「どんな患者さんでも、血液型も関係なく入れられる」A・B・O・AB型を問わない『人工血液』の開発に成功 一体どんなもの?奈良県立医大
奈良県立医科大学が7月1日、「人工血液」の開発に成功したと発表しました。実用化されれば世界初になるかもしれません。医療界の“救世主”となるのでしょうか。
開発された『人工血液』とは? 血液型を問わず投与できるなどの利点
7月1日午後4時、奈良県立医科大学が記者会見を開き、輸血用の血液を人工的に作ることに成功したと発表しました。
(奈良県立医科大学 酒井宏水教授※製造担当)「海外を見渡しても現在使えるものはまずない。人類の健康福祉に貢献できるのではないかと」
「人工血液」とは一体、どんなものなのでしょうか。話を聞くため、記者が奈良県立医科大学を訪れました。
(奈良県立医科大学 酒井宏水教授)「こちらが、開発しております人工赤血球製剤です。人の血液の代わりになる、酸素を運搬する製剤です」
紫色の液体。奈良医大が成功したのは血液の中でも酸素の運搬をつかさどる「赤血球」の開発でした。
製造方法はこうです。保存期限が切れて廃棄せざるを得ない献血からヘモグロビンだけを抽出。それを脂質の膜で包みカプセル状にすることで、血管に流せる人工血液になるのです。最大の特徴が、血液型を問わずに誰にでも投与できるということです。
(奈良県立医科大学 酒井宏水教授)「ヘモグロビンの生成の過程で赤血球膜を除去していますから、もはや血液型抗原はないということです。本物の血液ですと冷蔵で4週間ですが、この製剤ですと室温だと2年間、冷蔵だと5年とかもつことがわかっていますので、備蓄ができるということです。そういう利点がございます」
ドクターヘリや救急車に搭載することができ、その結果…
(奈良県立医科大学 松本雅則教授※研究担当)「どんな患者さんでも、ケガされた人でも血液型関係なくひとまず入れておくと。例えば1時間でもこれを入れることでもてば、その間に病院に搬送してきて、次のことをやればいいんじゃないかなと思います」
また、離島やへき地など医療体制が不十分な場所で命を救う切り札になると期待されています。
「血液が届かない」離島が抱える実情
鹿児島本土から約370km離れた場所に位置する奄美大島。6万人近い島民が生活するこの島で今、起きている問題が「輸血用の血液が届かない」ことです。
奄美大島にある県立大島病院の麻酔科医・大木浩さんは、輸血で使う血液の管理を日々行っています。病院の保冷庫には日本赤十字社から購入している輸血用の血液がそれぞれ保管されています。
(県立大島病院 麻酔科部長・大木浩医師)「A型の定数は8本なんですけど実際には使ってしまったので、今在庫としては6本入っています。これが尽きちゃったときに、じゃあどうしたらいいのかということですよね」
元々、奄美大島には血液を備蓄する拠点があり、輸血の際には30分ほどで大島病院に届けられていました。ところが、2018年に備蓄拠点が撤退。その結果…
(県立大島病院 大木浩医師)「今は鹿児島県赤十字血液センターから航空機を使って運んでこないといけない。輸血製剤が手元に届くまでに平均10時間もかかっていたら、とてもじゃないけど助かる命も助からなくなってしまいます」
島民から採血した血液を輸血「我々は自分の命は自分で守るしかない」
そんな時、目の前の患者を助けるために島で行われているのが「生血輸血(なまけつゆけつ)」です。島民から採血した血液を輸血に使うというものです。生血が必要になると島民が病院に集められ、その場で採血を実施。採血された血液は感染症がないかの検査や放射線照射をして安全な血液に変えた後、手術で使われます。
生血が必要になったとき、病院からの要請を受けて島民を招集するのは地元消防の仕事です。
(名瀬消防署 泊智仁署長)「リストは名瀬地区のA型、名瀬地区のO型、笠利のA型…と分けてあります。リストをもとに範囲を決めて、それぞれ(署員)が空いている電話で電話しまくるっていうのが実情です。(生血の発令頻度は)年間2〜3件前後です。いろんな観光客が来られ、交通事故や海の事故は増えていますので」
実際に生血に協力したことがあるという署員に話を聞きました。
(名瀬消防署の署員)「供血(血の提供)は2回ほどあります。夜中でも『あす仕事なんだけど…』と言いながら行きます。何か役に立てたということが自分的にはうれしいなという思いがあります」
「島でできることは島でやる」。助け合いの精神は島民の意識に当たり前に沁みついています。
生血で助けられたという患者はこう話します。
(大島病院の患者)「私は3回目の手術のときに、すごく出血が多くて生きるか死ぬかの状態のときに、大木先生が生血輸血をされたりして今があるんですよ」
(患者の家族)「手術が終わってから、先生方からたくさんの生血を投与したと聞きまして、そのときに改めて、ここの島は『血液が常時提供できるような状況にないな』と」
生血輸血は血液検査が不十分になりやすく、提供者を集めるために患者や家族に負担をかけることから、国は「原則として行うべきではない」と定めているのが現実です。
(県立大島病院 大木浩医師)「『血液備蓄所があったほうがよかった』とみんな声をあげたけれど、相手にされなかった。変えてくれないんだったら、我々は自分の命は自分で守るしかないから、生血の精度をブラッシュアップして独自にガラパゴス的に進化していくしかないかもしれない。でも本来それは望ましいことではない。腹立たしいんだけれど、そうでもしないと我々の命を守れない」
こうした現状を島民はどう思っているのでしょうか。
(島民)「もし生血をしても足りなかったら…とか、そのまま血液をすぐ使って大丈夫なのかなと思ったりはしますね」
若い世代の献血離れに危機感
輸血をめぐる問題は実は、遠い離島だけの話ではありません。大阪市内の献血施設。ここには毎日200人ほどが訪れ、献血を行っています。
(献血者)「若いときから献血していたので。年いってもまだできることだから」
(献血者)「2、3年前に子どもが病気になったときに輸血が必要になったことがある。いつ自分もなるかわからないし、血をもらうときが来るかもしれないから、そのための準備」
大阪府内の献血者数はここ20年でほぼ横ばいですが、日本赤十字社の担当者は危機感を募らせています。
(大阪府赤十字血液センター 仲本太郎さん)「昨年度は約38万人に献血をご協力いただいているんですが、実際に献血した人の数は約19万人で1人の人が何度も何度も協力して、なんとか現状を支えていただいている状況です」
大阪府赤十字血液センターによりますと、昨年度の年代別の輸血状況は、30代以上が8割を超える一方で、20代以下は2割未満です。10代〜30代の若い世代の献血者数は、1997年度に31万1585人だったのが2021年度には13万5250人と、24年間で半分以下になっているのです。若者の献血離れで将来危惧されるのは…
(大阪府赤十字血液センター 仲本太郎さん)「次の世代の方も含めて献血のご協力を増やしていかないと輸血医療の存続が難しくなるおそれがあります」
輸血用血液をめぐる様々な問題。人工血液の実用化は各方面から待ち望まれています。
(県立大島病院 大木浩医師)「新しい血液製剤が開発されたりすることによって、生血輸血しなくても何とか大量出血に対応できるようになるかもしれません。今我々が欲していることは、現実に今そこで出血している人がいたらどうやって対処するのか、どうやって安全に命を救うのかということを、本土の人には意識を持っていただきたいなと思っております」