コスト増は厳しい。人気外食チェーンでも、値上げやメニュー改廃はまだ続きそうだ(記者撮影)

外食値上げの波は止まらないのか――。

4月29日、一時1ドル=160円台と歴史的な水準に達したドル円相場。その後は円高方向に振れたものの、足元では155円付近まで戻っている。為替の動向を警戒するのは外食業界の関係者たち。業界は多くの食材を輸入に頼っており、円安は直接コスト増につながる重要な要素だ。

外食業界はこれまで、居酒屋や専門店チェーンなど、業態を問わず値上げを実施してきた。牛丼チェーンの吉野家は3年連続で値上げを実施し、2023年は並盛が税別408円から426円になった。中華食堂「日高屋」を運営するハイデイ日高も、中華そば(税込み390円)以外のメニューを全面的に値上げしている。

しかし、現在の価格設定では一段のコスト増を吸収できなくなる業態もありそうだ。ある業界幹部は「これ以上の円安が定着すれば、さらなる値上げをせざるを得ない」と明かす。

ココイチの食材もコスト増に

大手カレーチェーン「CoCo壱番屋」を運営する壱番屋は前2024年2月期、その前の期と比較して約17億円も原材料価格が上昇していた。

昨夏の猛暑によるコメ価格の値上がりなど、原材料価格の上昇やエネルギーコストの上昇もある。だが、スパイスや豚肉、牛肉などは輸入の依存度が高く、円安の影響を受けやすい。


カレー原料のスパイスは1.6億円のコスト増だった。スパイスは熱帯地域原産のものが多く、大半を輸入に依存しているためだ。スパイス相場自体が上昇している面もあるが、円安で一段のコスト増になっている。

肉類も輸入品の割合は高い。国内産の肉であっても、穀物由来の飼料などは輸入に依存しているため、円安の影響は免れない。

壱番屋は今2025年2月期もスパイスや肉類を中心に、前期比で約10億円の原材料のコスト増を見込んでいる。

イタリアンレストランを運営するサイゼリヤも影響は大きい。同社は1990年代からワインの直輸入を開始。パスタ、オリーブオイル、チーズ、生ハムといった食材をイタリアなどから輸入しており、円安の影響を受けやすい。

同社の場合、円安は中国を中心とする海外事業の追い風だが、国内事業ではマイナス要因だ。2023年8月期は国内事業の原価において9.7億円のコスト増だった。2024年8月期も同様に、第2四半期時点で3.8億円のコスト増となっている。

国内事業は毎四半期ギリギリの黒字と苦戦が続く。全面的な値上げを避けメニューの改廃で対応する方針だが、さらなる円安が定着すれば、国内は一段と厳しい環境になるだろう。

コスト増要因は多く、値上げ不可避か

円安だけではない。今春は外食業界でも多くの企業が賃上げを実施した。最低賃金も上昇し、人件費は上昇傾向にある。残業規制の導入による「物流2024年問題」も課題の一つ。各社は配送頻度を減らすなどの対応をとっているが、物流コストの上昇が見込まれる。

エネルギーコストも同様だ。2023年1月から政府が実施してきた「電気・ガス価格激変緩和対策事業」は5月末で終了する方向だ。一段のコスト増は避けられない。

さまざまなコスト増に超円安が重なり、国内の外食各社は厳しい状況にある。値上げを進めてきた業態も、価格転嫁のために、さらなる値上げに踏み切る可能性がありそうだ。

(金子 弘樹 : 東洋経済 記者)