アメリカ大陸貿易投資法(Americas Trade and Investment Act)は、アメリカ大陸法(Americas Act)とも呼ばれ、北米、中米、南米、カリブ海諸国から成る西半球における貿易、製造関係を強化する超党派の法案として、2023年に草案作りがはじまった

3月上旬、米連邦議会のビル・キャシディ、マイケル・ベネット両上院議員、マリア・サラザール、アドリアーノ・エスパイヤ両下院議員によって法案の全容が正式に発表されたが、サーキュラーファッション企業に対する補助金と優遇措置という新たな条項が盛り込まれていた。この法案では、衣料品のリサイクル、リユース、リセールに携わる企業の税金を15%引き下げ、これらの企業がサーキュラーファッションを支える技術を向上できるよう、数十億ドル(数千億円)規模の融資や助成金を提供するとしている。

法案が可決されれば、サーキュラーファッション経済に影響を与える最大級の法律になる可能性がある。ラグジュアリーブランドのリセール市場は法律の助けなしでも、パンデミック中も比較的衰えることなく長年にわたって好況を維持してきた。2023年、世界のラグジュアリーブランドリセール市場は400億ドル(約6兆円)近い規模に達し、減速の兆しは見られない。リセール市場の関係者によれば、税制優遇措置や資金援助は市場の刺激薬になるだろうが、この法案ではカバーされていないが市場の助けとなる法律はほかにもあるという。

循環型サプライチェーンの障壁に与える影響



カナダグース(CANADA GOOSE)などのブランドと協力してリセールプログラムを運営しているリセール企業、トローブ(Trove)のCEOであるゲイル・テイト氏は、この法案が与える最大の影響は、ファッションの持続可能性という目標の達成に近づくことだと見ている。トローブの分析によれば、リセールプログラムを導入することで、ブランドは二酸化炭素排出量を15%も削減できるという。しかし、衣料品の引き取り、クリーニング、選別、リサイクル、リセールを含む循環型サプライチェーンの複雑さは、多くのブランドにとっての障壁となっている。

「リセールプログラムの規模を拡大し、ブランドにとって意味ある収益源となる数百万点の商品を処理するには、物流のあらゆる段階で効率化を図る必要がある」とテイト氏は話す。「物理的なタッチポイントを最小限に抑えれば、よりコスト効率の高い運営につながり、その結果、リセールでも確実に利益を上げることができる。アメリカ大陸法は、サプライチェーン短縮のための助成金や資金を与えることで、説得力のある解決策を提示している。これにより、リセールプロセスの合理化が実現するだけでなく、環境への影響も減らすことができる」。

ラグジュアリーバッグのリセールプラットフォーム、リバッグ(Rebag)の創業者兼CEOであるチャールズ・ゴーラ氏は、法案のもっとも説得力のある要素は税制優遇措置だと考えている。ただし法案はまだ審議中であり、現在の文言には「税制優遇措置」と書いてあるだけで、具体的な仕組みは明記されていない。この法案がリバッグのようなプラットフォームにとってどれくらい有益かは、具体的な内容によって決まるだろう。

「もっとも即効性があるのは消費税だろう」とゴーラ氏は言う。「リセール目的での購入の消費税を撤廃するという議論もある。結局のところ、消費税は、その商品が最初に販売されたときにすでに支払われている。10%の消費税を撤廃したとしても、商品価格を5%増やせば、実質的には5%多くお金を受け取ることになり、しかも、顧客の支払い金額は5%安くなる。それならば、消費税の節約分は顧客に丸ごと還元するか、あるいは分配することもできるだろう」。

しかし、税制優遇措置が法人税の引き下げという形であれば、その効果は薄いかもしれない。ゴーラ氏によれば、多くのリセール企業、特にあまり利益を出せていない新興企業は、もともと最小限の税金しか支払っていないという。そのため、すでにかなり低くなっている税金を下げても、大きな影響はないだろうと同氏は考えている。

リセール市場の成長を後押ししてきたZ世代



リセール市場は税制優遇措置や優位な法律の助けをあまり借りることなく、パンデミックのあいだも成長を続けてきた。その主な理由は、顧客に上質な商品をより安く購入できる機会を提供しているためだ。オスカー・デ・ラ・レンタ(Oscar de la Renta)やダイアン・フォン・ファステンバーグ(Diane von Furstenberg)などのブランドと提携するリセール企業、アーカイブ(Archive)の創業者兼CEOであるエミリー・ギティンズ氏は、リセール市場の成長は主に若い世代が後押ししてきたと語る。

「Z世代の3分の1がラグジュアリーブランドの中古品を購入している」とギティンズ氏は話す。「それは彼らにとって次善の策ではない。商品のセカンドライフ戦略を掲げているブランドから購入したいという人が増えているのだ」。

成長が続くなか、人々に中古のラグジュアリーブランド品を買ってもらうことは問題ではない。真の課題、そして、リセール企業が今後の法整備によって助けられる可能性がある課題は、売り手を確保することだ。

「ラグジュアリーブランドのリセールにおいては、商品を手に入れることの方が売ることより常に難しい」とゴーラ氏は話す。「ラグジュアリーブランドは売り手より買い手の方が多く、シャネル(Chanel)やルイ・ヴィトン(Louis Vuitton)の希少なバッグを持っている人は売りたがらないものだ。政府の支援でもっとも有益なのは、人々に売る動機を与えることだろう」。

コストの高いリセール市場



ゴーラ氏が考える政府プログラムは、リバッグのような委託販売業者が消費者から中古バッグを買い取り、政府が販売者に買い取り価格の10%を追加で支払うというものだ。その結果、ラグジュアリーブランドのリセールエコシステムを通じた商品流通のフローが改善され、貴重な商品がクローゼットに眠っている状態を防ぐことができ、この市場全体が強化される。

「この市場には多くのコストがかかる」とゴーラ氏は話す。「ほとんどのリセール業者は本当に厳しい利益で運営されている。買い手に優しいことと売り手に優しいことの狭間には常に緊張関係がある。売り手に売る動機を与えるような何かがあれば、この市場にとって大きな意味を持つだろう」。

ラグジュアリーブランドのリセールプラットフォーム、ファッションファイル(Fashionphile)のインパクト部門責任者を務めるノラ・カミングス氏は、リセールは難しいビジネスだと語った。成長こそしているものの、まだコストのかかるビジネスであることに変わりはなく、有益な法律は歓迎すべきものだ。

「少なくとも、この法案はリセール、修理、レンタル、繊維のリサイクル、選別、リユースなど、循環型の活動に従事する多くの企業に対し、15%の純所得税控除をもたらすことになる」とカミングス氏は話す。「個人がすでに持っているものを売りやすくするだけでなく、必要な中古品を購入できる場所の選択肢を増やすのは簡単な仕事ではない。コストも手間もかかるし、これで利益を得る方法を見つけたリセールプラットフォームはほとんどない。このような優遇措置は、新商品の生産を減らし、すでにあるものをうまく利用できるようにするという点で有意義だ」。

[原文:Luxury Briefing: Luxury resale is poised to receive billions in incentives from new legislation]

DANNY PARISI(翻訳:米井香織/ガリレオ、編集:都築成果)