ホンダ新「CR-V」日本導入、燃料電池車だけの訳
2024年2月28日に世界初公開となったホンダの新型燃料電池車「CR-V e:FCEV」。発売は2024年夏頃を予定し、先行予約受付開始は2月29日からとなる(筆者撮影)
「ヴェゼル」や「ZR-V」、さらに2024年3月22日発売予定の「WR-V」と、SUV(スポーツ・ユーティリティ・ビークル)のラインナップを拡充している本田技研工業(以下、ホンダ)から新型「CR-V」国内投入が正式にアナウンスされた。
6代目CR-Vは、すでに北米でターボガソリンエンジン車とハイブリッド車が販売されているが、日本で導入されるのは今回発表された新型燃料電池車「CR-V e:FCEV」のみとなる。北米で販売中のターボガソリンエンジン車およびハイブリッド車の国内導入は未定とのことだ。
ちなみにCR-V e:FCEVについては、2024年2月28日〜3月1日に東京ビッグサイトで開催される「H2&FC EXPO[春]2024〜第21回[国際]水素・燃料電池展[春]〜」で世界初公開となり、会場で実車を見ることもできる。
今回は、そんな世界初公開に先駆けて行われた技術説明会の内容を中心に、新型CR-V e:FCEVの情報やFCEVのみ投入した真相に迫る。
6代目CR-Vについて
新型CR-V e:FCEVと、技術説明を行った本田技研工業 電動事業開発本部 BEV開発センター 開発責任者 生駒浩一氏(筆者撮影)
先代モデルとなる5代目が2022年に販売終了し、国内ラインナップから車名が消えていたCR-V。しかし、需要の多い北米では、2022年に新型となる6代目が投入され、現在も好調な販売をみせている。
今回、国内投入が決定したCR-V e:FCEVは、その6代目をベースに新型燃料電池システムを搭載したモデルとなる。ちなみにCR-V e:FCEVは、2024年夏頃に日本に加えて北米でも販売される見込みだ。
6代目CR-Vは、燃料電池システムをホンダとゼネラルモーターズ(GM)で共同開発し、車両はオハイオ州メアリズビルにある四輪生産拠点「パフォーマンス・マニュファクチュアリング・センター(PCM)」で生産され、日本に届くので逆輸入車という形になる。近年、ホンダはインド生産のWR-V、中国生産の「オデッセイ」など、海外生産モデルの日本投入が増えているが、新型CR-Vも同様と言えるだろう。
余談だが、アメリカのパフォーマンス・マニュファクチュアリング・センターと言えば、2022年12月をもって販売終了となった和製スーパーカー「NSX」の生産拠点だった場所だ。特殊な組み立て工程に適した場所ということで、FCEVの生産を担うことになったとホンダは語る。
世界初公開となる新型CR-V e:FCEV
CR-V e:FCEVのリアビュー(筆者撮影)
6代目CR-Vは、前述のとおり日本未導入ながらが北米で販売されている車種だが、燃料電池車となるCR-V e:FCEVは世界初公開となるモデルだ。ちなみに2023年11月に開催された「ENEOS スーパー耐久シリーズ2023 Supported by BRIDGESTONE 第7戦 S耐ファイナル 富士4時間レース with フジニックフェス」の会場に、新型CR-VのFCEVが展示されたが、こちらはあくまでコンセプトモデルで、市販モデルとしての公開は今回が世界初という話だった。
また、現在販売されているFCEVは、トヨタの「MIRAI」や「クラウン(セダン)」などのセダンモデルが中心で法人ユース主体と言えるが、CR-V e:FCEVはSUVをベースにすることで個人ユーザーのニーズにも応える商品となっている。さらにFCEVの場合は、水素ステーションを探すのに苦労することも多いが、CR-V e:FCEVはプラグインハイブリッド車のように外部から充電可能になっていることも特筆すべき点だろう。
フロントフェンダーには、普通充電と外部給電に対応したAC充給電口を備える(筆者撮影)
ちなみに水素による発電に加え、プラグイン充電機能を備えた燃料電池車は日本メーカーでは初の試みとなる。これにより、燃料電池車の課題だった水素充填と、BEV(バッテリー式電気自動車)等の走行可能距離の短さというデメリットをカバーし、利便性を高めているのだ。ちなみに水素充填1回あたり走行可能距離は600km以上、EV走行可能距離は60km以上となる見込みだ。
また、水素のタンクについては後部座席下とラゲージスペースに計2本搭載し、内容量などは非公開ながら約3分とガソリンと変わらない充填時間となっているとのこと。この充填時間は、2021年に生産終了したホンダの燃料電池車「クラリティ フューエル セル」と同等となる。
ただし、GMと共同開発した新型の燃料電池システムは、クラリティ フューエル セルに搭載されていたものより、白金使用量やセル数などを削減し、コストを1/3、耐久性を2倍、さらに耐低温性なども大幅に向上させているとのこと。さらにパワーユニットの一体化により、システム全体の小型軽量化にも成功しているという話だ。
水素から電気を生み出すFCスタック。一見すると普通のガソリンエンジン車と見わけがつかない(筆者撮影)
