「スト6」に学ぶ対人関係の駆け引きとメタバースの数少ない成功事例
超大作が立て続けに発表された2023年ゲーム業界。普段ゲームをしていない人、する時間がない人でも、「これだけはプレイしておいた方がイイ!」と筆者が強くオススメしたい一作こそ「ストリートファイター6」です。
同作は、かつて対戦格闘ゲームブームを生み出し、対戦格闘ゲームというジャンルを根付かせた歴史的ゲーム「ストリートファイター」シリーズの最新作。もちろん同作も対戦格闘ゲームとして作られているのですが、対戦格闘ゲームファンならずとも……いや、ゲームに興味がなくとも、ビジネスに関わる人間であれば誰もが注目すべき要素が盛り込まれています。
ゲームを取り巻く環境そのものをゲーム内に取り込んだ「バトルハブ」
ジャンル名に含まれた「対戦」という言葉が示す通り、対戦格闘ゲームは他プレイヤーと対戦することが前提。このため、「勝ち負け」というかたちで実力差がはっきり示されるという特徴を持っています。だからこそ「eスポーツ」としても成立するのですが、一方で、ゲームをプレイする人すべてがシビアに勝ち負けを楽しむわけではありません。
たとえば野球においても、プロは勝ち負けをシビアに追求しますが、レクリエーションとして楽しむ人たちだっています。ただこれまでの対戦格闘ゲームは、勝ち負けをシビアに追求するという側面に強くフォーカスが当たっていました。
これに対し本作は、一人で楽しめる「ワールドツアー」や、他プレイヤーと触れ合える仮想空間「バトルハブ」といったモードを用意。特に注目すべきモードがバトルハブです。
バトルハブは、ゲーム内に作られた仮想ゲームセンターであり、本作の対戦以外にも、開発元のカプコンが過去にゲームセンター向けに提供していたレトロゲームがプレイ可能。
さらに、ゲーム大会や、狩野英孝氏をはじめとした有名配信者とゲームを楽しめるイベントなどといったものまで実施されています。つまり本作は、ゲームという娯楽商品の範疇に留まるものではなく、「ゲームセンター」や「ゲーム大会」「ゲームコミュニティ」といった、ゲームをとりまく環境そのものを取り込んだ巨大サービスといえるでしょう。
単純に「おもしろいゲーム」ならいくつもありますが、サービスとしてここまでのスケールを持つものはそう多くありません。また、仮想空間……いわゆる「メタバース」の一事例としても注目度が高いです。
メタバース的なコンテンツは多数生まれていますが、成功しているものはさほど多くありません。その中で本作のバトルハブは継続的に人を集め、実施しているイベントも成功を収めています。つまり本作のバトルハブは、メタバースの成功事例のひとつといえるでしょう。
「対人的な駆け引き」が集約された対戦格闘ゲームの最新事例
一方、本作を「対戦格闘ゲーム」という観点から見た場合でも、プレイすべき価値が存在します。それは、「対人的な駆け引き」が集約されている点。対戦ゲームであれば、基本的に対人的な駆け引きが盛り込まれていますが、中でも対戦格闘ゲームは運の影響が少ないため、それが強く勝敗に影響します。
対戦格闘ゲーム未経験だと、ルールや操作に難しいイメージがあるかもしれません。しかし、本作はシンプルに操作できる「モダン操作」が用意されており、「コマンド」と呼ばれる複雑な操作を学ぶことなく楽しめます。
また、ルールも基本的には「ジャンケン」の延長。打撃技にはガード、ガードには投げ、投げには打撃技……というかたちで、ゲーム内の行動はジャンケンにおける「グー・チョキ・パー」のような「3すくみ」となっています。つまり、相手が選択した行動より強い行動を選べばOK。
さっき「運の影響が少ない」と書いたのに、「ジャンケンだなんて、運そのものじゃないか!」と思わせたかもしれません。しかし対戦格闘ゲームはジャンケンと違い、同時に行動しなければならないわけではありません。自分は行動を選ばず様子を見守り、敵が攻撃してきたらガード……といった後出しが可能なわけです。
だったら、誰もが後出しを狙うのではないか? ……それがそうでもありません。ここに対人的な駆け引きが加わってくるのです。たとえば、相手に投げを決めるためには、相手のそばまで接近しなければなりません。これを相手目線から見ると、「相手が接近してきたということは、投げを狙っているんだな」となります。投げに有効なのは打撃技……でしたよね。
ということは、あえて接近することで相手に打撃技を出させ、その隙に別の攻撃を当てる……といったことができるかもしれません。つまりは心理戦――対人的な駆け引き。
相手の立場になって、相手の出方を見る……こうした「駆け引き」の技術は、ビジネスの現場でも有効です。そもそも昔から、仕事にも活用するという前提で「将棋」や「囲碁」、「麻雀」といったゲームを嗜む人たちは一定数存在しました。本作は、ある意味、その最新事例といっていいでしょう。
最新技術の結晶という意味でも「プレイする価値アリ!」な一作
仮想空間を作り上げる3D技術、多人数でコミュニケーションを行ったりイベントを実施したりといったインターネットサービスとしての設計、そして何より、対人的な駆け引きを最大限盛り上げるためのゲーム設計。こうした要素を最新のグラフィック技術で表現した本作は、最新技術に触れるという点でも「プレイする価値アリ!」。ぜひ旬である今のうちに……というわけで、2023年最もイチオシなゲームタイトルといえます。
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