連日の街頭演説により支持を集め、都知事選の得票数で2位に躍進した石丸伸二氏(写真:HIROYUKI OZAWA/アフロ)

巨大都市・東京の「顔」を決める都知事選は、現職の小池百合子氏が3選を決めた。これまでの現職の「不敗神話」を受け継いだ結果だが、前回より得票は大幅に減り、小池都政の3期目は「都民の不信・不満にさらされる多難な展開」となりそうだ。

主要政党、「石丸ショック」で戦略見直しへ

任期満了に伴う東京都知事選は7日、投開票が行われ、開票開始の午後8時にNHKをはじめ多くの主要メディアが「小池氏当選確実」と報じた。それぞれの出口調査で、小池氏圧勝が予測されたためだ。一方で、「反自民非小池」を掲げ、自らの政治生命も懸けて大勝負を挑んだ元民進党代表の蓮舫前参院議員は、予想外の3位に沈んだ。

主要メディアが“女傑対決”と煽り立てた「小池VS蓮舫」に割って入ったのは、石丸伸二・前広島県安芸高田市長。知名度不足をSNSでの活発な発信と、連日連夜の街頭演説の「2本立て活動」で克服。「政治屋の一掃」という激しい主張と、人懐こい笑みを浮かべての演説で多くのボランティアの応援団を集め、都民の半数近くを占める無党派層の支持で約166万票を獲得した。

石丸氏は7日夜の開票直後の記者会見で「できることは全部やったと言い切れる」と胸を張った。これに対し、立憲民主党は「無党派層の多くを石丸氏に奪われた。次期衆院選もにらんで、戦略見直しが不可欠」(選対幹部)と、今春以来「快進撃」を続けてきた「立憲・共産」協力態勢の転換を迫られている。

さらに、今回都知事選で石丸氏に支持を拒否され、候補も出せずに「自主投票」を余儀なくされた日本維新の会は、党内の「東西対立」がさらに先鋭化。「東京維新」の幹部地方議員の離党などで、次期衆院選に向けて、馬場伸幸代表の交代論も浮上している。

もちろん、「都知事選は地方選挙で、国政選挙とは別物」(選挙アナリスト)ではある。しかし、いわゆる「 『アテンション・エコノミー』とも言われるSNS選挙を駆使した石丸戦術の大成功」(同)は、有権者の既成政党への根深い批判・不信を浮き彫りにした格好だ。次期衆院選に向け、全ての主要政党が対応に苦慮することになりそうだ。

消し飛んだ「少子化、防災など都政の論争」

そもそも、過去最多の56人が立候補した今回の都知事選は、主要候補の闘いとは別に、「掲示板ジャック」と「掲示スペースの“販売”」に加え「多数の売名出馬」と、まさにこれまでの選挙常識を覆す異様な選挙戦と化した。

表向きは、地域政党「都民ファーストの会」と自民・公明両党が支援する現職の小池百合子氏に、立憲民主党と共産党が支援する蓮舫氏が挑むという「保革対決」として、「少子化」「防災」「デジタル化」などをめぐる論争が想定されていた。しかし、結果的に「石丸現象も含め、異例づくめで都政を巡る真っ当な論争がどこかに消し飛んだ選挙戦」(政治ジャーナリスト)となったのは否定しようがない。

そうした中、あっさり知事3選を決めた小池氏は、投票終了直後の7日午後8時過ぎに記者会見し、「重責を痛感する。もっと改革を進めろ、もっと生活を支えてくれという思いを頂戴した」と勝利宣言。3期目の課題として物価高や少子化対策、デジタル化、女性活躍推進、防災などの課題を挙げ、「全身全霊で対応していきたい」と余裕の笑顔で語った。

これとは対照的に蓮舫氏は小池氏当選確実の報道を受けた記者会見で「失意泰然だと思う。多くの方に温かい言葉と応援をいただき、そして私も思いを心から訴えることができた」とあえて胸を張り、敗因については「私の力不足。そこに尽きると思う」と頭を下げたが、目には涙がにじんでいた。

そのうえで、蓮舫氏は今後の政治活動について「現時点でこの選挙戦、自分の中ではまだ完全にピリオドを打てている気持ちではないので、もう少し考えたい」と明言を避けた。

もともと、同氏周辺からは「次期衆院選で東京の新選挙区から出馬、国会議員に返り咲く」との声が出ていたが、今回の“惨敗”で「蓮舫ブランドも地に落ちた。次期衆院選出馬は考え直すべきだ」(立憲民主選対)との声も相次ぐ。


東京都知事選の落選後の会見で目に涙を浮かべた蓮舫氏(写真:東京スポーツ/アフロ)

“涙目”の蓮舫氏と明暗くっきり、胸張る石丸氏

そうした中、「政治的には敗者ではなく、むしろ勝者」(政治ジャーナリスト)となった格好の石丸氏は午後8時過ぎの記者会見で、まず小池氏3選を「都民の総意が表れた」と位置付けたうえで「今回の選挙で私のチームは本当に全力を尽くせたなと感じる。後援会長、選対チーム、そしてボランティアスタッフメンバー、数え切れないほどの力を頂戴した。胸を張って、できることは全部やったといい切れる」と笑顔で語った。

さらに、記者団との質疑応答の中で、今後の政治活動について問われると「まだ決めていない」とかわしつつ、国政進出の可能性について「選択肢としては当然考える。たとえば広島1区……岸田首相の選挙区です」といたずらっぽい表情で、次期衆院選で岸田首相の選挙区に出馬する可能性に言及した。

もちろん、「今回のように完全無所属での殴り込みでは、当選は困難というのを承知のうえでの発言」(選挙アナリスト)との受け止めが多く、岸田首相サイドも「売名行為では」(後援会幹部)と真意をいぶかる。

ただ、地元の選挙関係者は「石丸氏の狙いは、来年秋の広島県知事選出馬ではないか」と読み、「その場合は台風の目になる」と警戒心も隠さない。

いずれにしても、「今回の七夕決戦は、改めて選挙のやり方そのものを見直すきっかけになった」(政治ジャーナリスト)ことは間違いない。中央政界ではすでに各党が、今回のような想定外の事態を防止するための公選法や条例の改正を急ぐ構えだ。ただ、「旧態依然の現職国会議員の発想では、付け焼き刃の見直ししかできない」(選挙アナリスト)との厳しい見方も少なくないのが実態だ。

(泉 宏 : 政治ジャーナリスト)