集大成としてこだわり、理想を叶えるために何度もやり直し、失敗すれば破談もありうるプロポーズについて解説します。

1回目のプロポーズは誕生日で失敗

結婚相談所では「真剣交際」(互いに1人だけと交際し、他の人とのお見合いなどもしない状態)に入ってから、基本的には3カ月、最大でも6カ月経ったら成婚退会するか、交際終了にするかのどちらかを選ばなければなりません。

30代女性の奈緒さん(仮名)と30代男性の優樹さん(仮名)は、6カ月いっぱいかかってようやく成婚となりました。しかも、プロポーズは3回。奈緒さんの希望のプロポーズが叶うまで、やり直すことになったのです。

優樹さんはいわゆるイケメンでモテそうなタイプ。しかし、他の相談所で婚活がうまくいかず、当相談所に入会したという経緯があります。なぜうまくいかなかったのだろうと不思議に思っていたのですが、奈緒さんとの婚活を通して納得がいきました。女性の心理にうまく応えきれないところがあったようです。奈緒さんでなければきっと破談になっていたでしょう。

最初のプロポーズは奈緒さんの誕生日でした。一緒にレストランで食事をして、デザートプレートが運ばれてきました。優樹さんはこのタイミングでプロポーズをすることを決めていたようですが、デザートプレートに書かれていたのは「Happy Birthday」の文字。

にもかかわらず、突然優樹さんはエンゲージリングを差し出しました。すでにエンゲージリングを買っていたなんて奈緒さんはまったく知りませんでしたし、あとで聞いたところによると、人気の高級ブランドで100万円以上もしたそうです。

そしてこのタイミングでプロポーズをするのであれば、「デザートには『Will you marry me?』などと書いておくべきでは?」と思ったとのこと。奈緒さんは突然のプロポーズに驚き呆れ、その日は場がしらけてしまいました。

いきなりプロポーズをした理由

奈緒さんは「この日がプロポーズ」とあらかじめわかっていれば、美容院に行ってセットして、お気に入りのワンピースを着て、それに合わせて買った靴を履くつもりでした。しかし、もともとこの日は誕生日ディナーだと思っていたので、そうした用意はしていませんでした。

しかも、エンゲージリングは優樹さんが勝手に買ってきたもの。アドバイスはお母様だったようです。多くのカップルはいくつかブランドを一緒に見て回り、2人で相談して購入します。

奈緒さんは、自分の好みを聞いてくれず、お母様の意見に従ったと聞いて「納得がいかない」と腹を立ててしまいました。そのうえまだ奈緒さんの親に挨拶にも行っていません。行く日程は決めていたのですが、優樹さんが勝手に突っ走ったものだから順序がひっくり返ってしまったのです。

あとで私から優樹さんにどうしていきなりプロポーズをしたのかと聞いたら、「奈緒さんは以前、『誕生日までに結婚したい』と言っていたから」と言います。確かに、奈緒さんはそう言っていました。

しかし、それは何カ月も前、まだ結婚が現実的に進む以前の「理想の話」です。そのあと、親に挨拶する日取りを決めるなどしたのだから、そちらに頭を切り替えるべきなのですが⋯⋯。とりあえずプロポーズをやり直すことになり、優樹さんはリベンジを誓いました。

そして2回目のプロポーズ

2回目のプロポーズは日程を決めたきり、一向に場所も時間も決まりません。あげく優樹さんは「天気がよかったら遊園地に行こうか、映画に行こうか」などと言いだしました。

前述したようにプロポーズの日には美容院に行くなど念入りな準備をしたい奈緒さんがしびれを切らして、「遊園地も映画も行かなくていいよ。目的はなんだっけ? 18時にレストランに集合しましょう」と段取りを決めました。

そして当日、レストランに着くとすでにテーブルの上に花束が置いてありました。本来は、優樹さんがレストランの人と事前に打ち合わせをして、例えば「デザートのときに花束を持ってきてください」などと伝えておかなければなりません。

ところが優樹さんは店や花束の予約でいっぱいいっぱいだったようです。彼女の指摘によっていったん花束をお店の人に下げてもらって、またデザートのときに花束と、以前出したエンゲージリングを差し出しました。デザートプレートに書いてあったのは「Will you marry me?」ではなく「Happy anniversary!」。奈緒さんはまたがっかりしたそう。

