トム・ホッジソン(振付補)、エド・バーンサイド(演出補)

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Daiwa House presentsミュージカル『ビリー・エリオット~リトル・ダンサー~』が2024年8月2日(金)~10月26日(土)、東京・東京建物Brillia HALL、11月9日(土)~11月24日(日)大阪・SkyシアターMBSで上演される(7月27日(土)~8月1日(木)はオープニング公演)。

本作品は、1980年代のイギリス北部の炭鉱の町を舞台に、踊ることが好きなひとりの少年と彼を取り巻く大人たちの姿を描き、世界中を虜にした映画『BILLY ELLIOT』(邦題『リトル・ダンサー』)をミュージカル化した作品。ビリーの圧倒的なパフォーマンスと、作品の持つ巨大なエネルギーが評価され、2006年には英国ローレンス・オリヴィエ賞4部門、2009年にはトニー賞で10部門を獲得している。日本では2017年に日本キャストによる初演が開幕。2020年には再演もおこなわれ、今回は3度目の日本上演となる。

開幕を直前に控えた7月某日、演出補のエド・バーンサイドと、振付補のトム・ホッジソンがSPICEの単独インタビューに応じ、今回のカンパニーの仕上がりや見どころについて語った。

Daiwa House presents ミュージカル『ビリー・エリオット~リトル・ダンサー~』

ーーオープニング公演が7月27日(土)よりスタートし、本公演開幕も近づいてきました。お二人から見て、今回の日本のカンパニーの仕上がりはいかがでしょうか。稽古で印象に残っていることもあわせて教えてください。

トム・ホッジソン(以下、トム):素晴らしいカンパニーです。我々は常に、カンパニーのみなさんの表現力の高さに感嘆しています。本当に全身全霊で取り組む方々ですから。今、カンパニーはあるべき“ドンピシャ”の場所にいて、初日に向けてとてもいい状態です。我々も、この公演を日本の観客の皆さんにご覧いただけることを楽しみにしていますし、とても興奮しています。

エド・バーンサイド(以下、エド):カンパニーの皆さんが、もう1回新しいものを作ろうという心意気で稽古に臨んでくださるんですよ。初演から今回の再再演まで3回すべてにご参加いただいてる方もいらっしゃるんですけど、常に新しいアイデアがないかを考え、この公演をより良くするために考えてくださっています。実際に、稽古場でもそうした素晴らしい瞬間はたくさんありました。

例えば、クリスマスの場面を初めて立ち稽古した日のこと。その場には、この公演に出演する全キャストがいたのですが、皆さんが疲れを見せずに何度も何度もシーンを演じてくださいました。それも、毎回新しいアイデアをもたらしながら。これ以上、演出家として皆さんに求めるべきことはないです。

ーー期待感がすごく伝わってきました。3代目のビリーたちの見どころや魅力は?

エド:(浅田)良舞、(石黒)瑛土、(井上)宇一郎、(春山)嘉夢一という4人のビリーは“四者四様”で、それこそがまた素晴らしいことです。つまり、1公演として全く同じ公演にはなり得ないわけです。

私がこれまで一緒に稽古してきた全てのビリーに言えることですけれど、ビリーはダンサーとして非常に高いスキルが求められます。今回の4人は世界水準のダンサーです。それがもう本当にスリリングで、エキサイティング!また、今回は年齢にも幅があるので、このビリーという人物から、4人それぞれ違うニュアンスが引き出されていて、それぞれ違うところで感動させられます。なので、4人全員のビリーをぜひ観てほしいですね。

エド・バーンサイド

ーー「世界水準のダンサー」とは!そういったことは本人たちにも伝えているのですか?

トム:言っていません。というのも、我々はゴールラインを常にあげていくんです。何事も、ものすごいものを得ようとしたときには、ゴールを設定しないといけませんよね。そうでないと、何も手がかりがないまま、闇雲に進むことになりますから。そして、ある1つのレベルまで来たら、「よっしゃ、いいね。すごいぞ。じゃあ、次のレベルにいくぞ」「今はここのレベルだ。どうやったらもっと上手くなれるかな」と言いながら、どんどんレベルを上げていくんです。

決して「褒めたくはない」と言っているわけではないです。むしろ、頑張っているときは「頑張っているね」と言うし、すごくよかったときは「すごくいいよ」と伝えています。コーチングのようなものですね。「ここでいい」というゴールはないですし、そこで満足していてはいけないので、いつも次のレベル、次のレベルへとプッシュしていく。それはこのビリーたちに限らず、芸事の世界では極々当たり前のことだと思います。

