「ことわざ」から見えてくるそれぞれの国の違いと共通点とは(写真:kinako/PIXTA)

英語に次いで学びたい第2言語としても人気の、フランス語、スペイン語、イタリア語。北海道大学の藤田健教授は、「これら3言語は同じ言語グループに属しているため共通する点が多い。そのため、それぞれの相違を見比べながら複数の言語を同時に学ぶと面白い」といいます。本稿は、藤田氏の著書『フランス語 スペイン語 イタリア語 3言語が同時に身につく本』から一部抜粋・再構成のうえ、それぞれの国のことわざを3言語でならべ、その違いと共通点について比較してみました。

仏西伊、3つの兄弟言語の「ことわざ」の相違

フランス語・スペイン語・イタリア語は、わたしたち日本人に比較的なじみのある国・地域で使われています。いずれも長い歴史の中で育まれた豊かな文化を背景にもつ、とても魅力的な言語です。

これら3言語は、ロマンス諸語という言語グループに属し、兄弟関係にあります。古代ローマで使われていたラテン語を共通の祖先としているため、似ている点がとても多いのが特徴。

ゆえに、先人の英知がつまった「ことわざ」にも共通点があったり、似ている中にも違いがあったりし、そんな相違を知るのも面白いものです。

そこで今回は、3つの言語それぞれの「ことわざ」を見比べて、言語の持つ奥深さと面白さに触れてみましょう。

●「一石二鳥」

それぞれの言語によって興味深い「違い」があるのが、日本にもあるこのことわざ。


『フランス語 スペイン語 イタリア語 3言語が同時に身につく本』P.133より

みなさんご存じのことわざ「一石二鳥」にあたる表現です。3言語で言い方は少しずつ違っていますが、スペイン語が日本語にいちばん近く、「一つの石で二羽の鳥を殺す」という意味です。フランス語は「スリッパの一撃で二匹のハエを退治する」、イタリア語は「一つのソラマメで二羽のハトをしとめる」となります。

物事の捉え方の違いも異文化ならでは

●「一寸の虫にも五分の魂」

こちらも、それぞれの言語の違いがわかる、味わい深いことわざです。


『フランス語 スペイン語 イタリア語 3言語が同時に身につく本』P.66より

直訳すると、それぞれ「アリには自分の怒りがある」、「どのアリにもそれぞれの怒りがある」、「ハエにも自分の怒りがある」となります。

colère, ira, colleraが「怒り」という意味の女性名詞で、「自分(彼・彼女)の」という意味の所有形容詞がついています。フランス語fourmi、スペイン語hormigaが「アリ」であるのに対して、イタリア語のmoscaが「ハエ」であるところが面白いですね。

スペイン語のcadaは英語のeveryにあたり「どの〜も」という意味で、イタリア語のancheは英語のalsoにあたり「〜も」という意味です。

次に、3つの言語で意味が完全に一致していたり、ほぼ同じ意味を表現していることわざをご紹介しましょう。

●「歴史はくり返す」


『フランス語 スペイン語 イタリア語 3言語が同時に身につく本』P.237より

3言語で各単語が完全に対応している文で、意味も日本語訳そのままです。ここでの再帰動詞の用法は、「〜をくり返す」という他動詞を「〜がくり返す」という自動詞に変えるというものですが、「くり返される」という受け身のニュアンスも入っていると言えます。このように、再帰動詞はくり返し行われる行為や普遍的に成り立つ事柄を表すのにも使われます。

英語でもHistory repeats itself.と再帰代名詞を使って他動詞の自動詞化が起こっていると言えますが、3言語のほうが再帰動詞を使った構文の使用頻度がはるかに高く、再帰動詞の便利さを教えてくれることわざです。さまざまな意味で奥が深い言葉で、あらためてかみしめたいものです。

「命」と「希望」から見るそれぞれの視点

●「命あっての物種」


『フランス語 スペイン語 イタリア語 3言語が同時に身につく本』P.121より

3言語で同じ意味を表す文となっていて、「命がある限り、希望がある」ということを表しています。「命」と「希望」は数えられない抽象名詞として扱われているので、フランス語では部分冠詞がついています。イタリア語にも部分冠詞はありますが、ここでは無冠詞となっています。命も希望も、分量ではなく、その有無そのものを問題にしているからですね。部分冠詞がないスペイン語でも当然無冠詞です。

また、存在を表す表現が使われていますね。tant que, mientras, finchéは「〜限り」という意味の接続詞(句)です。「命」の大切さを説く言葉で、じっくり噛みしめたい表現ですね。

●「大海の一滴」


『フランス語 スペイン語 イタリア語 3言語が同時に身につく本』P.161より

このことわざも3言語で同じ意味を表す文となっていて、「それは海の中の一滴の水である」、つまり「大海の一滴」という表現です。フランス語だけ指示代名詞が主語となっていて、ほかの言語では主語は省略されています。イタリア語のd’acquaはdi acquaが縮まった形で、このような定型表現などでは、母音の前でdiのiが落ちることがよくあります。

広大な海とわずか一滴の水というスケールの違いを表現することによって、とるに足らない量であるということを表しています。日本語では「九牛(きゅうぎゅう)の一毛(いちもう)」とも言いますね。

「ことわざ」を通して文化の違いを知る

●「ない袖は振れぬ」


『フランス語 スペイン語 イタリア語 3言語が同時に身につく本』P.245より

こちらも3言語で同じ意味を表す文となっていて、「何もないところでは王様は権利を失う」ということを表しています。フランス語とイタリア語では、存在を表すおなじみの構文が前半に使われていますね。


スペイン語のhayという存在を表す動詞は、もともとは「持っている」という意味を表していた動詞haber(アベル)の現在形3人称単数形haに場所を表す語yがくっついたものです。フランス語と同じなりたちの表現ということになるのです。ただ、現在ではこのyは単独では使われなくなってしまい、hayで1つの語とみなされています。

このことわざは、「どんなに偉い人でも、与えられた状況に合わせていくしかない」ということを示していて、「ない袖は振れぬ」という日本のことわざにあたると言えますね。

いかがでしょう。「ことわざ」を通してフランス語・スペイン語・イタリア語それぞれの言語や文化の相違を垣間見ることができたのではないでしょうか。

このように3つの言語の近い関係を最大限活用して、3言語を同時に効率良く学ぶこともおすすめです。多言語を操るマルチリンガルに興味がある方は、ぜひ、チャレンジしてみてください。

(藤田 健 : 北海道大学大学院文学研究院教授)