松永浩美は高校1年の清原和博の内野フライを見て「間違いなくプロにくる」 西武と巨人時代のバッティングの違いも語った■2023人気記事
2023年4月、スポルティーバではどんな記事が読まれたのか。昨年、反響の大きかった人気記事を再配信します(2023年4月20日配信)。
松永浩美が語る清原和博の素顔 中編
(前編:デッドボールで怒った清原和博に「お前が悪いんだから一塁に行け!」と挑発的な言葉を放った理由>>)
阪急ブレーブス(現オリックス・バファローズ)の主力として活躍した松永浩美氏が語る、清原和博氏とのエピソード。中編では、高校時代の清原氏に衝撃を受けた打球、バッティングの特徴、投手との対戦で「得をしていたこと」について聞いた。
PL学園で1年時から活躍した清原
――清原さんはプロ1年目から好成績を残しましたが、ルーキー時代のバッティングをどう見ていましたか?西武でチームメイトだった石毛宏典さんは、「1年目が一番よかった」と話していました。
松永浩美(以下:松永) 若い時は自由に体が動くもので、年齢を重ねていけばだんだん変わっていきます。確かに1年目からキヨはすごかったですけど、トータルで見ても、「いい選手だな」と思います。私は、長年にわたって安定した力を発揮できるかどうかが一番大事なことだと思っているので。
――敵チームから見て、清原さんはどんなバッターでしたか?
松永 守っていて怖いんです。打球が怖いとかじゃないですよ。ランナーがいる時に「ここで一発打たれるんじゃないか」とか、「右中間を抜かれるんじゃないか」と思わせることができるバッターでした。チャンスでよく打っていましたし、その積み重ねによる「キヨはチャンスに強い」というイメージが、守っている野手の頭のなかにできあがっていたと思います。
――どんな時に「すごさ」を感じましたか?
松永 最初に感じたのは、プロ入り後ではなく高校時代です。キヨが高校1年生(PL学園)で夏の甲子園に出た時、「こんなにスイングが遅い子が4番を打つのか」と思って見ていたんです。そうしたら、スイングは遅く見えるのにものすごく高い内野フライを打ち上げた。それを見た時に、「間違いなくプロの世界にくるだろうな」と思いましたね。
いまだに私のなかのキヨのイメージは、プロ1年目で31本のホームランを打ったといったことよりも、あの滞空時間の長い内野フライのほうが印象は強いんです。「俺はあんなフライを打てるかな」と衝撃を受けましたから。
――プロ1年目の清原さんの成績(打率.304、31本塁打、78打点、出塁率.392)も驚きではなかった?
松永 驚かなかったですね。あと、いい右バッターの条件のひとつとして、私は「右方向に打てること」を挙げていて、引っ張りだけのバッターはあまり評価できないんです。キヨはルーキー時代から右中間にもよく打っていましたよね。
――バッティングのどのあたりが優れていましたか?
松永 全体的なバランスがよくて、特に上半身の使い方がうまいですね。たとえば、少し足を広げて直立不動で立つとします。そこから、右バッターだったら左足を上げますが、人は倒れるのが嫌だから必ず右足のほうに体重がちょっと乗って、真っ直ぐに立てなくなるんです。私が見るのはそこです。
キヨの場合は腰から上の筋肉の使い方がすごくうまいので、左足を上げても上体だけを動かしてバランスをとり、体の中心軸がブレることなく真っ直ぐに立てるんですよ。それができない選手はけっこう多いんです。
――清原さんは最初からそれができていたんですか?
松永 できていましたね。キヨが1年目から活躍できた要因のひとつだと思います。ダメな選手ほど上体が使えていなくて、足ばっかり使っている。「下半身を使え」というのはよくわかるのですが、上体もそれに合わせてうまくバランスをとらないと、バッティングは成立しないんです。
あと、これは私が個人的に思っていることですが、いろいろな球種を投げられていたら、あそこまで打っていないかもしれません。キヨは、すごく得をするタイプのバッターなんです。
――「得をするタイプ」とは?
松永 ピッチャーが真っ直ぐで勝負したくなるんです。通常は、真っ直ぐで打たれると思ったら、投手は変化球を投げるじゃないですか。たとえば、野茂英雄がフォークを投げたら、キヨは簡単に三振すると思います。だけど、ピッチャーに「真っ直ぐで勝負をしたい」と思わせる雰囲気があるんです。
本人にも「お前は真っ直ぐ勝負が多い。ラッキーだよね」って言ったことがあります。野茂にしても伊良部秀輝にしても、キヨに対しては真っ直ぐで勝負をしていましたから。変化球を投げて三振を取っても、多くのファンは投手に対して「ここで変化球?」「なんで真っ直ぐが速いのに、真っ直ぐで勝負しないの?」と思ったでしょうね。そういう意味で、得する選手だと思っていました。
――清原さんが、一流のピッチャーたちの自慢の真っ直ぐを豪快に弾き返すシーンは印象的でした。やはり、投手を真っ向勝負へと駆り立てる雰囲気があるんですね。
松永 ありますね。守っている僕らは、「ここでフォーク。落とせ」などと思っていましたが、結局は真っ直ぐを投げるんです。それで打たれるので、ある投手に「なんで真っ直ぐを投げたんだ?」と聞いたら、「いや、なんか変化球を投げるのは......」と言っていましたし、やっぱりキヨと対峙した時にはそういう感覚があるんだなと。
私に対しても、投手がもうちょっと真っ直ぐを多く投げてくれていたら、もっと打てたのになと思いますけどね(笑)。もう少しで首位打者を獲れたシーズンが3回ありましたし。
――松永さんは盗塁王(1985年)になられていますが、打撃タイトルで無冠だったのは意外です。首位打者争いの常連でしたし、2000安打までは100本を切っていましたから(通算1904安打)。
松永 キヨとはバッターのタイプが違いましたが、私も打撃に冠しては"無冠の帝王"です(笑)。無冠の割には、11打席連続四球(1988年/NPB記録)や、3試合連続の先頭打者本塁打(1993年/NPB記録)といった記録は残しましたけどね。
――ちなみに、巨人時代の清原さんは肉体改造をして体が大きくなりましたが、その際のバッティングはどう見ていましたか?
松永 "遠心力"で打てているのがいいバッティングなのですが、筋トレをして肉体改造をしたあとは"重力"で打つようになりましたね。体の中心を軸にして回転させるのが遠心力で、上からたたくのが重力。キヨも若い頃は遠心力で打っていましたが、たたくような打ち方に変わったのは体が大きくなった影響だと思います。
腕っぷしが強くなると変にバットが軽く感じますし、どうしても遠心力ではなく、バットを上からポンッと落とすような感じ(重力)で打ちたくなるんでしょう。そうならない程度の筋トレはいいと思いますが、キヨが肉体改造をするという話を耳にした時も、そこが懸念点でした。
あの体になったら、なかなか遠心力は使えません。タイミングを取る時、軸足に体重が残らなくなっていましたからね。ずっと遠心力で打ってほしかったな、と思いますね。
(後編:若き清原和博が密かに明かした「苦手だったこと」を初公開 「これをうちの投手陣に言ったら......」>>)