「よう、来たな。僕は何も隠さへんよ」87歳現役トレーダーが資産18億円を築くまで「まずはズワイガニとモサエビや。君、ビール飲めるか?」

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『87歳、現役トレーダー シゲルさんの教え  資産18億円を築いた「投資術」』(ダイヤモンド社)は刊行からわずか1か月半でたちまち12万部以上のベストセラーとなった。この本を書いた藤本茂さんとはどんな人なのか。どんな人生を歩んできたのか。そして、その投資術とは。全3回にわたってお届けする。

87歳で出版した本がベストセラーに

「手土産はいらんからね! それはあんたの給料が3000万、4000万になったときまで預けとくわ。それと、当日は昼までいて飯を食っていきなさい! たいしておいしいもんじゃないけど、用意しとるからな」

3月の某日。"日本のウォーレン・バフェット"と呼ばれている藤本茂さんに取材のため電話をかけると、そんな温かい返事をくれた。

藤本茂さんは、87歳で18億円の資産をもつ現役デイトレーダーだ。昨年11月に『87歳、現役トレーダー シゲルさんの教え  資産18億円を築いた「投資術」』という本を出版すると、刊行からわずか1か月半でたちまち12万部以上のベストセラーとなった。

茂さんは毎朝2時に起きて、米国株式市場をチェックするのが日課ということで、朝(深夜)の2時以降であれば何時でも神戸市にある自宅に訪問してよいとのことだった。そこで前日に新幹線で東京から神戸に移動し、朝の7時に藤本茂さん宅を訪ねることにした。

教えてもらった住所を訪れてインターフォンを鳴らすと、茂さんの妻が出迎えてくれた。そこは2LDKのマンションで、リビングに足を踏み入れると「日経CNBC」がテレビから大音量で流れていた。テレビの目の前に配置されたデスクの上には3台のパソコンが並べられていて、そのパソコンの前に腰を下ろしていたのが茂さんだった。

──今日はありがとうございます。取材よろしくお願いします。

藤本茂(以下、同) おう。よう来たな。

──茂さんに挨拶をすると、ゴーン、ゴーンと、どこからか時計の鐘の音が鳴り響いてきた。音のするほうを見ると、壁には時計が2台並んでいた。1つは8時で、もう一方は7時40分を指している。

──茂さん、どうして時計が2つもあるんですか? しかも、時間も違いますね。

1つの時計は20分進めてあるんですわ。僕はずっとパソコンのモニターを見てるから、いちいち時計見るわけにはいかんやろ。8時からは気配値を確認する。9時からは取引を始める。ぜんぶ20分前に耳でわかるようにしてあるんや。

──常に「日経CNBC」が大音量で流しっぱなしで、2つの時計の鐘の音が定期的に鳴り響くリビングは、正直言って騒がしい空間だった。そこにさらに「ピーちゃんだよぉ! ピーちゃんだよぉ!」と、どこからか甲高い声が聞こえてきた。声のするほうを見ると、リビングの隅のほうに、籠の中にいる青色のインコを見つけた。

──茂さん、インコを飼ってるんですね。

ピーちゃん! どうしたの! お客さまだよ。こっちにおいでぇっ!!!

──急に茂さんが青いインコに向かって大きな声で叫んだ。どうやらその青いインコの名前が「ピーちゃん」のようだった。

ピーちゃんは突然の訪問者に緊張していたからか、こちらの様子をうかがうようにリビングの上空をバタバタと羽音を鳴らしながら5周6周と飛び回ってから、茂さんの前頭部に着陸した。

「ピーちゃんだよぉ!」と自分の名前を呼び続ける青色のインコを頭上に乗せたまま、茂さんはパソコンのモニターを真剣な眼差しで確認しはじめた。横からモニターをのぞきこませてもらうと、黒色の背景のうえに赤色や青色や白色の数字がズラッと並んでいた。

お昼はズワイガニとモサエビ

──数字がいっぱい並んでいますね。なんの画面なんですか?

これは岩井コスモ証券のトレードツールでな、リアルタイムで株価が更新されるんや。

──すごいたくさん数字がありますね。

君は、株やってんのか?

──株はやってないです。

これはなんの数字かわかるか?

──すみません。わからないです。

困るなぁ。アメリカの代表的な銘柄の平均値。これがダウ、平均株価いうやつですよ!

──なるほど。

「S&P500」って何の数値かわかるか?

──わからないです。

困るなぁ。アメリカで上場している約500の企業の時価総額から算出した株価指数ですよ!

──茂さんに会う前に一応基本的な株用語などを予習してきたつもりだったが、実際に画面を見せられながら「これはなにかわかるか?」と聞かれると、全くわからなかった。

これ、ちゃんと記事になるんかぁ?

──現役の専属デイトレーダーである自分のことを取材しに来たライターが、株の基本的な知識すらない様子を見て、茂さんは心配なようだった。

──記事はちゃんと作ります。それが仕事なのでまかせてください。

まぁ、なんでも質問しいや。今日は何時に帰るんや?

