Tempterのクラシカルな一途さがいかにもスズキ!【このバイクに注目】(このバイクに注目)
スズキは1997年に、400cc空冷SOHC4バルブ単気筒のビンテージ・テイストのスポーツバイク、TEMPTER(テンプター)をデビューさせた。
特徴的な直立した大きなシリンダーとシリンダーヘッド。
太いエキゾーストが800ccシングルをイメージさせるほどボリューム感に溢れている。
この直立したシリンダーのシングルは、1986年のLS650、翌年にLS400というアメリカンが搭載していたエンジンがベース。
スズキはアメリカンのカテゴリーに早くからVツインを投入してきたが、その選択肢を拡げる狙いでシングルもラインナップへ加えていた。
このLS650/400は、アメリカンとしてのデザイン・アピールで直立したシリンダーを強調。
エンジンを目立たせるコーディネイトで、オリジナリティの強さで他との違いを意識させていた。
またスズキは元々オフロードモデルに強く、そこで使われる単気筒エンジンも、パリダカールを制覇した仕様のDR750Sを1988年に、さらに1990年にはDR800Sへと進化、ビッググシングルを得意とするイメージ獲得に成功していた。
ご覧のように、いま人気のVストロームに通ずるフォルムで、いわゆるDR-BIGと呼ばれた進化系がここから勢いを増していったのだ。
このビッグシングル、ビッグVツインに早くから取り組んできたノウハウは、ビンテージなカテゴリーでも趣味性の高いシングルスポーツへと活かされることになった。
大きくそそり立つ単気筒シリンダーは、いかにもロングストロークに見えるが、実はボア×ストロークが88×65.2mmとショートスストローク。
しかし、この仕様で鼓動感やトラクションがスムーズ且つパンチ力をもっていて、いわゆるクラシカルなもったりとした鈍さはない。
396ccで4バルブ、27ps/7,000rpmと最大トルクが3kgm/5,000rpm。いうまでもなく中速域が楽しめるキャラクターだ。
乾燥重量が159kgと軽くまとまるため、走りは意外なほど軽快。
この直立した大きなシリンダーは、英国ビンテージバイクを継承するイメージであるのと、呼応してフレームもセミダブルクレードルながら、後部が湾曲するいかにもクラブマンレーサーを彷彿とさせるレイアウトとなっている。
さらに驚かせるのがそのブレーキ。フロントにドラム式、しかもツーリーディングの2カム形式を両側に持つ、'60年代のレーシングマシンと同じ両面パネルなのだ。
つまり左側から見ても、右側と同じツーリーディング・パネルがあって、ブレーキシューが内部で4片作動する凝ったつくりのスペシャル・バージョンだ。
しかし実際のマーケットでは、1978年から続くヤマハSRの牙城を切り崩すことはできず、2000年で生産を終了する短命モデルだった。
しかし、いまあらためて見るとシリンダーがそそり立つエンジンのカタチ、全体のフォルムがいかにもオートバイらしいシンプルな良さで包まれている。
とりわけエンジンの美しさは、これで再デビューしないかと期待したくなるほど独得な感性が漂う。
スタンダードなモデルでも、スポーツバイクには魅力として個性が不可欠と思わせる典型的な例だろう。
こうしたマイノリティなモデルを躊躇なく投入するスズキに、熱球的な信者(ファン)が多いのも頷けるというものだ。