カットの方法によっても食感がかなり違うポテトチップス。そのこだわりの現在を追いました。写真左から「ギザギザ」「ポテトチップス」「ポテトデラックス」(写真:筆者撮影)

ポテトチップスのバリエーション拡大が止まらない。スナックコーナーの陳列棚をちょっと観察してみれば、ひと昔前と様変わりしていることに驚く。

カルビー、湖池屋などの大手はもちろんのこと、コンビニやスーパーのプライベートブランドも増え、地域限定商品まで含めれば途方もない数だ。ジャガイモを薄く切ったスライスタイプだけを見てみても、フレーバー、厚さ、形、産地に品種。消費者からすると違いがよく判別できないほどの百花繚乱状態になっている。

事実、ポテトチップスはただ種類が増えているだけではなく、市場自体も拡大している。2022年のポテトチップス(スライスタイプ)の出荷実績は、9万2850トン、1132億円。この10年間でそれぞれ112%、122%増と成長し続けているのだ(日本スナック・シリアルフーズ協会調べ)。

たかがポテトチップス、されどポテトチップス。フレーバーの多様化にばかりついつい目が行きがちだが、やはりポテトチップスは原料であるジャガイモこそが命。この部分の最新事情を調べに、まずはカルビー本社に向かった。

味付け以前のこだわりはどこにある?

ジャガイモは、ほぼ水とでんぷんだけでできている。それをスライスして揚げてしまったら、フレーバー以外で差をつけるのは難しいはずだ。

厚さや形の違いは、いったいどれだけ消費者にとっての“価値”に結びついているのだろう。メーカー都合で、ただ目先を変えているだけだったりはしないのだろうか、という疑念すら持ってしまう。

対応してくれたのは、ポテトチップスチームブランドマネジャーの井上真里さん。井上さんの担当商品は、超定番「ポテトチップス」と「ア・ラ・ポテト」などだ。

「カルビーでは、2019年に食感バリエーションを打ち出しました。食のシーンが多様化するなかで、ポテトチップスに対するお客様のニーズも細分化して広がってきたからです」(井上さん)


こんなにもある食感バリエーション。現在販売していない商品も含む(画像提供:カルビー)

カルビーではポテトチップスだけでも約10種類の形状があり、それぞれの食感について公開している。

「平らにスライスしたフラットカットは、口に入れた瞬間に味を感じられてあと切れがよいのが特徴です。厚さは厚いほうが芋の味をより感じられます。また、かみしめる回数が多くなりますから、食べたという満足感も高まります。さらに断面がギザギザのV字カットでは、くぼみに味が残るために、最後までしっかり味を感じられるようになっています。定性調査でも、お客様が気分で商品を買い分けていらっしゃる傾向があることがわかっています」(井上さん)

たとえば同じ塩味だったとしても、フラットカットの場合はすぐに感じられてすぐに消えるように、V字カットであれば最後まで持続する味つけになっているという。

なるほど、同じフレーバー名やよく似た名称でも、異なる味覚設計があったのだ。たしかに、お腹がすいていると無意識に厚切りを選んでいたり、お酒のつまみには「堅あげポテト」を選んでしまっていたりする。

全体としては、いまは厚切りタイプの人気が高まっているのだそうだ。

新じゃがに対するこだわり

近年は、「新じゃが使用」を前面に打ち出すポテトチップスもよく見かける。新米、新じゃが、新たまねぎ。「新」とついただけで、なぜだかずっとおいしいもののような気になる食材がある。

が、料理ならともかく、ポテトチップスで新じゃがのおいしさを伝えることなど可能なのだろうか。

井上さんはこう解説する。


秋限定の『ア・ラ・ポテト』(写真提供:カルビー)

「カルビーでは秋限定の『ア・ラ・ポテト』が、新じゃがのみを使った商品になります。形は『ギザギザ』と同じ厚切りV字カットなのですが、北海道産の収穫したてのジャガイモを使っており、特別にてんさい糖を加えることで新じゃがらしさを感じられる味つけにしています」

北海道を意識させる3つのフレーバーのうち、一番気になるのは「羅臼昆布しょうゆ味」だ。なぜかこの商品のみ、「ぽろしり限定使用」「日本を愉しむ!」と表示されている。実はこんなところにも、カルビーのこだわりが詰め込まれている。