1回目、2回目と失敗し、ふつうは破談になってもおかしくない状況です。しかし、奈緒さんは根気強く優樹さんに「プロポーズはこうしてほしい」と丁寧に教えました。優樹さんは素直に聞いてくれるので、教えがいがある。そこが他の男性にはない、優樹さんのいいところだと奈緒さんは思ったのです。

女性があれこれリードすると、男性によっては「うるさいな」と嫌がって逃げてしまう人もいますが、優樹さんは優樹さんで、奈緒さんがお母さんのようにリードしてくれることを心地よく感じていました。そして3回目のプロポーズを約束しました。

女性がプロポーズにこだわるワケ

奈緒さんがプロポーズにこだわった背景の1つに、結婚相談所の場合は「告白」がないことがあります。相談所の多くのカップルは「好きです」と互いの気持ちを確かめあわないまま、プロポーズまで進みます。最後のプロポーズがいわゆる告白にあたるわけです。ですからプロポーズを重視する傾向があります。

また、プロポーズ婚活をしている男女にとっての「夢」でもあります。プロポーズ、エンゲージリング、結婚式。この3つに憧れて婚活を続けてきた。令和の今の時代でも、理想通りのプロポーズをしてほしい(したい)という希望を抱いている人は少なくありません。

プロポーズは、婚活の集大成であり、お互いにとっての“卒業試験”でもあるのです。逆に言えば、それまで順調でも、プロポーズがそれぞれの希望に合わないと破談になるケースも多くあります。

ですから、結婚相談所では、内々で男女それぞれが希望するプロポーズのシチュエーションをあらかじめ詳しく教えてもらいます。具体的には、真剣交際に入った段階で男性側・女性側それぞれのアドバイザーが「ご希望のプロポーズのシチュエーションをお教えください」と希望を聞き出します。海が見えるところ、東京タワーが見えるところ、おしゃれなレストラン、夜景を見ながら⋯⋯など、こだわりはさまざま。それをできる限り叶えようとするのです。

水中でプロポーズしてほしいという女性もいました。彼女の趣味はダイビング。しかし、男性はダイビング未経験者のため「怖いから無理」と断られてしまいました。「フラッシュモブで大勢の人に祝福してもらいながらプロポーズされたい」という女性も。

男性が恥ずかしがって断ったので、代わりにレストランの人に「本日はこちらのテーブルの方がプロポーズされます」とマイクでアナウンスしてもらいました。それも男性は相当恥ずかしがっていましたが、かろうじてOKして実行しました。

カップルでエンゲージリングを買いに行き、店員さんに「どうぞ指につけてご覧になってください」と言われて、男性がすかさず自分の指にはめて破談になったこともありました。結婚指輪と違い、エンゲージリングは基本的に女性がつけるものです。

その男性は自分用に薦められたと捉えてしまい、女性そっちのけで、自分の指にキラキラ輝くダイヤをながめていました。女性は相当恥ずかしかったようです。

チャペルでプロポーズしたかった男性

男性でそこまでプロポーズにこだわる人はあまりいませんが、1人だけ「レストランに隣接しているチャペルでひざまずいてプロポーズしたい」と希望した男性がいました。エンゲージリングはオーダーしたものの時間がかかるので、まずは高級ブランドのキーケースを購入して、その中に自分のマンションのカギを入れたものを用意。

これを実現させたいと準備していたため、彼女が目標としていた「3カ月以内でのプロポーズ」が叶いませんでした。そんな事情は知らず、女性は「プロポーズに進まないから交際終了したい」と憤慨。

なんとかなだめて、彼に急ぐように電話をしたら出張中。代わりに彼の母親が、彼の署名入りの婚姻届を持参され、「いつでも提出してください。そして息子が出張から帰ってきたら改めてプロポーズさせていただきます」とおっしゃるという、前代未聞の事態になったこともありました。


この連載の一覧はこちら

(植草 美幸 : 恋愛・婚活アドバイザー、結婚相談所マリーミー代表)