これによってベースになる6代目CR-Vのエンジンマウントをそのまま流用でき、コスト削減を可能にしている。今回はあくまで技術説明のみで、試乗はできなかったが、振動や騒音についてもクラリティ フューエル セルから大幅に低減し、上質な走りも実現していると説明された。
エクステリアデザイン
CR-V e:FCEVのサイドシルエット(筆者撮影)
エクステリアデザインについても、北米で販売されている6代目CR-Vの部品を極力流用する。パッと見ただけでは、北米仕様のガソリン車およびハイブリッド車と見わけがつかないほどだ。ただし、FCスタックを搭載する関係で、フロントオーバーハングが110mm延長されている。そのためフード/フロントフェンダー/フロントバンパー/グリル/リアバンパーロアなどは専用設計になる。
北米仕様車はハニカム構造のダクトを採用しているが、CR-V e:FCEVはシャープなフィン形状に変更されている(筆者撮影)
そのほか、リアコンビネーションランプやライセンスガーニッシュ、細かい部分ではフェンダーガーニッシュやサイドシルガーニッシュのデザインも変更される。例えば、LEDヘッドライトまわりにはメッキパーツを採用し、リアコンビネーションランプもアウターレンズをクリア化することでFCEVらしいクリーンな印象を創出しているということだ。サイドシルも北米仕様ではブラックアウトされているが、CR-V e:FCEVではボディと同色にすることで一体感を高めている。
シックでありながら力強い印象を受けるメテオロイドグレー・メタリックのボディカラー(筆者撮影)
ちなみにボディカラーに関しては、クリーンな印象の「プラチナホワイト・パール」と、力強さが際立つ「メテオロイドグレー・メタリック」の2色展開となる予定だ。
一般的なSUVは、凹凸のある悪路走行時に路面との接触を防ぐために、フロントオーバーハングが短めに設定され、フロントのアプローチアングルと呼ばれる対地障害角が大きくなっていることが多い。しかし、CR-V e:FCEVの実車を見た印象は、フロントノーズの長さが強調され、セダンやクーペのようにスタイリッシュかつスポーティな印象を受けた。さらにフロントグリルも北米仕様のハニカム構造から横に流れるようなフィン形状に変更されて都会的なスタイルが強調される。
ちなみにボディサイズは、ベースとなっている北米仕様が全長約4694mm×全幅約1864mm×全高約1692mm、ホイールベース約2700mm(すべてインチから換算)。一方のCR-V e:FCEVは、全長4805mm×全幅1865mm×全高1690mm、ホイールベース2700mmとなり、全長以外はほぼ同サイズになる。
ホイールは18インチを採用(筆者撮影)
車格的には、トヨタの「RAV4」が全長4600〜4610mm×全幅1855〜1865mm×全高1685〜1690mm、「ハリアー」が全長4740mm×全幅1855mm×全高1660mmなので、比較的近い寸法となる。また、RAV4やハリアーにも2.5Lプラグインハイブリッド車の設定があるので、直接的なライバルになりそうだ。
インテリアデザイン
CR-V e:FCEVのインテリア(筆者撮影)
インテリアに関しては、水平基調のダッシュボードに、現行シビックなどでも用いられているハニカムメッシュパネルの採用など、基本的には北米仕様と同様となる。ただし、CR-V e:FCEVでは、環境に配慮したバイオ合皮をシートに採用し、サスティナブルな素材を盛り込んでいるところなどが異なる。さらに12個のBOSE高性能スピーカーも標準装備となる見込みだ。
また、大きな水素タンクを搭載するFCEVの場合、気になるのが居住性だろう。CR-V e:FCEVは、後席とラゲージスペースの下部に水素タンクを搭載しており、前席に関しては北米仕様のガソリン車/ハイブリッド車と同じシートポジションとなる。後席についても多少シートポジションは上がっているが、それでも十分なヘッドクリアランスが確保されていた。このあたりは、セダンではなく、背の高いSUVがベースなので空間を確保しやすいというメリットもあるだろう。
CR-V e:FCEVの後席(筆者撮影)
また、ラゲージスペースは、水素タンクがあるため、かなり制約を受けている印象で、大きな段差が生まれている。ただ、高さを変えられるフレキシブルボードをラゲージスペース後方に設定し、うまく段差を活用した設計が印象的だった。
CR-V e:FCEVのラゲージスペース。水素のタンクを搭載している関係で、大きな張り出しがある(筆者撮影)
例えば、フレキシブルボードを下段に設置すれば、十分な高さが確保できるので大きな荷物も積みやすい。また、フレキシブルボードを上段に設置した場合は、ベビーカーのような大きな荷物も載せられるという話だった。さらにフレキシブルボードを下段にすれば、トノカバーのようにもなるので下段の荷物の目隠しにも使える。
フレキシブルボードを上段に設置した状態(筆者撮影)
フレキシブルボードを上段に設置し、リアシートを倒した状態(筆者撮影)
