「ひろゆきの彼女」だから使えると思っただけ…取引先から暴言を浴びた妻に、ひろゆきが放った冷徹な一言
※本稿は、西村ゆか『転んで起きて 毒親 夫婦 お金 仕事 夢 の答え』(徳間書店)の一部を再編集したものです。
■出会ったばかりの頃は白馬の王子様
出会ったばかりのころのひろゆき君はまるで、私を救いに来た白馬の王子様だった。
私が出社してパソコンを立ち上げると、メッセンジャーアプリから「おはよう」のメッセージが来る。仕事を終えるころには、必ずといっていいほど連絡をくれ、おしゃれなお店を探して、食事に連れていってくれた。
私もそんなひろゆき君を頼りにするようになっていた。
朝、具合が悪くなって会社に行けなかった日は、ひろゆき君にメールをした。すると、彼は駅まで迎えにきてくれて、一緒にご飯を食べようと言ってくれて、彼の家で一緒に料理をして食べた。
そのとき作ったものは、パスタとかそんな簡単なものばかりだったけれど、彼と一緒に食事をするうちに、なにかが変わっていった。
「食べる」ということが、ストレス発散の手段ではなく、楽しいことだと思えるようになっていったのだ。
そのとき、私は25歳で、ひろゆき君は27歳。10代のころのような大げさに騒ぐような恋ではなかったけれど、この人との時間を、これからも大切に過ごしていけたらいいなという静かな願いがそこにはあった。
「一緒に生きていく人」という言葉が、自然と頭に浮かんだ。
たぶん、出会ったタイミングが奇跡的によかったのだと思う。
ひろゆき君は、過去の恋愛の反省から、私に丁寧に向き合おうとしてくれたし、私は散々な失恋の後で、自分を変えようと努力している最中だった。
もし、タイミングがほんの少しでも早かったり、遅かったりしたら、私たちがパートナーとして歩んでいくことはなかったかもしれない。
■「甲斐甲斐しい彼氏」は半年で終わった
甲斐甲斐しい彼氏を演じていたひろゆき君だったけれど、付き合って半年くらいすると、すみやかに通常モードに移行していった。
おしゃれで楽しいデートプランをまったく考えなくなった。
私と会うときにジャケットやシャツを着るのもやめた。
そして、いつでもTシャツと短パン姿でゲームをしている人になった。
それでも、私の彼への信頼は変わることがなく、いっそう深くなった。
彼がなんだかんだ言って、ちゃんと話ができる人だったからだ。
一緒にご飯を食べることは2人の習慣になり、彼のそばが私の居場所になった。
■「論破王」の呼び名に思わず失笑
ところで私は、もともとテレビを見る習慣があまりない。2015年からフランスに住みはじめたこともあって、さらに日本のお茶の間事情に疎(うと)くなった。
だから、フランスに来てからも、ひろゆき君が定期的に日本に一時帰国していることは把握しているものの、メディアに出る機会がだいぶ増えたことや、世間から「論破王」として知られていることに気づいたのは、だいぶあとになってからだった。
はじめて「論破王」という呼び名を聞いたときには失笑してしまった。
「なんかちょっとダサくない?」と言うと、「おいらからそう名乗ったわけじゃないし」と不服そうなひろゆき君。呼び方を受け入れている時点で、自分でもなかば認めているようなものなんじゃないかなぁという感想を抱きつつも、ただ、メディアってキャラが立ってる人のほうが重宝されるし、それを上手に使いこなせる人が、結果として残っている世界のようにも見える。
まぁ、好きにやるのがなにより好きな人なので、自由にすればいいのではないかと思っている。「お前の旦那は……」と私を巻き込もうとする外野は、間に合っていますけどね。
■家庭では論破はしてこない
そんな論破王と暮らしているせいか、「ひろゆきさん、家庭でも論破しようとしてくるんですか?」と聞かれることがある。結論から言うとノー。
だって、想像してみてほしい。たとえば解説系のYouTuberは、みんな「この僕/私が教えてあげますよ」って目線で家族に接しているのだろうか?
ほかにも、たとえば子育て支援施策が全国的に話題となった兵庫県明石市の前市長である泉房穂氏や、「行列のできる法律相談所」をはじめとする数々のメディアに出演し、大阪府知事を務めた橋下徹氏、メディアでは堂々とした、時には強気と受け取られるような発言をする人たちは、家庭内でも同じような姿勢を維持しているのだろうか?
