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2003年、世界的に有名な学術誌Nature誌にて、「レスベラトロール」という物質が長寿遺伝子を増強する、という論文が発表されました。今回『最新科学で発見された 正しい寿命の延ばし方』(総合法令出版)より、世界中で注目されるレスベラトロールという“長生き成分”の正体と日常的に摂取するための方法について、詳しくみていきましょう。著者で代謝機能研究所所長の今井伸二郎氏が解説します。

“長生き成分”を巡る論争

皆さまは世界で一番売れている機能性食品は何かご存じでしょうか。それは、レスベラトロール(化学用語でスチルベン)という分類に入る物質です。

2003年「レスベラトロールが長寿遺伝子を増強する」と発表

STAP細胞の発見者として世の中の注目を集めた女性研究者の小保方晴子さんがその論文を発表したのが、世界中の研究者があこがれるNature誌です。

私もこの科学研究誌に数回投稿し、あえなく撃沈してしまいましたが、レスベラトロールがサーチュインの酵素活性速度を増強する活性があるとの報告がNature誌に掲載され、世界中の研究者の注目を浴びました。それが、2003年のことです。

サーチュインが長寿遺伝子として紹介され注目を浴びてから、数年でこの発見がなされたのですから、そのインパクトは相当のものでした。私も、一研究者としてこの発見を相当の驚きを持って迎えたことを覚えています。

2007年に報告された「反論」…レスベラトロールの論文はミスだった?

ところが、この発見が実は実験上のミスによるものではないかとの論文が2007年に報告されました。

2003年のNature誌へのレスベラトロールの論文が発表されて以来、その効果を検証する研究は多数行われ、その有効性が実証されてきました。多くの研究者が、レスベラトロールの有効性を証明していたころに、その根本的な研究を疑うような論文が投稿されたのですから、大変な騒ぎとなりました。

レスベラトロールのサーチュインに関する研究を発表した人はアメリカの大変有名な研究者で、この研究を元にサーチュインを活性化する医薬品を開発するベンチャー企業を立ち上げ、その企業への投資額は1千万ドル以上にもなりました。

それほどサーチュイン研究が盛り上がっている状況で、元々の研究が嘘なのではないかと主張する論文が出たのですから、それは大変なことになってしまいました。

私は、この反論論文が出たときには、「やはり、元々の論文が嘘だったのだろうな」と思いました。というのも、小保方さんに限らず世界中の研究論文には疑うに足る不明点が多く存在するのも事実だからです。

結局、レスベラトロールに「長寿」の効果はあるの?

研究はまず仮説をたて、それを実証していくのが一般的な手法です。しかし、必ずしも仮説がうまく実証されていくわけではありません。むしろ矛盾のあるデータが出てしまう場合が多いことも事実です。

そんなとき人間は弱いもので、ついデータを書き換えてしまう誘惑に駆られてしまいます。

小保方さんに関していうと、偶然にでも、1度はSTAP細胞を作り出したのは事実だったのではないかと私は思います。しかし、残念ながら彼女の研究の進め方に原因があり、STAP細胞の再現ができないために、あのような結果になってしまったのでしょう。

このような研究の創作や偽装は多く存在していますので、レスベラトロールの発見もそうだと思い込んでいました。

ところが、その後レスベラトロールの発見は間違いないとする論文が、元々の発見の研究者から報告されたのです。その内容は、アセチル基を外す相手のタンパク質の性質次第で、反応が進んだり進まなかったりするという内容でした。

この内容には私も驚きました。さっそく、このことが事実かどうか検証の実験を行いました。

その結果は正否半々といったところでしょうか。結論からいうと、やはりレスベラトロールには脱アセチル化を進める活性はないか、あったとしてもあまり強くはないと思われます。

レスベラトロールは「メタボ」や「老化」を予防する

では、レスベラトロールには健康寿命を延ばす力はないのでしょうか?

そんなことはありません。レスベラトロールにはサーチュインの脱アセチル化反応を促進する活性はあまりありませんが、サーチュインの遺伝子発現を促進する活性は強いので、結果的にメタボリックシンドロームや老化に伴う疾患を予防する機能があります。

遺伝子の発現量が多いことは結果的にサーチュイン自体の量が増えることになり、脱アセチル化活性も高まることになるからです。

健康寿命を延ばすにはサーチュインの脱アセチル化を促進させる方法と、サーチュインの遺伝子発現量を増加させる方法の2通りがあります。

[図表1]サーチュインの遺伝子発現を増加させる成分 出典:『最新科学で発見された 正しい寿命の延ばし方』(総合法令出版)より抜粋

サーチュインの遺伝子発現を増加させる成分について説明します。[図表1]をご覧ください。サーチュインの遺伝子発現を増加させる成分には、レスベラトロールをはじめ、エラグ酸、ウロリチンなどのエラグ酸誘導体、アクテオシドなどのフラボノイド類、ブテイン、ピセアタンノール、フィセチン、ルテオリンなどがあります。

これらのうち、成分の量あたりの強さを比較すると表に示すように、比較的強いのがレスベラトロールです。

「赤ワイン3L分」がもっとも長寿に効果的

レスベラトロールはブドウの種子に含まれていますが、普通ブドウのタネは食用にはしません。それでは食品からレスベラトロールを摂取するにはどうしたらいいか。その答えは赤ワインです

ワインは、ブドウを皮や種子ごとつぶしてそれを発酵させて製造されます。ですので、製造過程でタネが含まれるため必然的に赤ワインの中にはレスベラトロールが含まれます。一方、白ワインはブドウをつぶして濾過をしてから得たブドウジュースを発酵して作るので、ワインにはレスベラトロールは含まれていません

それでは、健康効果を期待してレスベラトロールを摂取するためには、どのくらい赤ワインを飲んだらよいのでしょうか?

ワインの種類にもよりますが、レスベラトロールは赤ワイン1杯に多くても1mg程度しか含まれず、赤ワインを多飲するといわれているヨーロッパ人の1日摂取量もわずか2mgと、食品としての赤ワイン摂取で健康に良い影響を与えることは少なそうです。

さまざまな実験データから、レスベラトロールの健康に良い影響を与える必要摂取量は1日あたり30mgから150mgといわれています。仮に30mgとして、赤ワインでレスベラトロールを摂取するには3Lも赤ワインを飲むことになります。

これでは、健康に良いどころか肝炎になってしまいます。肝炎にならなくても、アルコール中毒になってしまいそうです。

<まとめ>

・レスベラトロールはメタボリックシンドロームや老化に伴う疾患を予防する機能がある

・レスベラトロールはブドウの種子に含まれている

今井 伸二郎
医学博士
代謝機能研究所所長/東京工科大学名誉教授/藤田医科大学客員教授