また、リアシートは6:4分割で可倒式になり、シートを倒すことでフラットな荷室も作れるので長尺物も積みやすい。ちなみにフレキシブルボードは、かなり頑丈に作られているそうで、上段に設置すれば簡易ベッドとしても使えそうな雰囲気だった。後述するが、CR-V e:FCEVは給電も可能なので、最近流行りの車中泊仕様としても面白いベース車に感じた。後席を倒し、フレキシブルボードを上段に取り付ければ、比較的フラットなベッドキットのような形状になり、SUVながら大人が十分に横になれるスペースが生まれるし、下段に荷物も収納できて便利そうだ。
外部給電機能も充実
CHAdeMO方式のDC給電コネクターも備え、パワー エクスポーター e:6000/パワー エクスポーター 9000などの可搬型外部給電機の接続も可能(筆者撮影)
最後に外部給電機能だ。CR-V e:FCEVでは、車内の12V電源やUSB電源のほか、左フロントフェンダー部に普通充電と外部給電に対応したAC充給電口、ラゲージスペースに高出力外部給電に対応したDC給電口がある。
このうち、DC給電口に関しては、専用の外部給電機(パワー エクスポーター e:6000/パワー エクスポーター 9000)を接続して使用するため、一般向けというよりは野外イベントや災害時の電源としての活用を前提とした法人・自治体向けの機能となる。そのため詳しくは割愛するが、注目は外部給電に対応したAC充給電口だ。
専用の給電用コネクター「ホンダ パワーサプライコネクター」が標準装備(筆者撮影)
ホンダ パワーサプライコネクターを外部給電口に接続することで家電製品に電力を供給可能(筆者撮影)
この外部給電口は、プラグイン充電機能に加え、最大1500WのAC給電も可能。プラグイン充電については、日本およびアメリカにおける普通充電規格「SAE J1772」に対応し、自宅のACコンセントに接続することで手軽に車両の充電が可能だ。
また、専用の給電用コネクター「ホンダ パワーサプライコネクター」が標準装備され、手軽に家電製品を接続して使える点も利便性が高い。最大1500WのAC供給が可能なので、停電時やアウトドアなどのレジャーで力を発揮する。そのほか、キャンプで電気ケトルをつないでお湯を沸かしたり、外出先でパソコンをつないで仕事をしたり、スキーや海などの帰りにドライヤーをつないで髪を乾かしたり、DIYの際に電動工具をつないで作業したり、さまざまな使い方ができそうだ。
あらかじめ「給電下限水素残量設定」を行うことで、給電ですべての水素を使い切ってしまい、不動状態に陥ることを防げる(筆者撮影)
外部給電に関して、クラリティ フューエル セルも同様に可能だったが、CR-V e:FCEVでは残しておきたい水素残量を設定する「給電下限水素残量設定」といった機能が追加されている。例えば、キャンプ場で限界まで給電を使うと、水素残量が0になって身動きがとれなくなってしまう危険性がある。そういった状況を防ぐための機能だ。
日本で燃料電池車のみを設定した真意
CR-V e:FCEVの外観(筆者撮影)
自動車の電動化が叫ばれるようになって久しいが、最近ではBEVの課題も浮き彫りになっている。そんな中でいち早く、エンジンからの脱却を掲げた国内メーカーがホンダだ。2050年にホンダに関わるすべての製品と企業活動を通じてカーボンニュートラルの実現を目指し、製品だけではなく企業活動を含めたライフサイクルでも環境負荷ゼロの実現に向けて「カーボンニュートラル」「クリーンエネルギー」「リソースサーキュレーション」に取り組んでいる。
ただし、前述した課題もあり、BEVだけでは解決が難しい領域があるのも確か。そこでホンダは、2002年の「FCX」、2008年の「FCXクラリティ」、2016年のクラリティ フューエル セルと、長年水素技術やFCEVの研究・開発に取り組んできた実績がある。
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その技術構築の過程を経て、燃料電池車の量産技術の第一歩となるのが、今回のCR-V e:FCEVだ。そこで従来のような法人向けのセダンではなく、あえて身近なSUVをベースに選んだのだろう。BEVで課題になる走行可能距離を水素でカバーし、FCEVの課題である水素ステーションの少なさをプラグイン充電で補うという形は、非常に理にかなっているようにも感じた。ただし、今のところ利便性ではガソリン+外部充電のプラグインハイブリッド車に軍配があがるだろう。
ホンダは、2030年にハイブリッドを含めて100%電動化、2035年にEV/FCVの比率を80%、2040年に100%にする四輪車電動化を掲げている。そこで従来は法人中心だったFCEVを個人ユーザーも含めて普及させるため、日本国内ではガソリン車/ハイブリッド車の販売をせず、燃料電池車のみの販売を選択したのだろう。
とはいえ、現状では価格や詳細なスペックは不明なので、今後の情報についても注目したい。ちなみに発売は2024年夏を予定しているが、先行予約受付開始は2月29日となっている。
(三木宏章 : 東洋経済オンライン編集者・記者)