あまりの猛暑で植物の光合成が停止し、熱帯雨林が二酸化炭素の吸収源から放出源へと転じるなど、未曽有の気候変動により常識外れの事態が次々と起きています。新しく、気温上昇が原因で植物が放出する化学物質が変化し、これが都市部の大気汚染の隠れた原因になっていたとの研究結果が報告されました。

Temperature-dependent emissions dominate aerosol and ozone formation in Los Angeles | Science

https://www.science.org/doi/10.1126/science.adg8204

The Sky over Los Angeles: Rising temperatures affect air quality

https://www.fz-juelich.de/en/news/archive/press-release/2024/the-sky-over-los-angeles-rising-temperatures-affect-air-quality

Trees Have Become a Hidden Source of Air Pollution in Los Angeles : ScienceAlert

https://www.sciencealert.com/trees-have-become-a-hidden-source-of-air-pollution-in-los-angeles



電気自動車への移行や、排ガス中の有害物質を除去する技術の進歩により、アメリカ・カリフォルニア州を走る自動車が排出する大気汚染物質は着実に減少しています。しかし、都市部の大気汚染はなかなか減らず、大気中の粒子状物質(PM)やオゾンのレベルは2010年から横ばいが続いているとのこと。

このような大気汚染の原因となる揮発性有機化合物(VOC)がどこから来るのかを解明するため、研究当時カリフォルニア大学バークレー校に所属していたエヴァ・Y・ ファンナースティル氏らの研究チームは、航空マッピングによる大気汚染物質の分布調査を実施しました。



研究チームはまず、ロサンゼルス上空を繰り返し飛行し、400種類を越えるVOCを1秒間に10回モニタリングする分析装置で記録を取って、大気中のどんな物質がどこから発生したかのデータを集めました。これにより、既知の発生源からの排出量を推定する従来の調査ではわからないような大気汚染の原因を知ることができます。

こうして得た測定データを気温とともに分析した結果、イソプレン、モノテルペン、セスキテルペンなどを含む植物由来のVOCが、初夏のロサンゼルスにおける二次有機エアロゾル(SOA)の発生の約60%に寄与していることがわかりました。

また、日中の気温の上昇と大気汚染との間に明確な相関関係があることも判明しており、気温が20度から30度以上に上昇するとPMやオゾンのレベルが急激に悪化することや、高温により発生する植物由来のテルペノイドがその主因であることも確認されました。



植物が空気中に放出する化学物質は、害虫や水不足、そして高温などに対するストレス反応によって変化しますが、そのような反応で発生する物質の中には前述のようなVOCも含まれています。こうしたVOCが、自動車などの排ガスに含まれる窒素酸化物と反応し、オゾンを生成したりエアロゾルやPMの発生の原因になったりしていると研究者らは考えています。

ファンナースティル氏は、「分析により、気温が高い時期のオゾン汚染を最小限に抑えるには、ロサンゼルスの窒素酸化物排出量をさらに50%削減しなくてはならないことがわかりました」と話しました。

2024年1月にドイツのユーリッヒ研究センターに移籍したファンナースティル氏は、今回の研究で用いた分析手法をさらに改良し、ドイツの都市や山林の大気を調査する予定とのこと。森林のストレス反応に関するこれまでの研究は、少数の小さな木で行った実験によるものが多いため、実際に森林から収集されるデータは気候モデルに関する今後の研究にとって重要なものになると期待されています。