2024年4月11日、ベトナムの民間投資グループ「Van Thinh Phat」のトゥオン・ミー・ラン会長に対し、ホーチミン市人民裁判所が死刑判決を下しました。2022年10月に逮捕されたラン被告人には、ベトナムの国内総生産(GDP)の約3%に相当する合計125億ドル(約1兆9100億円)を横領したとして贈収賄や銀行規則違反の容疑がかけられていました。

Vietnamese property tycoon sentenced to death in $27bn fraud case | Vietnam | The Guardian

https://www.theguardian.com/world/2024/apr/11/vietnamese-property-tycoon-sentenced-to-death-in-27bn-case



Van Thinh Phat chairwoman Truong My Lan sentenced to death in $27B scam - VnExpress International

https://e.vnexpress.net/news/business/companies/van-thinh-phat-chairwoman-truong-my-lan-sentenced-to-death-in-27b-scam-4733069.html

Vietnam Tycoon Lan Sentenced to Death Over $12 Billion Fraud - Bloomberg

https://www.bloomberg.com/news/articles/2024-04-11/vietnam-tycoon-lan-sentenced-to-death-in-12-billion-fraud-case

ベトナム・ホーチミン市に本社を置くVan Thinh Phatは、不動産やホテル、スポーツ、金融サービス、インフラストラクチャへの投資を専門とする民間投資グループで、1992年にラン被告人によって設立されました。ラン被告人は1992年の設立当初、取締役会の議長を務め、その後Van Thinh Phatの会長に就任しています。

2012年にラン被告人の元でVan Thinh Phatは、シェルカンパニーなどを通じてベトナム最大の銀行である「サイゴン合資商業銀行(SCB)」の株式の91.5%を取得しました。

ラン被告人は2012年から2022年に逮捕されるまでの約11年間で、数千万ドル(数十億円)相当の債券を違法に発行し、916件の偽の融資申請書を使用して、SCBから125億ドルもの資金を取得したとされています。海外メディアのVN Expressによると、ラン被告人への違法な融資はSCBが発行した融資総額の93%を占めていたとのこと。また、検察はラン被告人によって引き起こされた損害の総額は270億ドル(約4兆1300億円)にも上ると指摘しています。

さらにラン被告人やSCBの関係者は、違法な詐欺行為を隠ぺいするために、国家当局に対し520万ドル(約7億9600万円)もの賄賂を手渡したことが告発されています。ベトナム国家銀行のドー・ティ・ニャン元主任銀行検査官は「発泡スチロール製のに現金が詰められていました」と証言しました。

長年の捜査の末、ラン被告人は2022年10月に逮捕されました。ラン被告人の逮捕の際にはSCBの預金者がパニックを起こし、取り付け騒ぎにも発展したことが報告されています。

ベトナムでは2021年以降、グエン・フー・チュン書記長の元で「燃えさかる炎」と呼ばれる国家的汚職取り締まりキャンペーンが展開されており、ラン被告人の逮捕と訴追もその一環とみられています。



元中央銀行員や政府高官、元SCB幹部ら85人とともに裁判にかけられたラン被告人は当初、自身の容疑を否認していました。VNエクスプレスによると、ラン被告人らの裁判に関連する文書の重量は約6トンに上り、当局は証拠を隠ぺいから保護するために防犯カメラと防火設備を設置したとのこと。さらに、ラン被告人の保有する1000件以上の資産が押収され、200人の弁護士を含む約2700人が裁判に召喚されました。

ラン被告人は法廷で「十分な経験を積まずに銀行業界に入ったため、法的事項に関して理解不足だった」と証言。また「自暴自棄になって自殺を考えた」ことや「共犯者として裁判にかけられている自身の夫やめいへの寛大な措置を求める」などの供述をしています。

5週間にわたる裁判の末、ホーチミン市人民裁判所はラン被告人に対し、横領や贈収賄、銀行規則違反などの罪で死刑判決を下しました。また、ラン被告人は270億ドルもの賠償金を支払うよう求められています。人民裁判所の裁判長は判決文で「被告人の行動は共産党と国家の指導部に対する国民の信頼を損なわせる」と述べています。



シンガポールのシンクタンク、ISEASユソフ・イシャク研究所の客員研究員であるグエン・カック・ザン博士は「この事件は前例がなく、ベトナムの汚職取り締まりにおける画期的な出来事です。今回のラン被告人に対する訴訟は、民間企業に対する最大規模の訴訟であり、最大の被告人数、最大の証拠数、そしてもちろん最大の資金が関与しています」と分析しました。

なお、汚職事件での死刑判決は極めて異例で、ラン被告人の親族はこの判決に対して控訴する意向を示しています。