能登半島地震の被災地には、トイファクトリーの新型ポータブルトイレ「クレサナ」を搭載したトイレカーが出動した(写真:トイファクトリー)

2024年元旦に能登半島地震が発生したことで、避難場所や電気・水道などの生活インフラに関する災害時の対策についても、ますます関心が高まっている。そんな中、「ジャパンキャンピングカーショー2024(2024年2月2〜5日、千葉県・幕張メッセ)」では、キャンピングカー関連商品ながら、被災時にも役立つ用品などが数多く展示された。

災害時に役立ちそうだと感じたアイテム

中でも注目だったのが、トイファクトリー(岐阜県可児市)が展示した新型ポータブルトイレ「クレサナ(clesana)」と、ホワイトハウスキャンパー(愛知県名古屋市)が開発した新型ポップアップルーフ「スカイデッキ(SKY DECK)」だ。

クレサナは、水を使わず排泄物(はいせつぶつ)を処理でき、環境にも優しいという簡易トイレだ。実際に、水道の復旧が遅れている能登半島の被災地・珠洲市でも使われており、住民の避難生活に役立っているという。

また、スカイデッキは、クルマのルーフ部に取り付けることで、停車時に就寝スペースを作り出せるポップアップルーフの新型モデルだ。素材を従来のFRPからメタルに変更することで、大幅な軽量化や量産化を可能とするほか、ミニバンなどの普通車へ後付けすることも可能。アウトドア・レジャーを楽しむだけでなく、災害直後の一時避難所として愛車を使うこともできるという。

ここでは、これら災害時にも役立つ2つのアイテムをピックアップし、それぞれの特徴などを紹介してみたい。

トイファクトリー:ポータブルトイレ「クレサナ」


ジャパンキャンピングカーショー2024に展示されていたクレサナ(筆者撮影)

キャンピングカー・メーカーのトイファクトリーが展示したクレサナは、スイスを拠点とするクレサナ社が開発した新型ポータブルトイレだ。大きな特徴は、水を一切使わないこと。トイレ本体の内部にセットしたロール状のフィルムライナー(密閉式パック)が、使用毎に排泄物を自動密閉するため、いわゆる水洗を不要としている。


トイレ内部にセットされたフィルムライナー(筆者撮影)


内部には凝固剤を入れ排泄物を固める(筆者撮影)


フィルムライナーを熱圧着し、密閉した様子(筆者撮影)

また、環境に優しいこともポイントだ。一般的なキャンピングカーなどに使われるカセット式トイレでは、ブラックタンクと呼ばれる排泄物を溜めるタンクを使う。タンク内には、排泄物を溶かす化学溶剤などを使うことで、臭いなどを防ぐ仕組みとなっている。一方、クレサナは、排泄物を溜めるフィルムライナーを熱圧着で完全密閉することで、臭いやバクテリアの発生を防止。溶剤や薬剤は不要だ。

しかも使用済みのフィルムは、各自治体の分別ルールにもよるが、家庭ゴミなどで簡単に処理することも可能。一般的なキャンピングカー用カセット式トイレの場合は、ブラックタンク内の排泄物を処理するのに苦労する。タンクを車内から取り出し、中の汚水を処理する(捨てる)必要があるからだ。自分のものとはいえ、汚水を扱うのにはやや抵抗のある人も多いことで、結局は使わないユーザーも多い。


圧着されたフィルムライナーをそのまま捨てるだけなので処理も簡単(筆者撮影)

対して、クレサナであれば、圧着したフィルムライナーを本体下部から取り出して捨てるだけと簡単だ。しかも、あらかじめ投入している凝固剤が排泄物を固めているため、汚水を触っている感覚もなく、気軽に処理を行える。

また、フィルムライナーは用途に応じて使用する長さを変えることが可能。圧着した状態を大便用の「大」、小便用の「中」、子ども用の「小」といった大きさに変えられる。排泄物の量などに応じて使えるため、無駄なフィルム量を使わず経済的だ。なお、1本のフィルムライナーは平均36回分。使用後のフィルムライナーは本体に約8回分をストックすることができる。

さらにクレサナは、水洗トイレと違い、おむつやウェットティッシュ、生理用品なども処理することが可能。また、使用する専用のフィルムライナーは、バクテリアバリア機能付きのため、医療現場で排出される感染性廃棄物(感染性疾患の患者の排泄物、使用済みおむつなど)にも対応。衛生的なことで、被災地やキャンピングカーだけでなく、介護現場や医療現場など、多様な場所での使用が可能だ。また、トイレの設置に必要なのは、使用後のフィルムライナーを熱圧着するためのDC12V電源のみ。電源を接続し、新品のフィルムライナーをセットすれば、すぐに使うことができる。


能登半島地震の被災地に設置されたトイレカー(写真:トイファクトリー)


トイレカーの中には、個室トイレルームを2部屋完備(写真:トイファクトリー)

ちなみに、トイファクトリーでは、実際に、この新型トイレを搭載したトイレカーを開発し、能登半島地震の被災地である石川県珠洲市へ派遣。現地では、女性用トイレとして活躍しているという。また今後は、自社製作のキャンピングカーへ採用するのはもちろん、他メーカーや行政、一般ユーザー向けの販売も行う。トイレ本体には、丸型ベースとL型ベースの2タイプがあり、一般向け販売の価格(税込み)は26万4000円だ。

