普段言葉を使い分けて話していますか?(写真: Graphs / PIXT)

「目的」と「目標」。「信頼」と「信用」。みなさんはこれらの言葉の違いを理解し、使い分けながら話していますか。こうした語彙力を高めることは、受験でもビジネスでも役に立ちます。偏差値35から東大に合格し、「ドラゴン桜」の編集担当としても活動する現役東大生の西岡壱誠氏も、頭のいい人とそうでない人の差は語彙力に現れると述べています。今回は、『東大生と学ぶ語彙力』を上梓した、西岡壱誠氏が語彙力の高め方を紹介します。

みなさんは、語彙力はあるほうですか?

私たちは日夜、東大生たちの頭のよさを研究していますが、そんな私たちの結論として、頭のいい人は「語彙力」が高いと考えています。今回の記事では、なぜそう言い切れるのか、どんな語彙力が必要なのかについて、みなさんに共有したいと思います。

「目的」と「目標」は意味が異なる

突然ですが、みなさんは「目的」と「目標」の言葉の違いを知っていますか?

おそらく多くの人は、両方とも同じように「ゴール」的な意味で使っていると思うのですが、実は明確な使い分けがあります。

目的は「最終的に成し遂げたいこと」で、目標は「その目的を達成するための指標」のことを指します。

英語で言うとわかりやすいかもしれません。目的は英語で言えば「goal」または「purpose」のことです。「こんなことがしたい」という最終的なゴールが目的だと言えます。「お金持ちになる」とか「英語がペラペラになる」とかが当てはまりますね。

目標は英語で言えば「target」です。目的にたどり着くために立てる中間の指標や、行動・数字のことを指します。

例えば「お金持ちになるために、こういう企業に入社する」とか「英語がペラペラになるために、英単語を2000個覚える」というようなことを指します。

「目的」「目標」の違い以外にも、使い分けが必要な言葉はたくさんあります。

日本語を使うことに不自由がない、という人でも、「信頼」と「信用」という言葉を使い分けて使っている人は稀でしょう。「食料」と「食糧」、「偏在」と「遍在」のように、読み方が同じでも意味が異なる言葉もありますが、間違って使っている人も多いです。

言葉を混同すると、さまざまな影響も

微妙に意味が異なっている言葉を、しっかりと使い分けて使っている人とそうでない人で分かれるのです。

そして、言葉というのは不思議なもので、ただ言葉としてこの違いを理解していないというだけで、いろんなところで少しずつ差が出てきてしまいます。

例えば、この「目的」と「目標」を混同している人は、勉強していても、仕事をしていても、結果が出にくくなることがあります。

「今日の勉強の目的は?」と聞いたときに、「宿題を終わらせること」と答える子って多いですよね。でもこれって、「目標」であって「目的」ではありません。

「その宿題を終わらせることで、どうなりたいのか」まで考えていないと、目的がない勉強をしてしまうことになります。

「この分野の問題が解けるようになる」「昨日習った分野の復習をする」というような目的を考えられている人のほうが、成績は上がりやすいのです。

「目的」と「目標」を混同しているだけで、目的の概念が自分の頭から抜け落ちてしまい、結果につながらない努力をしてしまうことがあるのです。

これを知っているからか、東大の先生たちも、言葉の使い分けにはとても厳しいです。大学の授業でも「地方経済についての話をしますが、まずは地方という言葉の定義からしましょう」と始まることが多いです。論文でも使い分けはとても厳しくチェックされます。

例えば、こんな話もあります。東大は数年前から推薦入試を課しており、そこでは東大の先生が受験生と面接して「彼/彼女を、東大に合格させるべきか否か」を判断しています。

その中で、とある女の子がプレゼンの中で「子どもの自己肯定感を育めるような教育が必要だ」ということを語ったそうです。

質問もある程度事前に想定されていたとおりのものが来て、うまくこなすことができたそうなのですが、後半に入ってからの先生からの予想外の質問に驚愕したのだそうです。

「あなたはプレゼンの中で、『自己肯定感』という言葉を使っていましたが、その言葉が一般的に認知されている言葉の定義と、違う部分があるかもしれないと考えたことはありますか?」

20個以上質問を想定していた彼女でも、この質問は完全にノーマークだったそうです。確かに言われてみると、「自信」という意味で「自己肯定感」という言葉を使う人もいれば、「前向き」という意味で使う人もいるでしょう。

もしその人が「自信」という言葉と同義で「自己肯定感」という言葉を使っているとしたら、「自信と関係ない意味の自己肯定感」を見落としてしまう危険性があるわけです。ですから、その人の考えの甘さを指摘するために、「自己肯定感」という言葉の定義をどう捉えているか聞いたわけですね。

言葉を分けて使えない=理解できていない

言葉を「分けて」使うことができていないというのは、その概念を「わかって」いないということと同義なのです。ちなみに、「わかる」という言葉と「分ける」という言葉が似ているのは偶然ではなく、もともと「わかる」という言葉の語源は「分ける」であるという説があります。「わかる」は、「分ける」なのです。

ですから、言葉の使い分けをできるくらいまで、語彙力を身につけることが大切です。

語彙力を高めるためには、普段使っている何気ない言葉の使い分けを意識しながら生活するのです。

例えば、スーパーに行って「食料品コーナー」を見たら、「食糧と食料ってどう違うんだろう?」とぼんやり想像してみるのです。そして、ネットでいいので、調べてみましょう。スマホを使えば一発です。

ちなみに「食糧」は「主食の食べ物」のことを言い、より幅広く食べ物全般のことを指す場合は「食料」と言います。

「食糧」の「糧」は、「かて」と読みます。「かて」とは、つまり生きていくうえで必須のもの、という意味合いがあります。

生きる「糧」になる、これがないと人間が生きていけない、というような食べ物のことだから、「食糧」と書くのです。そのため、「食糧」と呼ぶときには、お米や小麦などの主食に対して使われます。

逆に、食料はもっと広く、「食べるもの」という意味です。スーパーの食べ物コーナーを「食料品売り場」と言いますよね。

主食以外のものも含めて「食料品」なので、お肉でも魚でも野菜でも果物でも、なんでも食料品として売っています。

ニュースへの理解度も高まる


「食糧」と「食料」は、主食かどうかで決まるわけですね。

逆に「食糧品コーナー」と書いてあったら、「主食であるお米とか小麦とかしか売っていない場所」という意味になります。(まあ、そんな場所はほとんど存在しないと思いますが……)

これらを、普段の日常生活から意識できている人であれば、ニュースなどで「A国が食糧難」だと書いてあったときに、「ああ、A国では主食が足りていないんだな」と理解度が一気に上がるわけです。

いかがでしょうか? 語彙力は頭のよさを作る源泉だと言っていいと思います。これを機に、みなさんもぜひ身につけてみてください。

(西岡 壱誠 : 現役東大生・ドラゴン桜2編集担当)