篠山層群で発見の恐竜 新種と判明 眠っている姿で化石に 鳥類への進化を探る上で重要な発見
2010年と2011年に丹波篠山市(当時は篠山市)の白亜紀前期(1億1000万年前)の地層から発見された獣脚類恐竜の化石について、兵庫県立人と自然の博物館(三田市)などによる詳細な研究の結果、新属新種であることがわかり、25日、学術誌に発表された。現生の鳥類のように丸まって寝ているような状態で化石になっており、鳥類への進化の過程を探る上でも重要な鍵になるという。
研究を行ったのは、兵庫県立人と自然の博物館の久保田克博研究員、北海道大学総合博物館の小林快次教授、兵庫県立大学の池田忠広教授のグループ。化石は、まず2010年に、県立丹波並木道中央公園(丹波篠山市)で、調査を行っていた地元の地層探索グループ「篠山層群をしらべる会」の松原薫氏と大江孝治氏が発見した。県立人と自然の博物館によるクリーニングなどを経て、獣脚類の中でも鳥類に近いデイノニコサウルス類(トロオドン科とドロマエオサウルス科からなるグループ)の骨同士がつながった四肢骨であることがわかった。その翌年2011年には、同博物館が行った発掘調査でデイノニコサウルス類の後ろ足の一部を含む化石が見つかった。久保田研究員は「日本で見つかる化石は(骨が)バラバラになっていることが多いが、今回は一部ではあるものの、まさにつながった状態で保存されていた。これが日本から発見されたのかと驚いた」と振り返る。
その後の研究で、チームは、まず2つの化石が同一個体のものであることを突き止めた。2つの化石には重複した部分がないこと、化石の端に残る脛骨の断面はつながっていると考えられることなどがその理由だという。さらにCTスキャンで調べたところ、前足、ひざ、かかとを含む化石には、人間で肋骨に当たる骨や腹回りの骨、まっすぐに伸びた状態の後ろ足の指の骨が、もう一方には尻尾の骨があることが確認され、2つの岩塊には計81の骨が含まれていることがわかった。他のトロオドン科の恐竜には見られない特徴があることから、チームは新属新種と結論づけた。また系統解析の結果、トロオドン科の中でも進化的なグループであるトロオドン亜科で、その中で最も原始的なものの一つであることがわかった。
学名は「ヒプノヴェナトル・マツバラエトオオエオルム」。ヒプノはギリシャ語で「眠る」、ヴェナトルはラテン語で「狩人」を意味する。種小名の「マツバラ」「オオエ」はこの化石の第一発見者の松原氏と大江氏、「エト」は接続詞の「と」、「オルム」は種小名に複数の男性の名前が含まれる場合に用いられる語尾で、「松原と大江の眠る狩人」と命名された。体長は1.1メートル、体重は2.5キロほどと推定される。この時期のトロオドンとしては標準の大きさで、その後大型化していく。
学名のうち「眠る」がポイントで、この個体は、現生の鳥類と同じように丸まって眠る姿で化石になっていることがわかった。小林教授は「(発見されるのは)基本骨なので、行動まで化石にならない。寝ている姿が化石になったのは日本では初めて。世界的見ても稀で、恐竜の姿・様子が化石になった素晴らしい発見だ」と言う。そして「丸まって眠る。これは鳥類に進化する前、恐竜でもそうであったことはわかっているが、いつからなのかはわかっていない。鳥に近いトロオドンはその進化の鍵を握っている。その進化の空白を埋めるのに、今回の発見は1つのピースになった」と話す。
久保田研究員は、「日本で発見された恐竜からここまでわかるというのは大きい。今回の研究はアマチュアの化石愛好家の皆さんの協力があって実現した。感謝します」と、会見に同席した松原・大江両氏に改めて感謝を伝えた。
自身の名前が、恐竜の学名につけられたことについて、大江氏は「感動しかない」、松原氏は「研究者だけではなく発見者含め地道に活動している人を評価していただくのはありがたい」と話した。
篠山層群で発見され学名がつけられた恐竜化石は、卵殻化石を除くと、タンバティタニス(和名・丹波竜)に次いで2例目。日本本土から報告された鳥類を除く恐竜化石のうち、現在有効な学名を持つ恐竜としては12例目となる。
県立人と自然の博物館では、7月27日(土)から2025年1月13日(月)まで、「ヒプノヴェラトル・マツバラエトオオエオルム」の化石などを展示する。