カルビーのポテトチップス最大の特徴は、自社グループで開発したオリジナル品種も原料に採用している点だ。「ぽろしり」もそのひとつ。

「カルビーでは、ジャガイモを種イモから生産し、さらに品種開発までしています。どちらも独自の取り組みです。このように『ぽろしり限定使用』や『日本を愉しむ!』を打ち出すことで、『ぽろしりって何?』『なぜ日本を?』という興味から、ジャガイモがどこでどのように作られているかにも関心を持っていただけたらと」(井上さん)

ジャガイモの生産調達専門会社カルビーポテト

カルビーグループが使う国産ジャガイモの調達量は約35万2000トン。国内生産量の約18%にも及ぶ。

そのカルビー向けにジャガイモを調達している会社が、カルビーポテトだ。カルビーの原料部門が分離独立してできた歴史がある。そのカルビーポテトの本社と馬鈴薯研究所は、日本一のジャガイモ産地である帯広市にあり、「ぽろしり」もここで開発された。

オリジナル品種「ぽろしり」育成の舞台裏と、原料に対するこだわりをさらに探るために、筆者は北海道に飛んだ。


五十嵐さん(写真提供:カルビーポテト)

出迎えてくれたのは、品種開発課課長の五十嵐俊哉さん。五十嵐さんは「ぽろしり」育成者のひとりでもある。

筆者が取材したのは、北海道産ジャガイモの収穫終盤。オリジナル品種の開発について聞く前に、近くのジャガイモ専用貯蔵施設を案内してもらった。


広大なじゃがいもの畑 (画像:Kei1962 / PIXTA)

北海道の畑は広大だ。農家一戸あたりの栽培面積は、日本の他の地域の平均と比べれば約10倍。まさに桁違いという言葉がふさわしい。


荷下ろしの場面もダイナミックだ(写真提供:カルビーポテト)

ジャガイモ専用の収穫機に選別機、輸送用のトレーラーまですべてがビッグサイズ。これらがフル稼働し、満載のジャガイモが次から次へと貯蔵施設に集まってくる。7棟ある貯蔵庫の容量は約4万トン。貯蔵室は全42室あり、1室の容量はコンテナで750トン、バラ積みで1500トンにもなる。最盛期には1日で2000トンを受け入れる日もあるそうだ。

カルビーポテトでは同規模の貯蔵庫を道内に約40棟保有しており、北海道産については翌年の6月までカルビー工場への出荷が続く。

ひそかに開発されていた逆張りの貯蔵技術

温度と湿度が完全制御されている貯蔵室は、バスケットボールコートよりも広い。これが天井近く約5メートルの高さまでジャガイモで満たされている。室内は常時暗黒。担当者は基本的にヘッドライトの明かりだけを頼りに作業する。これも緑化による芋の品質低下を防ぐためだ。


貯蔵室(写真提供:カルビーポテト)

最近の冷蔵庫の野菜室には、葉物類の鮮度保持のためにLEDが点灯する機能がついている。冷蔵庫でジャガイモを保存する際には、家でも緑化を防ぐために新聞紙などで包んだほうがよい。

生のジャガイモは生きている。いくら温度と湿度をコントロールしても、芋自体の変化を止めることはできない。保存期間が長くなればなるほど、果肉は柔らかくなるし糖度は高まっていく。芽の伸びも止め切ることはできない。温度を下げれば芽は伸びにくくなるのだが、そうすると糖分が早く増してしまう。

糖度が高まれば甘みが増すのだから、悪い話ではないように感じる。だが、ポテトチップスにとって一定レベル以上の糖度は、焦げの原因になり、あのおいしそうな揚げ色に仕上げられなくなるのだ。

青果であれば甘いジャガイモは誰にでも歓迎されるため、実際に糖度を高める取り組みもされている。ところがポテトチップス用では、ひそかにまったく逆の貯蔵管理技術が開発されていた。

エチレンは植物自体が放出するガス状の植物ホルモンだ。老化ホルモンとも呼ばれ、緑色のバナナを黄色くさせる際に用いられている。当然、野菜や果物の鮮度を保ちたければ、エチレンは少なければ少ないほどよい。

