賭博問題、アメリカでの「大谷へのリアルな評価」
通訳を務めていた水原氏の賭博問題をめぐる大谷選手に対すて現地の人々はどう思っているのか(写真:Seong Joon Cho/Bloomberg)
アメリカ大リーグのロサンゼルス・ドジャースの大谷翔平選手の通訳だった水原一平氏の違法スポーツ賭博に絡む疑惑は、全米のスポーツファンを驚かせた。「心から大谷を信じたい」と多くのファンが声援を送る一方で、「腑に落ちない。意味を成さない」(スポーツジャーナリスト)という冷静な見方も目立つ。
応援したいが「情報が少なすぎる」
アメリカ生まれで福岡県に住む北九州市立大学准教授アン・クレシーニさんは「日本では『大谷を信じる』という声が目立つが、アメリカ人は割と疑念を抱いている。私自身は、大谷は信じられないほどナイーブな人なのだと思うけど」と話す。アメリカメディアを通じて、事件の推移を見守る。
ニューヨークに住む「大の野球ファン」、スーザン・ミヤギ・マコーマックさんは、CBSスポーツチャンネルなどの試合中継グラフィックス・オペレーター。「Nichibei Yakyu: US Tours of Japan, Volume II:1960-2019」の共著者で、日米野球界の違いにも詳しい。
「心の底から、大谷を応援したい。礼儀正しく、思いやりがあって、球界トップのスーパースターだから。でも頭の中では、『彼が絶対にギャンブルをしなかったと言えるのだろうか』『大谷は声明で、被害の総額などについて答えなかった』など、情報が少なすぎることも理解している」とマコーマックさん。
当局の捜査の結果、大谷氏が違法賭博に関わっていたことが判明し、身柄を拘束されるようなことがあった場合、「アメリカだけでなく日本の野球界にとって、恐ろしいことになる」と話す。
日本人・アジア人大リーガーに対する印象が変化してしまう可能性すらあるためだ。またアメリカでは、大谷が「二刀流」が可能なことをアメリカの球界で初めて見せつけたことによって、球児らが「二刀流を目指そう」という夢を追いかけ始めている。
逆に、ロサンゼルスの日本コミュニティ新聞「羅府新報」の永田潤・日本語編集長は、大谷選手が25日(現地時間)、ドジャースタジアムで報道陣に声明を発表したことで、日本人・日系人ファンは「スッキリしたと思う」と話す。
「声明を出したのは、水原氏に対する最大で最後の通牒であり、『決別』ですよね。ファンは、声明を出してくれてよかった、これでプレーに集中できるとホッとしている」
「日本人、アジア人は(社会的に)いいイメージがあるが、地元では、日本人の水原氏が犯罪に手を染めていたというのがショックだと受け止められている」という。
本拠地ロサンゼルスの人々はどうか
ホームであるロサンゼルスのサポートは、驚くほど温かく、シーズンへの期待を感じさせる。
26日のエンゼルス−ドジャース戦では、大谷選手が打席に向かうと、大スクリーンに古巣エンゼルス時代の名場面を集めた映像が流され、大歓声が起きた。テレビでは、エンゼルス時代、「相棒」同士だったマイク・トラウト外野手の姿がチラッと映る。映像の締めくくりは「2023年MVPおめでとう」。大谷氏は、感動の表情で、ヘルメットを脱ぎ、観客席に何度もお辞儀した。
27日には、リトルトーキョーにある都ホテルで大谷氏を描いた高さ46メートルの壁アート「LA Rising(LAの空めがけて)」が公開された。人気アーティスト、ロバート・ヴァーガス氏が8日から描き続けていた。
空に向けてスウィングする姿とピッチする姿が描かれ、二刀流を印象付けている。ヴァーガス氏のインスタグラムを見ると、公開時の壁の前には多くの人が集まり、スマホで一斉に撮影していた。
声明発表時、ドジャース側も大谷サポートに細心の注意を払ったようだ。永田氏によると、メディア側のカメラは一切禁止で、「異様な事態だった」。大谷氏と新たな通訳となったウィル・アイアトン氏だけを撮影した球団側のビデオモニターだけが唯一の映像だったという。
地元有力紙ロサンゼルス・タイムズのドジャース担当記者ジャック・ハリス氏がX(前Twitter)に投稿した写真を見ると、プレスルームを埋めた記者らの手にカメラはなく、音声レコーダーが目立つ。
ハリス氏のXによると、映像に映っていないところで球団の姿勢を明白に知ることができる。大谷選手とアイアトン氏のほか、ドジャースCEOのスタン・カステン氏、ゼネラル・マネジャーのブランドン・ゴームス氏、ドジャース監督のデーブ・ロバーツ氏、投手のジョー・ケリー氏など錚々たるメンバーが同席し、大谷へのサポートを報道陣に見せつけた。
LAタイムズ「この賭博ゴミ溜めはまだ臭う」
しかし、LAタイムズのベテラン・スポーツコラムニスト、ビル・プラシュケ氏は「コラム:大谷翔平をまだ信じる?自分は確信が持てない」にこう書く。「まだ腑に落ちない。いまだに意味を成さない。大谷翔平と彼の助言者らが、いかに片付けようとしても、この賭博ゴミ溜めはまだ臭う」。
1987年からロサンゼルス・タイムズに寄稿する地元のレジェンド、プラシュケ氏は、率直だ。
「私は信じたい。(大谷氏が)純粋で、愛すべき世界のスーパースターとして高潔で、ドジャースが7億ドルも払った伝説的な大谷のマジックが真実である、と」「でももし、最高額所得の選手が、450万ドル(もの大金)に注意を払っていないとしたら、400万人の球団ファンをどうやって思いやることができるのか」
プラシュケ氏は、「疑うことは、はしたない。不信を抱くのは、不安だ」が、多くのファンが自分と同じ気持ちだろう、と指摘する。最後にこう締めくくる。日本語の『完璧な人』として知られた人物は、「いつの日かそうなるかもしれない。でも今はそうではない」と。
(津山 恵子 : ジャーナリスト)