両親や配偶者がもしものときに、身近な人の「死後にやる手続き」葬儀後速やかに行いたいこと
誰しも避けられない身内との別れ。そのあとに待つのは通夜に葬儀、そしてありとあらゆる手続きの嵐だ。「主な手続きカレンダー」は、遺族が行う主な手続きを時系列で追ったもの。
【画像】必見!相続の費用と手間を減らせる「新制度」のポイント
あまりの工程の多さに気が遠くなりそうだが、「確かにやるべきことはこまごまとありますが、手間を省けるポイントもあります」と言うのは、相続に詳しい行政書士の明石久美さん。
そこで、故人が会社員でない場合の“死後の手続き”をスムーズに行うためのポイントを明石さんに教えてもらった(会社員の場合は手続き内容が会社ごとに異なるため、会社の指示に従って進めてください)。
死後すぐは葬儀社にお任せでOK
「身近な人が死亡してまず気をつけたほうがいいのは、医師からもらった死亡診断書をコピーすることです。
診断書は役場に提出するので、原本は手元に残りませんが、生命保険や年金関連の手続きなどでコピーが必要になるため、あらかじめ複数枚コピーをとっておきたいです」(明石さん、以下同)
忘れずにとっておいたほうがいいとはいえ、今は死亡届の提出から、火葬許可証の取得まで、死亡直後の一連の手続きは、葬儀社が代行してくれるケースがほとんど。死亡診断書のコピーは、葬儀社にお願いしてもいいだろう。
葬儀後、速やかに行いたいこと
葬儀が終わってすぐに取りかかるべきなのが、
・相続人の調査
・相続財産の調査
・遺言書の有無の確認
の3つだという。
「相続に関する手続きは、『相続放棄するなら申述は3か月以内』『相続税の申告・納付は10か月以内』と期日が設けられているものがいくつかあります。それまでに必要書類をすべて集めて、誰が何を相続するのか確定させる必要があるのです。
相続税の納付が遅れれば延滞税などペナルティーが発生する場合も。また、相続人が亡くなってしまうと手続きが煩雑になってしまいます」
相続人を確定するためには、故人の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本を取得する必要がある。死亡時だけでなく、過去の戸籍謄本をすべて取得することで、子どもがいるか、養子縁組しているかなどを確認するためだ。
故人が本籍地を転々と変更していたのであれば、その分、手間と費用が増える。すべてそろえるのに数か月かかったというケースもあるという。
相続財産の調査もひと苦労だ。
故人の遺産すべてを明らかにしなければ、分割のしようがない。預貯金通帳やキャッシュカード、はたまた銀行や証券会社からの郵便物など手がかりになりそうなものをかき集めて遺産のありかを調べ、プラスマイナス合わせた遺産を洗い出す必要がある。
さらに、遺言書の有無も、その後の手続きが異なるため必須の確認事項だ。
「相続関連の手続きは、死後の手続きの中で時間と労力が最もかかります。できるだけスムーズに進めるためには、どのような財産を持っているか、わかるようにしておいてもらったり、家族関係が複雑な場合や夫婦間に子どもがいなかったなどの場合は、相続手続きをスムーズに進めるために、また、トラブルを防ぐためにも遺言書を残してもらうことが有効ですね。
ただし遺言書を書いてもらったら、相続業務を行っている弁護士や行政書士にぜひチェックしてもらいましょう。不備や書き漏れがあると、せっかく遺言書を書いてもトラブルの火種になる遺言書になってしまいますので」
ぜひ活用したい法定相続情報証明制度
「相続財産の種類が多い場合にぜひ活用してほしい」と明石さんがおすすめするのが、2017年に新設された法定相続情報証明制度だ。
「銀行口座の解約や不動産の名義変更などの手続きには、故人の出生時から死亡時までの連続したすべての戸籍謄本と相続人全員の戸籍謄本を合わせた“戸籍謄本の束”が必要になります。
新しく作られた『法定相続情報証明制度』は、何枚もの“戸籍謄本の束”を、法務局が“法定相続情報一覧図の写し”と呼ばれる証明書1枚で相続人を証明してくれる制度です。
図の作成は申出人が行う必要がありますが、証明書の交付は無料なので、数枚取得しておけば、何回も戸籍謄本を取得せずに済みます」
戸籍(除籍・改製原戸籍)謄本1通を取り寄せるのにかかる費用は750円。この制度を活用すれば、“戸籍謄本の束”1セットの費用で手続きを進めることができるのだから活用しない手はない。
相続関連の手続きに最も労力がかかるのであれば、それ以外の手続きにかかる手間は、できるだけ省きたいところ。
「葬儀費用の補助として支給される葬祭費の申請は2年以内、遺族に支給される遺族年金の請求は5年以内と、“もらえるお金”の時効はまちまち。
“あとで”とか“すぐに”手続きを進めようとすると、何度も窓口に足を運ぶことになり、時間も労力もかかってしまいます。できるだけ、“1回で”“ついでに”手続きを済ませるのがおすすめです」
役場に出向く手間をできるだけ省くためには、葬祭費の領収書が届いたら、葬祭費の申請と同時に、保険証を返却すればいいというのが明石さんの考えだ。
ついでに高額療養費の払い戻しの確認のほか、介護保険の窓口で保険証の返却や還付金などの確認まで済ませれば、“一石五鳥”に。
「保険証の返却を14日以内に行う必要があると思っている人が多いのですが、その期限がないケースが大半です。まずは、事前に窓口に電話をして期限の確認をし、あわせて、必要書類や予約が必要かどうかをしっかり確認することも大切です。
書類に不備があったり、事前予約が必要なのにしていなかったということであれば、結局二度手間になってしまいます」
“急がば回れ”。不備なくスムーズに手続きを進めるには、事前確認が不可欠だ。
女性特有の復氏届と姻族関係終了届
シニア女性なら知っておきたいのが、女性特有の次の2つの手続き。
名字を旧姓に戻す手続きである「復氏届」と、舅姑(きゅうこ)といった姻族(配偶者方の血族)との関係を解消する手続きである「姻族関係終了届」だ。姑との仲が悪い場合、夫に先立たれたなら真っ先に届け出たい手続きのようにも思えるが……。
「『復氏届』で旧姓に戻れば、運転免許証や銀行口座など、いくつも名義変更が必要になり、手間が増えてしまいます。
また、『姻族関係終了届』で注意しなければならないのは、姻族の関係を断つことができるのは届け出た本人だけという点。子どもがいる場合、子どもと舅姑との血族関係まで切ることはできません。
舅姑の扶養義務を自分が負うことはなくとも、子どもが負う可能性はあると考えれば、結局のところ自分と舅姑との関係も完全に切れたとは言いにくい状況です。
この2つの届け出についてはよくよく検討して、必要だと感じたときに手続きするのがいいでしょう」
家族の死後にどんな手続きが必要なのかを把握できれば、損することなく、手間を省いた対応ができる。万一の時にも慌てることのないよう、しっかり心づもりしておきたい。
教えてくれたのは……明石久美さん●相続専門の行政書士。『配偶者が亡くなったときにやるべきこと』(PHP研究所)、『人に迷惑をかけない終活』(オレンジページ)など著書多数。
取材・文/後藤友美(ファイバーネット)