ところがポテトチップス用のジャガイモでは、あえて貯蔵庫内にこのエチレンガスを行き渡らせていたのだ。

「収穫したジャガイモは一定期間を過ぎると芽が伸びてきます。したがって貯蔵期間が長くなったジャガイモは品質低下を起こしやすいのです。老化を進めてしまうエチレンガスをあえて使うのは、発芽を抑える効果のほうを期待してのことです」(五十嵐さん)

芽が伸びにくくなったとしても、逆に糖度の上昇が進んでしまいはしないのだろうか。

「エチレンガス濃度と温度と湿度のバランスで、糖度の上昇を抑えつつ、発芽も抑え、エネルギーコストも増やさない条件を発見できたのです。これによって周年高品質なジャガイモを供給できるようになりました」(五十嵐さん)

「ぽろしり」開発秘話

かつて日本の栽培環境に合うポテトチップス用の品種は存在しなかった。これは自社だけではなく、契約生産者にとっての経営リスクでもある。だったら自分たちで開発しよう。カルビーポテトが自ら品種育成に乗り出したのは自然な流れだった。

2003年に開発をスタートさせ、2013年に生まれたのが「ぽろしり」だ。


左が男爵、右がぽろしり(写真提供:カルビーポテト)

「『ぽろしり』はフライにしたときの色の美しさが特徴です。病虫害に対する抵抗性を持たせたうえに芋にキズがつきにくく改良したため、現在の主力品種よりも優れています」

と五十嵐さん。

「ただでさえ農家の数が減っていくなかで、北海道ではジャガイモから、より手間のかからない小麦や大豆に切り替える生産者が増えています。そのためにも儲かる新品種を早く提供しなければなりません」(五十嵐さん)

「ぽろしり」の道内での作付面積は、2018年と比較して2022年には約2倍に増えたそうだが、品種開発は決して順調に進んだわけではなかった。

「『ぽろしり』は2度も商品化を断念されそうになった品種なのです。他に優れた候補があったためなのですが、ある天候不順の年に『ぽろしり』だけが品質低下を起こさないことがわかり、繰り上げで新品種になりました」(五十嵐さん)

どこまでも契約生産者と2人3脚で

基本的に農協は通さずに、契約生産者からジャガイモを購入するのは、カルビーポテト独自の取り組みだ。これもジャガイモの品質へのこだわりから始まった。

「契約生産者が安心して栽培できる新品種を開発することのほかに、弊社ではフィールドマンを約50名抱えて品質向上と収量増に取り組んでいます。フィールドマンは、生産者と2人3脚で進むアドバイザー的存在です。弊社では、過去のデータから直近のデータまでを一元管理していて、全員がどこからでもすぐに確認できますから、皆さん頼りにしてくださっています」(五十嵐さん)

ジャガイモの品種改良をしたかった五十嵐さんは、すぐにやりたい仕事に就けたわけではない。入社後2年間はフィールドマンだった。数多くの生産者、異なる環境の多くの畑で見てきた取り扱い品種が、時として契約生産者を苦しめる怖さを身に染みてわかっている。

契約生産者との2人3脚は、開発者を独りよがりにしない効果もありそうだ。

「私は『ぽろしり』の後にも新品種を出しているのですが、加工適性は抜群なものの、商品化後に栽培面での欠点が見つかってしまいまして。この時は自らお詫びと調査に回りました」(五十嵐さん)


パッケージの裏側にある「じゃがいも丸ごと!プロフィール」(画像提供:カルビー)

カルビーのポテトチップスは一部商品のパッケージの裏面に「じゃがいも丸ごと!プロフィール」という2次元コードが記載してある。ここを読み取ると、その商品に使われたジャガイモの産地、生産者、品種、製造工場について知ることができる。これがなかなか面白い。

同じ商品であっても、時期によってこの情報は変わる。消費者と生産者の距離を近づける新たな食文化として広まっていってほしいものだ。

最後に五十嵐さんに、いち推しのポテトチップスを聞いてみた。

「『ア・ラ・ポテト』ですね。私にはとれたてジャガイモのおいしさが一番しっかり感じられる商品ですので」

たくさんあるポテトチップスにはそれぞれ意味がある。おやつに、おつまみに、パッケージを眺めながら食べ比べてみれば、新しい楽しみ方が見つかりそうだ。

(竹下 大学 : 品種ナビゲーター)