──お昼過ぎくらいに帰ろうかなと思います。

じゃあ、飯食って帰り。今日は鳥取からズワイガニとモサエビが来るんや。モサエビ、知っとるか?

──いえ、初めて聞きました。

困るなぁ。日本海で一番美味しいエビですよ! 11時に届くから、そしたら僕は板前に変身して、カニ料理とエビ料理をつくってあげるからな。

──ありがとうございます。カニとエビは取り寄せですか?

そらそうや! 取り寄せな家に届かんでしょうが。変な質問するなぁ、君は。

──……。

なんや。不満そうな顔しとるなぁ。

──してないですよ。取り寄せはネットですか?

電話や! 株以外のことはあんまパソコンわからへんのや!

──それからはずっと茂さんの真横に座らせてもらい、茂さんがデイトレードする様子を眺めていた。ゴーン、ゴーン、と、20分進んだほうの時計が11時を指しながら鐘を鳴らすと、ちょうどインターフォンの音がリビングに鳴り響いた。

あっ! 来たぁっ!

──インターフォンが鳴るとほぼ同時に茂さんが叫ぶように声を出し、玄関のほうへと向かっていった。ドアの向こうには、佐川急便の制服を着た人がチラッと見えた。

ちゃうんかい! ありがとうっ!

──佐川急便の配達員とやりとりする茂さんの声が響いてきたかと思うと、すぐに茂さんが段ボール片手にリビングに帰ってきた。

妻の荷物やったわ。

──11時前に届いたのはズワイカニとモサエビではなく、茂さんの妻がAmazonで注文した荷物だった。

そもそも本を出すことになったきっかけ

──その後、もう1つの正しい時刻を指している時計が11時の鐘の音を鳴らしたころにまたインターフォンが鳴った。

今度こそヤマト運輸の配達員が発泡スチロールの箱に入ったズワイカニとモサエビを届けてくれた。その箱を茂さんがダイニングテーブルのほうに持っていって広げると、まな板と包丁を用意してズワイカニとモサエビを振舞ってくれた。

──すいません。こんな美味しいご飯まで振舞っていただいて。

いいんですよ。僕はね、こうしてメディアの人が来てくれることに対しては、こっちが取材させてやってるのではなくて、取材していただいてると思ってるからね。

──こちらこそですよ。茂さんの本、ベストセラーになっているので取材もたくさんきてますよね。自分が本を出して売れるなんて思ってましたか?

思わへんよ。出版社から「本を出さないか」と言われたとき、僕は「無駄や。本になんてならへんやろ。誰も買わへんよ」って言うたんよ。それでも「87歳でデイトレードをしている人なんてそうはいません。本当におもしろいですから、その経験をみんなに伝えてください」って言われてな。それで筆をとったんや。

──そもそもどういうきっかけで本を出すことになったんですか?

1年くらい前にな、懇意にしている岩井証券の人がテレビ東京の人に僕のことを紹介してくれてな、テレビ東京のYouTube動画に出たことがあるんですよ。それが120万再生だったらしくて、これはとてつもない数字らしいわ。ようしらんけど。その動画を見た編集者が「本を出したい」って言うてきてな。

──なるほど。どんな風に本を書こうと思いましたか?

どうせ書くなら読んでくれる人の役に立ちたいと思ってな。隠しごとなしに日常生活から投資法まで全部書こうと思いましたわ。

──茂さんは隠し事が嫌いなんですね。

そうや! 株で儲けている人の多くは、自分が儲けてるって言いたがらないやろ。その点、僕は自分をよく見せようとも思わんし、なにも隠さへん。唯一僕がみなさんに胸を張って言えるのは、僕はすべてを惜しみなく公開してるいうことですわ。君、ビール飲めるか?

──飲めます。

じゃあ飲みなさいな。

──いただきます。

こうして、ビール片手にズワイカニとモサエビを食べながら、茂さんの人生についてのロングインタビューが始まるのであった。




取材・文・写真/山下素童

『87歳、現役トレーダー シゲルさんの教え  資産18億円を築いた「投資術」』

藤本 茂

2023年11月29日

1760円(税込)

単行本

ISBN: 978-4478119181

1936年(昭和11年)、二・二六事件が起きた年、兵庫県の貧農の家に4人兄弟の末っ子として生まれた。

 

高校を出してもらってから、ペットショップに就職。そこでお客だった証券会社の役員と株の話をするようになった。そして19歳のとき、4つの銘柄を買ったことが 株式投資の始まりだった。あれから68年、高度経済成長、ブラックマンデー、阪神大震災、リーマンショック、東日本大震災、コロナショック──時代の移り変わりと危機をこの目で見てきた。

 

今、資産は18億円まで増え、月6億円を売買しながら、デイトレーダーとして日々相場に挑んでいる。お金を増やしたいのは二の次、ただただ楽しいから毎朝2時起きで株のことを考えている。

 

本を書くことになるなんて思ってもみなかったが、どうせ書くなら読んでくれるみなさんの役に立ちたい。だから、隠しごとなしに日常生活から投資法まで全部書いた。