ホワイトハウス:スカイデッキ


ホワイトハウスキャンパーが展示していたスカイデッキ(筆者撮影)

一方、輸入車・自動車用品販売を手がけるホワイトハウスのキャンピングカー事業部「ホワイトハウスキャンパー」が展示したスカイデッキ。これは、前述のとおり、クルマのルーフ部に取り付けるポップアップルーフの新型だ。ポップアップルーフとは、停車中に上方へ展開することで、大人2名などの就寝が可能なベッドスペースを作り出せるシステムのこと。いわば、クルマの屋根に搭載するテントのようなものだ。


スカイデッキを折りたたんだ状態(筆者撮影)

しかも、走行中は折りたためるため、車両はノーマルとあまり変わらない全高となる。走行風などの抵抗も少ないため、安定した操縦性を確保する。採用例は増加傾向で、本格的キャンピングカーをはじめ、ミニバンや商用バン、軽ワゴンなどをベースとし、内外装をあまり変更しない車中泊仕様車など、多様なモデルへの装着が目立つ。

スカイデッキは、さまざまなタイプのポップアップルーフ装着車を手がけてきた同事業部が開発した。主な特徴は、カバー部などにメタル製を採用したことだ。従来、ポップアップルーフの素材には、同社製に限らず、多くのメーカーがFRP製を採用している。一方、メタル素材のスカイデッキは、重量がFRP製と比べ約50%軽くできるという。


スカイデッキのイメージ図(写真:ホワイトハウス)

また、FRP製はハンドメイドも多いが、メタル製ならプレス成形により大量生産が可能。納期を大幅に短縮できるほか、ミリ単位の高精度な加工もできることで、抜群のフィッティングも実現する。


開閉などはスマートフォンやタブレットから操作可能(筆者撮影)

ほかにもスカイデッキには、ボタンで操作できる電動開閉システムも装備。また、スマートフォンやタブレットを使い、車外から操作することも可能。従来のポップアップルーフにはあまり採用例のない、高い利便性も注目だ。なお、製品は、車種別対応となるが、対応車種と同じモデルであれば、コンプリートカーだけでなく、普通のクルマに後付けすることも可能なのだという。

アウトドア以外に災害も想定して開発

同事業部の担当者は、スカイデッキを開発した背景に、近年、「キャンプなどのレジャーだけでなく、被災時の避難方法としても車中泊が注目されている」ことを挙げる。そうした傾向からポップアップルーフ装着車も、キャンピングカー用の装備としてのみならず、災害時に役立つ装備としても人気が高まっているのだという。

こうした傾向は、例えば、能登半島地震の直後も、自家用車を一時避難所として活用した被災者がいたことでもわかる。大人数が集まる避難所よりも、クルマの中での一時避難を選んだ人も多かったようだ。しかも、これは、今回の震災時だけに限らない。近年増えている線状降水帯などによる水害や崖崩れといった災害時にも、そうした車中泊派の避難者も増えていることをよく耳にする。

そして、そのような非常時に、もしポップアップルーフ装着車があれば、「普通のクルマで車中泊するよりも、広くて快適なスペースで寝泊まり」できる。そうした背景もあり、同事業部は、より量産が可能で、多くの需要に対応できるスカイデッキを開発。しかも、メタル製は、前述のとおり、従来モデルより軽く作れる。重いものを持ち上げることが苦手な女性などでも、楽に開閉操作ができることもメリットだ。製品化が進んでいけば、より幅広い層がポップアップルーフ装着車を選べるようになることが予想できる。


今後は、幅広い車種に向けてスカイデッキを展開予定(写真:ホワイトハウス)

同事業部では、今後、国産車の人気ワンボックス車やミニバンを中心に、車種別の対応モデルを製作し、まずは、2024年夏頃に2モデルをリリースする予定。その後、対応車種を徐々に広げていく方針だ。

キャンピングカーから防災対策へ

13年前の東日本大震災や8年前の熊本地震、今回の能登半島地震など、甚大な被害をもたらす震災が多い日本は、まさに「地震大国」。また、近年は、線状降水帯の発生による水害なども多く、誰もが「いつ何時、被災者になるのかわからない」状況だ。そうした危機感からだろう。ここで紹介したようなアイテムをはじめ、キャンピングカーなどを本来のレジャー目的だけでなく、防災対策としても活用する傾向は増えている。まさに、「転ばぬ先の杖」として、今後もこれらが多くのユーザーに注目されることが予想される。


東洋経済オンライン「自動車最前線」は、自動車にまつわるホットなニュースをタイムリーに配信! 記事一覧はこちら

ちなみに今回のショーで、先に紹介した新型ポータブルトイレのクレサナは、トイファクトリーだけでなく、ホワイトハウスキャンパーでも展示していた。この製品は、前述のとおり、スイスの企業であるクレサナ社が開発した輸入商品。同事業部の担当者によれば、「たまたま(トイファクトリーと)同時期に輸入を開始した」のだという。つまり、国内で複数の代理店が取り扱うということだ。それは、見方を変えれば、それだけ利便性に優れており、注目の商品であることの証しかもしれない。なお、ホワイトハウスキャンパーが取り扱うクレサナ本体も、丸型ベースとL型ベースがあり、本体価格(税込み)は26万9500円だ。

(平塚 直樹 : ライター&エディター)