「殺される前に店を閉めました」 ラーメン店を脅迫した男性客に有罪、"丼ぶり爪楊枝500本"から「カスハラ」激化
ラーメン店に繰り返し電話をかけて「殺す」などと告げた男性が脅迫罪で罰金刑となっていたことがわかった。
被害を受けた茨城県水戸市のラーメン店「いっけんめ」の店主が、弁護士ドットコムニュースの取材に明かした。男性からは、ラーメンの丼ぶりに爪楊枝500本や大量のコショウを入れられるなどの迷惑行為も受けており、SNSで話題になっていた。
店主は「凶器で従業員や家族が刺される前に閉店を決めました。あの客には二度と関わってほしくありません」と振り返る。末期がんに侵された男性は、自暴自棄になって嫌がらせを繰り返したそうだ。店側は賠償も請求できないという。
被害の深刻化を恐れた店は、警察がなかなか動いてくれなかったこともあり、事件化される前に閉店を決断せざるをえなかった。(ニュース編集部:塚田賢慎)
●「罰金10万円」に見合わない被害を受けていた
水戸市の「中華そば いっけんめ」は、名古屋コーチンのスープで作る1杯500円のラーメンが人気を博している。
水戸簡裁は1月22日、店の客だった無職の高齢男性に罰金10万円の略式命令を下した。
有罪とされたとはいえ、罰金10万円。店側はその処分に見合わない被害を受けていた。どんなことをされてきたのか。店主に振り返ってもらった。
●閉店してようやく「被害届」が受理された
店は数年前から特定の迷惑客に目をつけられ、卑劣な嫌がらせを受けてきた。
一度目は2022年3月のことだ。男性がラーメンの丼ぶりに500本もの爪楊枝と大量のコショウをぶちまけ、店内の椅子も倒していった。
翌2023年3月、今度はこの男性が丼ぶりにコショウと酢を大量に注いで、店中に酢のツンとする匂いを撒き散らした。
このときは通報した警察に「次やれば説教では済まない」と釘を刺してもらったが、およそ1カ月後、店には1日十数回もの迷惑電話がかかり始めたという。
「家の固定電話から店の営業時間も時間外でもかけまくってきたんです。着信履歴はどんどん埋まっていく。電話攻撃が非通知じゃないのも怖い。電話に出ると『殺すぞ』と言われ、たまらず警察にまた相談しました」
「もしかしたら刺されるかもしれない」「人が殺されないと警察は動かないのか」
こうした悲痛な訴えにも、警察は「具体的な危害がなければ事件化できない」として被害届を受理しなかったという。
従業員らと話し合い、この男性が訪れていた店をすぐに閉店することを決めた。
「何らかの罰がない限り、うちへの迷惑行為は続くだろうし、過激化するんだろうと。殺人事件も起きかねない。採算の取れていた店でしたが、別の場所にある本店に一本化したんです」
すると今度は、本店に「店をぶっ壊す」「殺すぞ」と"電話攻撃"が始まった。
改めて警察に相談して、やっと被害届が受理された。
「警察が家宅捜索して身体を拘束する予定だったのですが、末期がんで余命宣告を受けているということから、体調面を考慮して在宅での捜査になりました。
がんなのに朝から酒をたくさん飲んで、酔った勢いのまま『自分には先がないから』と自暴自棄になってひどいことをしていたそうなんです。彼は私たちに謝罪させてほしいと言っていたようですが、それはまったく望んでない。もう一切関わり合いになりたくないです」
●最初は小さな嫌がらせから始まった
先のことはわからないが、今回の刑事処分によって、ひとまずは男性も落ち着くだろうと店主は安心している。
そもそもの攻撃の発端は「スタッフを2分おきに呼んで、単価の安いトッピングを頼み、結果として何も食べない」という嫌がらせから始まったという。
再度来店した男性のトッピングの注文を断った日に前出の「爪楊枝事件」が起きた。
男性は「あのとき断られて腹の虫が収まらず、爪楊枝を全部ぶっ込んで帰った」と取り調べで供述したという。
店側には何ら非のないことがわかる。これで目をつけられ、閉店という決断を選ばざるをえなかったとなれば、まったく割に合わないだろう。罰金10万円の有罪判決が見合うのかという疑問もある。
標的にした店を閉店させたという"成功体験"を通じて、別の店に対する犯罪につながらないかという懸念も考えられるところだ。
●店主「ビクビク怯えているよりは、閉店して日常を取り戻すほうが良かった」
実際、男性は他の店にも嫌がらせの電話やSNSで誹謗中傷をおこなっていたという。
「お店の人たちと話し合って、従業員と家族を優先することにしました。
火をつけられるかもしれない。刃物を持ってくるかもしれない。命を奪われたら買い替えられないけど、ものをぶっ壊されたら買い替えられる。お店もまた出せる。だったら閉めちゃうほうがいいね。目先の売り上げより後先を考えたほうが良い。
北海道のコンビニで殺人事件がありましたよね。うちは店舗がもう一つあったからスパッと閉められたという事情は確かにありました。ただ、脅迫に振り回されて本来の仕事ができずビクビクしているよりは、日常の自分たちでいられるほうがいいという結論に至りました。
引き際としては、ちょうどよかったのかなと思います。大きな揉め事にならなくてよかったし、スタッフが刺されて死んだりしなくてよかった。勉強になりました」
警察が動かず事件にならなければ、「ただのカスハラ」として終わっていた出来事かもしれない。それでも、事件化される前に一つの人気店が失われたことをどう捉えれば良いのだろうか。東京都では深刻化するカスハラの問題を受けて、全国初の防止条例を作ろうと検討している。