そんなことしてたら結婚生活維持できなくない? 知らんけど。
話をひろゆき君に戻すと、たしかにヒートアップすると饒舌(じょうぜつ)になる部分はあるし、気になる仮説を見つけると、たとえ私がそれに興味がなくても、ずっとひとりで勝手に推論を話し続けているときもある。
でも、プライベートでの彼は基本は物静かだし、たとえ議論となりその場では意見が合わなかったとしても、紙1枚分でも良い方向に進むための努力をしようとする人だ。
誰かとともに暮らすって、軌道修正と改善の繰り返しだ。それができる人だから一緒にいるのだ。それに、私を論破しようとするのなら、撮れ高もないのにめちゃめちゃ面倒なことになること必至なのは、彼自身がいちばんよくわかっているだろう。
「家庭内での論破は、百害あって一利なし」なのである。
■「ひろゆきから生活費もらってないの?」
フリーランスのウェブデザイナーになったばかりのころ、ひろゆき君が役員を務めていた会社の仕事を手伝ったことがあった。
「仕事を頼みたい」と声をかけてくれたのは、ひろゆき君に出会う前から知っていた人だった。その人がひろゆき君と同じ会社で働いているということを知ったとき、偶然に驚いたものだ。
でも、昔から知っている人だったからこそ、私も少し油断したのかもしれない。
その人に依頼された仕事をはじめてしばらくすると、事務所に呼び出された。
会社の資金繰りがうまくいっていないので、私に支払うギャランティーを少し減額したいという話だった。
そのときの私は、ほかにも仕事があったし、減額されたら生きていけないという切羽詰まった状況でもなかった。それに、昔からの付き合いを大事にしたいと思ったから快諾した。
ところが、しばらくしてまた呼び出された。やっぱり経営がうまくいっていないから、さらに減額してほしいという話だった。
「いくらですか?」とたずねると、最初のギャランティーの半額を提示された。
とても了解できるような金額じゃなかった。
「これはさすがに無理です。ほかのクライアントさんとも、こんな金額でお仕事したことなんてありませんから」と私がきっぱり言うと、
「ひろゆきから生活費もらってないの?」
「もしかして2人はうまくいっていないの? 困ったことがあるなら相談してね」
などと、ぜんぜん関係ない話に持っていこうとする。
■「彼女だからいいように使えると思っただけ」
「いやいや、それはこの話と関係ないですから」と私が反論すると、その人は私との契約を打ち切ると言ってきた。
そして、捨て台詞として「ひろゆきの彼女だからいいように使えると思っただけだ」とまで言いやがったのだ。
腹が立って悲しくて、家に戻ってからひろゆき君にこのことを話した。
ひろゆき君の話では、資金繰りがうまくいっていないというのは、その人の嘘だった。しかも、その人が、会社のお金を使い込んでいたらしい。
だから、正直に言うと、ひろゆき君が私のためになにか対処してくれるんじゃないかと思った。悪いことをしているのはそいつなのだから。
でも、そんな私の期待をよそに、ひろゆき君はこう言った。
■「ひろゆきは、データがないと守ってくれない」
「全部が口約束でしょ? 証拠がなにも残っていないから君を守れない」
いまなら、ひろゆき君の言うことは正論だと思えるのだけれど、そのときは、こんなに傷ついている私に、よくもまあそんなことが言えると思ってブチ切れたのを覚えている。
「この件で僕が口を出すと、役員の彼女が報酬のことで不満を言っている。役員が会社の経営に私情を挟んだと思われる」と、彼は冷静に私を諭してきた。
それで結局、私はなんの反撃もできず、契約を解除された。
守ってくれなかったひろゆき君にすごくがっかりしたし、裏切られたという思いが消えなくて、しばらく彼とは口も利かなかった。
でも、この一件から私は、ひろゆき君と生きていくためにすごく大事なことを学んだのだ。
「ひろゆきは、データがないと私を守らない」
そして、こうも考えた。今回みたいなことって、ほかの仕事でも起こり得るんじゃないかと。
口頭でそんな約束をしてしまった時点で私の負けだったのだ。
これは、フリーランスとして生きていくために大事な教訓だった。
そして、二度と同じミスは繰り返さないと心に誓った。
■大事な人を守らないひろゆきから妻が学んだこと
ちなみに、この話を誰かにすると「ひろゆきさんは大事なことをゆかさんに教えようとしたのですね。そんなひろゆきさんに、ゆかさんは感謝しているのですね」とか言ってくる人がいるけれど、それは絶対に違う。
いまでもこの一件を思い出すと、腹が立って「あのときなぜ助けなかったああああ」とひろゆき君につかみかかりそうな勢いである。でも、何事もすぐに忘れるのが特技の彼は、たぶんとっくに忘れているのでそんな無駄なことはしない。
でも、読者のみなさんがわかってくれたらうれしい。
ひろゆき君が教えてくれたんじゃないの。
私が自力で自衛を学んだだけなの。
数年後、私は、別の仕事で、別の人から同じ目に遭いそうになったが「口頭ではなくメールでお願いします」と速攻で返した。そして、契約満了まで無事に働いた。
さらに良かったのは、同じ目に遭いそうになっていた、若手のデザイナーを守ることもできたということだ。彼女もちゃんと次の仕事を見つけるまで、その会社で働くことができた。
なにが言いたかったかというと、ひろゆきはヒドイ……じゃなくて、人の善意につけ込むやばい奴はどこにでもいるということ。そのための自衛は怠ってはならないということです。
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西村 ゆか(にしむら・ゆか)
Webディレクター
1978年、東京都生まれ。インターキュー株式会社(現GMOインターネットグループ株式会社)、ヤフー株式会社を経て独立。現在、フランス在住。著書に『だんな様はひろゆき』(原作・西村ゆか/漫画・wako)がある。
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(Webディレクター 西村 ゆか)