ラーメンをはじめとする中華そば(外食)の年間支出金額を可視化してみると、ある傾向が見えてきます(写真:jun/PIXTA)

昨今、ITを利用してさまざまなデータを集めることができます。しかし、データを漠然と見ていても、そこに隠された本質にたどりつくことは簡単ではありません。これを防ぐ1つの方法がデータの「可視化」です。可視化することで「思い込み」にとらわれていたことに気が付いたり、意外な事実を発見できたりすることがあります。ここでは、『ビジュアルでわかる日本』の著者である、「にゃんこそば」さんが、「ラーメン王国」を可視化してみました!

主要都市のラーメン(外食)年間支出金額

ラーメンをはじめとする中華そば(外食)の年間支出金額を可視化してみました(下図)。出典は総務省統計局が毎年実施している『家計調査』で、2013〜2022年の10年分の平均値。県庁所在地と政令指定都市に住む2人以上の世帯が調査対象です。


主な都市の1世帯あたり「中華そば(外食)」年間支出金額。南東北と新潟を中心に、ラーメンの外食文化が根付いていることがわかる

地図を眺めてみると、全体的に「東高西低」の傾向があるのがわかるでしょうか? そして目を引くのが東北地方。特に山形市では年間支出金額が全国平均の2倍を超え、2007年の統計開始以降、16年連続で2位以上を記録しています(うち14回は52都市中1位!)。

確かに山形県の酒田、米沢、福島県の喜多方、白河など、東北には人気のご当地ラーメンがありますが、ラーメンの有名な地方は他にもたくさんあるはず。どうしてこうなったのか……。これは深掘りしたくなるデータです!

まず、ラーメン屋の分布にどのような地域差があるのか、地図で見てみましょう。下図は、市区町村ごとに「昼間人口(※1)1万人あたりのラーメン店舗数」を示したものです。レストランなどの検索サービスを提供する「Yahoo! ローカルサーチAPI」の情報を使用しましたが、掲載されていないお店や、最新の情報が反映されていない場合もあります。そのため、個々の市区町村ではなく、地域全体の傾向に注目してください。
 


昼間人口1万人あたりのラーメン店舗数(市区町村別)。「Yahoo!ローカルサーチAPI」で業種「グルメ>ラーメン」を検索。北陸から東北地方にかけて、日本海側や内陸部を中心に、人口あたりのラーメン店舗数が多い

ラーメン屋の多い地域、少ない地域

上図を見ると、東北地方や新潟県が「赤く」色づいています。これは『家計調査』での支出額と同じ傾向です。県庁所在地と政令指定都市では山形市がトップ(1万人あたり4.3軒)。次いで、富山市、金沢市、青森市、盛岡市、秋田市など、東北、北陸の都市が上位を独占しています。

一方、博多&長浜ラーメンで有名な福岡市は20位、札幌市は25位。さらに40位以下に目を向けると、名古屋市、京都市、横浜市、大阪市、川崎市、さいたま市、神戸市、堺市など、三大都市圏の街が続いています。

首都圏や近畿圏、それに博多や札幌といった、ラーメンで有名な大都市では、繁華街を少し歩いただけでもラーメン屋がたくさん見つかるので、「あれ?」と思われた方も多いのではないでしょうか。これらの都市には確かにラーメン屋の激戦区がありますが、圏域全体として見ると、人口に対して店舗数が少なく、1世帯あたりの支出額もそれほど多くないのです。

改めて、近畿から東北あたりをクローズアップして「昼間人口1万人あたりのラーメン店舗数」を見てみます(下図)。新潟県の上越、中越から秋田県の南部にかけて密集したラーメン店を確認できます。喜多方や米沢、酒田など、ラーメンで有名な町の位置関係もおさらいできましたね。


昼間人口1万人あたりのラーメン店舗数(拡大版)。栃木、群馬、新潟の山間部から秋田県南部にかけて、ラーメン屋が非常に多い

なぜ「山形県」がラーメン王国になったのか?

東北地方の中でも「ラーメン王国」と言われる山形県では、県内ほぼすべての市町村が「真っ赤」に。その理由には諸説ありますが、「来客へのおもてなしとしてラーメンの出前を取るようになった結果、蕎麦屋でもラーメンを出すようになった」とか、「冬場の寒さから熱々のラーメンが、夏場の暑さから冷やしラーメンが好んで食べられるようになった」という説が一般的に支持されています(※2)。

このように、自然発生的にラーメン文化が根付いた山形県では、各地のご当地ラーメンに地場の食材がふんだんに使われ、非常にバラエティに富んでいます。

歴史的な経緯から庄内、最上、村山、置賜の4つの地域に分かれ、多様な食文化に恵まれた山形県。今回は紙面の都合で割愛しましたが、県内のご当地ラーメンの勢力図を可視化できると、各エリアの食や農業の歴史を垣間見ることができるかもしれません。現地を旅しながらトライされてみてはいかがでしょうか?

「食文化」を地図から見てみた

下図は「あるジャンル」の飲食店の数(昼間人口1万人あたり店舗数)を可視化したものです。中国地方から近畿地方にかけて「赤い」地域が広がっていますが、いったい何のお店でしょうか……?


昼間人口1万人あたりの「お好み焼、たこ焼き店」の店舗数。粉ものは、瀬戸内や近畿が誇る食文化

答えは「お好み焼とたこ焼き」、いわゆる「粉もの」のお店です。お好み焼きは広島風と関西風が有名ですが、豚バラ肉の代わりに豚ひき肉を使ったもの(広島県府中市)、ちくわや牛肉など具材に特徴のある「三津浜焼き」(愛媛県松山市)など、ご当地オリジナルの進化系も見ることができます。

山形県のバラエティ豊かなご当地ラーメン
・とりもつラーメン(新庄市):鶏のもつ煮が特徴。
・酒田のラーメン(酒田市):日本海の海の幸を活かした魚介系スープが特徴。
・冷やしラーメン(山形市):夏の暑い気候から生まれたご当地ラーメン。
・赤湯ラーメン(南陽市):味噌ベースのスープと辛味噌で体が温まる。
・米沢ラーメン(米沢市):米沢牛や米沢豚などの地元産の肉を使っている。

※1:昼間人口にはさまざまな定義がありますが、ここでは携帯電話等の匿名位置情報から推定した2021年11月、平日昼間の市区町村別滞在者数を使用。出典は国土交通省『全国の人流オープンデータ』

※2:『地域再生計画 日本一の麺文化を活用した地域活性化事業』


(にゃんこそば : データ可視化職人)