更年期は心と体、そして環境をシフトチェンジする時期。どうして更年期症状が出るのか、その症状を和らげる方法はあるのか? それを心得たうえで、自分でできるセルフケアを始めましょう。ここでは、日本産科婦人科学会専門医・女性ヘルスケア専門医の善方裕美さんが監修した『しんどいな……が続く人のための「更年期の不安」をなくす本』(永岡書店刊)より、更年期の定義や女性ホルモンの減少とのつき合い方などを紹介します。

そもそも更年期の定義とは?閉経を判断する方法も

これまで、更年期や閉経といった話題を人前で出すことはタブー視される風潮がありましたが、最近では、テレビや雑誌でも「更年期」についての特集が多く組まれていますね。けれど、まだまだ「更年期症状」と「更年期障害」の違いを知らなかったり、「そもそも更年期って?」と疑問を抱いている方も多いと思います。

ここではまず、更年期の定義をお話ししていきますね。年齢を重ねることで卵巣の機能が止まり、女性ホルモン「エストロゲン」がほとんど分泌されなくなると、月経(いわゆる生理)がなくなります。簡単にいえば、閉経は卵巣が寿命を迎えて、天国に旅立ってしまうことです。

最後の月経から1年間、月経がなければ閉経とみなします。逆に、「半年間、月経はなかったけど、今月は月経が来たわ」という状態は、まだ閉経とはみなしません。また、「さぁ、今回が人生ラストの月経ですよ!」といった体からのお知らせがあるわけでもありません。

●更年期は閉経をはさんだ前後5年間

医学的には、この閉経をはさんだ前後5年の計10年間が「更年期」と定義されています。日本人の閉経の平均年齢が約50歳といわれていますから、およそ45歳〜55歳が「更年期」にあたります。

ときどき「私には更年期がなかったわ〜」というご婦人もいらっしゃいますが、おそらく、「更年期障害や更年期特有のつらい症状がなかったわ」ということでしょう。この「更年期」という言葉は、症状の有無にかかわらず、女性なら人生のなかでだれでも通る一定の期間を指す言葉です。

何歳で閉経を迎えるかは人によって違いますし、なかには40代前半から更年期が始まる人もいます。日本産科婦人科学会では「40歳未満での無月経」を早発卵巣不全といい、状況に応じて、婦人科での治療が必要になります。

自分がいつ更年期に差しかかったのかは、閉経したあとにわかること。更年期には、「さあ、今日からあなたの更年期が始まりましたよ!」という明確なスタートがないので、これもみなさんの更年期へのイメージをモヤモヤさせている一因なのかもしれませんね。

女性ホルモンの「波」を乗りこなすために重要なこと

女性の体や心は、ライフステージに応じて女性ホルモン「エストロゲン」の影響を受けて、変わっていきます。

エストロゲンは卵巣機能が活発な「思春期」から分泌量が増えていきます。思春期は脳や子宮の連携が整っていないため、排卵しないまま月経が来たり(これを無排卵月経といいます)、月経の周期も不安定だったりします。やがて20代〜30代前半になると、女性ホルモンの分泌がもっともさかんな「性成熟期」を迎えます。この時期は脳と卵巣、子宮のホルモンの連携が存分に発揮できるので、「妊娠適齢期」とされています。

●自分の「現在地」の確認が大切

そのあと、30代後半になると卵巣機能が少しずつ衰え、エストロゲンの分泌が減り始めます。そして「更年期」にさしかかると、卵巣機能はさらに低下して、エストロゲンの分泌は急激に減少していきます。やがて、エストロゲンの分泌が乏しい「老年期」と呼ばれる時期が続きます。これが女性ホルモンの「大きな波」です。

ちなみに閉経しても、エストロゲンの量はゼロにはなりません。閉経前はおもに卵巣でエストロゲンが分泌されますが、老年期でも副腎皮質(ふくじんひしつ)から分泌されたホルモンが脂肪組織で女性ホルモンに変換されるので、血液中には少量のエストロゲンが存在し続けるのです。

この「大きな波」で見ると更年期には、エストロゲンの量は急激に減ってはいるものの、常に一本調子で下がり続けているわけではありません。日によって卵巣が頑張ってエストロゲンを分泌したり、そうでなかったりという「ゆらぎ」を繰り返し、下がり続けているのです。空なら乱気流、海なら大荒れの嵐のような「ユラユラざっぶーん」というイメージです。

この一生の大きな波は人間の生物学的プログラム、いわば逃れられない宿命です。毎日をすこやかにすごすためには、この女性ホルモンの波をうまく乗りこなすことが肝心。そのためにもまずは今、自分が「大きな波」のどのあたりにいるのか、「現在地」を確かめることが大切になってくるのですね。