©OHYAMA Yukio

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2024年6月1日「写真の日」に、東京・恵比寿にある東京都写真美術館で「WONDER Mt.FUJI 富士山 〜自然の驚異と感動を未来へ繋ぐ〜」が始まった。

【写真】まるで絵画のような、野辺地さんの写真

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「WONDER Mt.FUJI 富士山 〜自然の驚異と感動を未来へ繋ぐ〜」は、ベテランから若手まで、海外を含む18人の写真家によるグループ展で『婦人公論.jp』で連載中の野辺地ジョージさんも参加している。ありとあらゆる人が撮ってきた富士山というテーマに、「美しい富士山は、毎日観てポイントも知っている地元の人に適わない。何を撮るべきか悩んだ」という参加者も。

キュレーターの太田菜穂子さんは、テーマに富士山を選んだことについて「みんなが知ってる富士山をどうとらえるか。こちらの心の状態やその人のもっているもので見方がかわる。本来自由であるべき写真が、いま不自由になっていて、こうでしょ、に従わざるをえない状態。それをぶち壊すには〈ワンダー〉の感覚が必要では」と語る。

館内に入ると、富士山頂に上る雰囲気を味わえるよう、砂利が敷かれてあった。石を踏みしめる音を聞きながらほの暗い展示スペースを進む。「グループ展は嫌がる方も多いんですが、本展覧会は個展が18集まったようなものです。生涯初めてのグループ展参加という方もいます」(太田さん)

中には、富士山そのものが写っていない写真もあった。

富士山麓の滝で滝行をする自分を被写体にした作品や、本州で最も遠くから富士山が見えるとされる和歌山の那智の滝を撮った作品、樹海にいる小さな生き物をとらえた作品まで、テーマの捉え方はさまざま。

富士山付近の人々の営みを撮影した数百枚の写真をコラージュし、巨大な山を表現した作品に対して、太田さんは「文化は、他者を認知しながら社会全体の人がつくる。日本を感じる〈ワンネス〉を緻密に執拗に表現している写真家が日本人から出たのはすごい」とコメント。

トップモデルでありながら「男性の好きな女性ばかりの写真」に疑問を感じ、自ら撮り始めたという85歳の外国人女性の作品も。富士山の神様は「木花咲耶姫」という女神のため、女性が山に入ると天気が荒れると言われており、彼女の来日時にもやはり悪天候だったが、敢えてその状態で撮影したという。

「AIの時代、写真は観る方の姿勢が問われる」という太田さん。

「絶景」とは、被写体の手前に遮るものがない場所からの画角が選ばれることが多いが、富士山の手前に電線が写りこんだままの写真もあった。「邪魔なものが簡単に消せてしまう今。本来〈真実をありのまま写す〉のが写真であるなら、この時代にこの場所から電線が見えているというのは歴史の資料ともいえる。将来、電線がすべて地下に埋まってしまったらこの景色はなくなってしまうのだから」と太田さんは紹介する。

野辺地さんの写真に対しては、「カナダ大使館の展覧会を見て声をかけました。撮影する自分を景色が受け入れてくれるまで待つ、距離感や謙虚さに惹かれました。池の鯉をわざと朽ちた塀越しに撮影したり、富士山を撮るのに飛行機の窓枠を入れたりする視点が面白い」と語った。


©野辺地ジョージ

一番印象的だったのは、「富士山らしきもの」が写りこんでいる、昔の日本人の記念写真をコラージュした作品。家族写真もあれば、合同ハイキングのような写真も。ポーズや髪型、服装に時代が反映されている。フェイクやAI写真へのアンチテーゼでもあり、自分が撮影した写真は一枚も入ってない。技術上どんな写真も撮れるようになる時代「選ぶ」ということも写真家の個性になるのかもしれない。

「世界で行ったことのない場所がない」と言われている写真家のコーナーへ。日本を全く撮影していないというが、今回はわざとスマホで撮った荒い富士山を1枚提供。そのほかは、チベッ仏教の聖地カイラスで五体投地をしている人々の作品を展示し、霊峰としての富士山を、他の霊峰との対比で見せていた。

富士山付近の「ロードキル」に一石を投じた作品も。年間2万頭もの動物が交通事故で亡くなっているそうで、事故に遭った鹿を、古い現像方法で荘厳に表現していた。壁からぽろりとおちている1枚は、社会は新陳代謝をくりかえしていることを表現していて、動物が亡くなることへの怒りや悲しみ、安らかに昇天してほしいという気持ちが込められているという。

「技術が発達しても、元々あった技術を継承していくことは新しい技術を産むときにとても重要だ」と太田さんは語る。

最後の展示は、富士山のなりたち、過去現在未来を表現した作品。富士山が噴火した時にできたかもしれない水晶を磨いて作った、透明度が高くないレンズを通して撮った富士山と、地殻のプレートの動きを表現した作品、そして溶岩の中を覗き込むと、何かが見える作品で空間が構成されていた。

不都合があるものを内にとりんでいく。今、大切なものを除去することで、世界観は狭まっている。現代は〈多様性〉といいながら均等化されてることがいかに危ういのか、を表現しているという。

日本人にとってポピュラーな「富士山」の写真を通じ、いろんなものを問いかけられる写真展。まっさらな気持ちで、18の「WONDER」を体験してみてはどうだろう。

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霊峰、富士。 天に向かって聳え立つその姿は“自然の驚異と感動”=WONDER を 私たちに指し示しています。 170年前、初めて富士山が写真に撮られて以来、この特別な山は、“神聖なる存在”として、また、“あるべき美の姿”として写され続けてきました。 人類が今、地球から宇宙へ、現実世界から仮想世界へと、その一線を超えようとする時、富士山は現実世界の錨として、世界中の人々に大切な何かを問いかけているように感じます。
『WONDER Mt. FUJI』は18人の卓越した写真家たちが、 自身の目を通して富士山のメッセージを紡ぎ出した展覧会です。

参加写真家(展示構成順)

山内 悠YAMAUCHI Yu
広川泰士HIROKAWA Taishi
公文健太郎KUMON Kentaro
十文字美信JUMONJI Bishin
ユリア・スコーゴレワYulia SKOGOREVA
木村 肇KIMURA Hajime
エバレット・ケネディ・ブラウンEverett KENNEDY BROWN
西野壮平NISHINO Sohei
大山行男OHYAMA Yukio
クリス・スティール=パーキンスChris STEELE-PERKINS
サラ・ムーンSarah MOON
ココ・カピタンCoco CAPITÁN
ドナータ・ベンダースDonata WENDERS
野辺地ジョージGeorge NOBECHI
𠮷田多麻希YOSHIDA Tamaki
菅原一剛SUGAWARA Ichigo
野町和嘉NOMACHI Kazuyoshi
瀧本幹也TAKIMOTO Mikiya

キュレーション 太田菜穂子(KLEE INC PARIS TOKYO)

WONDER Mt.FUJI
富士山 〜自然の驚異と感動を未来へ繋ぐ〜 詳細はこちら
2024.6.1(土)-7.21(日)