ーーなるほど。ところで、今回のビリー4人は、全員“バレエボーイズ”ですね。

トム:そうですね。4人は、最初に出会ったときからかなりのクラシックバレエの素養を持っていました。あの年齢で、あれだけのものを持っているというだけで奇跡的なことだと思います。

ですが、我々がさらに圧倒されたのは、その後の彼らの成長です。ビリーはバレエだけではなく、他のジャンルのものにも精通している必要があります。器械体操もタップもできなかったし、ジャズダンスもそんなに踊れたわけではないのに、全てのジャンルをモノにしていきました。俳優としても素晴らしいですしね。稽古を経て、より表現者としてのパッケージが豊かで、強いものになったと思います。

ミュージカル「ビリー・エリオット」♪Electricity(エレクトリシティ) パフォーマンス映像

ーーそれぞれ演出や振付をする際に心がけていることを教えてください。

エド:私は「毎回新しいものにする」ということですね。この作品は、ある少年の物語です。けれども、コミュニティの話でもあるわけです。なので、我々は俳優陣とともに、嘘がなく、信じられるコミュニティづくりをしなくてはなりません。

参加されている方を巻き込むことで、どういう性格や特徴が出てくるのか。それが演出の土台になります。この『ビリー・エリオット』という公演はずっとそのように稽古してきたので、「ここに立ってください」と指示するだけで上演できる類いの公演ではないんです。常に真新しい、新作であるかのような取りかかり方をしています。今年も間違いなくそれができたと思いますし、エキサイティングなカンパニーになっていますよ!

トム:エドの言う通りだと思います。振付の場合、見え方やフォーメーションの都合上、「ここでこれをやる」という具体的な指示や縛りは確かにあります。ですが、その中でどれだけキャストに信頼してもらえるかが重要なんです。信頼されてこそ初めて作品に、ストーリーに心血を注いでくれるから。

我々は時間をかけて説明します。「なぜ、あなたはこの段階で、これをしているのか」「このナンバーには誰々さんと誰々さんが横にいるけれど、そのとき何が起きていて、何を意図してこの行動に出ているのか」。そういった話を必ずして、役が嘘のない状態で生きていられるようにします。そうすることで「もう1回新しく作り直す」ということにチャレンジできるのです。

トム・ホッジソン

ーー創作の過程でも、本番でも、『ビリー・エリエット』という作品で、お二人が心震える瞬間はどんなときですか?

エド:僕がいつも言っていることなんですけど、僕の仕事は毎日泣くことなんです。あ、もちろんプラスの意味ですよ。やはり子どもたちの成長を見ていると、心を掴まれます。特にビリーの子たちはこれまで演技をやったことがなくて、この作品で初めて演技をする。つまり、経験値ゼロの状態から、類稀なる俳優として板の上に立つというところまで行くわけです。もうそのこと自体が感動的ですよね。

実際の公演の中で自分の心が震えることは、いくつもあるんですけれど……1幕の終わり、「Angry Dance」(アングリー・ダンス)を踊っているビリーたちを観ているときでしょうか。日によって違いますけど、一番心震える瞬間だと思います。

トム:そうですね。創作過程で心震える瞬間を言いますと、我々はそれぞれチームに分かれて別々の部屋で稽古を重ねて、最終的にそれを1つに合わせていくという過程を踏みます。エドと私は何週間もそれぞれどんな稽古をやっているのかを見ずに、自分のやるべきことに集中しているんです。もちろん、キャストの状態などは緊密に連絡をとっていますけどね。そうして積み重ねた稽古をつなぎ合わせ、フルな画が見えた瞬間、1つになった瞬間はとても感動的です。

ーー最後に、観劇を楽しみにされている皆さんにメッセージをお願いします!

エド:ぜひ観にいらしてください。5歳でも95歳でも、世代や国に関係なく、世界に普遍的に届くものがあります。そして、ぜひ何度もいらっしゃってください。なぜなら、これは生きた演劇作品で、毎回違う体感を得られるから。絶対に後悔しませんよ!

トム:同感ですね。最高品質、最高級の演劇作品。それを体感したかったら、もう方法は1つしかありません。劇場に来ていただいて、このキャスト、この子どもたちを観てください。編集やトリックは何もありません。素晴らしいクオリティの演劇がここにあります。絶対にがっかりさせませんし、絶対に忘れ得ない体験となることを約束します。

取材・文=五月女菜穂