リアルに通いたい港区鮨の新店3選!大人の日常使いにちょうどいい店
予約困難な高級店がひしめく、“鮨バブル”のメッカといえば港区。
そんなイメージが先行するが、中にはまだ予約しやすく、価格設定のこなれた新店も誕生している。
今回は、そんな大人の日常使いにちょうどいい3軒をご紹介!
1.他店とは一線を画した店主の強すぎる“魚愛”を嗜む
『鮨 にし岡』@高輪
前店と同様、黒を基調としたスタイリッシュな店内。ひと際目を引くのは、砂紋を描いた正面の左官壁だ。まるで舞台を観るような高揚感を与えてくれる
魚への一途な想いが高じて一念発起。20代で鮨の世界へと飛び込んだ店主が握る渾身の握りは、独自の手法や目利きが随所に光る。
長閑な住宅街から港区へと居を移した第二章から目が離せない。
◆
「子どもの頃から釣りが好きで、魚を扱う仕事に就きたかった」
そう語る『鮨 にし岡』の店主・西岡洋介さんは、建築業から和食、そして鮨職人へと転身した異色の経歴の持ち主。“好きこそものの上手なれ”を体現するように、鮨店での修業は長くないが日々研鑽に励み、弱冠25歳で独立。
経堂の隠れ家的立地ながらすぐに鮨好きたちの評判を集め、今年6月には高輪へと移転し、さらなる高みを目指している。
駅前の喧騒を忘れさせるマンションの一室で、ユニークな鮨に心奪われる
ほぼ独学だからこその自由な発想、魚体の個性を見極めた緻密なアプローチから生み出される握りは、どれも説得力のある美味しさだ。
塊のまま乾燥させる!
例えばまぐろの熟成。
表面が酸化しないよう真空にして水分を取り、乾燥させて寝かせる手法はまさにオリジナル。
真空状態で熟成する「大トロ」。
この日は、青森・大間で揚がった146kgの本まぐろ。最高級部位“腹上一番”を仕入れ、霜降りの「大トロ」は3〜5日ほど寝かせて握る。
鮨ダネとして珍しい「シブダイ」。和歌山でとれた「シブダイ」は幻の高級魚。白身ながら脂のりが良く、噛むごとに旨みが広がる。2週間ほど寝かせて使用
その他、鮨店では滅多にお目に掛かれないシブダイなども「脂のりが気に入って」と積極的に仕入れる。
塩当て&火入れする「本ミル貝」。
「本ミル貝」は愛知県産。塩を当てたあと、さっと茹でて甘みを引き出す。
すべてコース(25,300円)より。
和食出身の技が光るつまみの質にも驚く!
「胃に優しく温かいものを」との配慮から「松茸のお粥」を提供することも。
粥といっても、米を炊いているのではなく、酢飯にまぐろだしをかけ、スライスした松茸をあしらっている。
大規模な再開発工事が進む、高輪ゲートウェイ駅の真向かい。大通り沿いにもかかわらず、マンションの地下にひっそりと店を構え、お忍び感も十分だ
柔和な表情の奥に魚へのあふれる情熱を宿した、若き店主による握りを堪能したい。
【Taisho's Profile】
現在28歳の西岡さん。「魚に触れている時が一番幸せ」という、自他ともに認める“魚オタク”だ。
魚は豊洲だけでなく全国から直接仕入れるものも多く、休日には漁港巡りも欠かさない。
■店舗概要
店名:鮨 にし岡
住所:港区高輪2-14-17 グレイス高輪 B102
TEL:050-3091-0909
営業時間:18:30〜 ※一斉スタート
定休日:不定休
席数:カウンター6席
2.港区に現れたもうひとつの“利粼”で、本店譲りのコースをコスパよく!
『鮨利粼 西麻布』@西麻布
檜の一枚板を使用したL字型カウンター。照明はグッと絞られ、BGMのジャズが流れる。ゆったりと寛ぎながら会話を楽しめるので、デートにも最適だ
予約が取れない奥渋の名店による新拠点だから見逃せない
3年前にオープンした青山店からほど近い場所に、港区での“2号店”として誕生した『鮨利粼 西麻布』。
本店で二番手を務めた大将が腕を振るう店内では、“食べて飲んで約2万円”というコスパに満たされる。
ムードあふれる空間と価格を凌駕するクオリティに、ふたりの酔いも深まる
本店と仕入れは同じながら、メニューや構成は大将の裁量如何。それゆえ、グループ各店に個性が生まれている「鮨利粼」。
西麻布店のカウンターに立つ塩谷直貴さんもまた、京都の老舗料亭『菊乃井 本店』での修業経験を生かし、旬の食材を用いたつまみで移ろう季節を表現。
1万5,000円とコスパ抜群のコースでは、8品のつまみを握り11〜12貫の間に織り交ぜて緩急をつけている。
鮨は江戸前を基本に、お酢と米、煮切りは本店と同じ配合。タネに応じた丁寧な仕事が光る。
肝醤油の香ばしさと、身から出た脂の甘みが食欲をそそる「秋刀魚の肝醤油焼き」。
クラシックな仕事が光る「春小鯛の黄身酢おぼろ」。
「小肌」は複数の酢や塩を配合した酢飯との相性が抜群。
皮目に直接備長炭を当て、炭の香りを纏わせた「黒むつ」。
皮目を香ばしく炙る!
まぐろの仕入れは老舗仲卸『樋長』から。この日の「大トロ」は青森・大間産。
昆布だしが染み渡る「のどぐろの酒蒸し」は、和の技法が凝縮されたひと皿だ
カウンター越しに大将と向き合う時間は、緊張を強いられることもあるが、どこかおっとりした塩谷さんにはそういった空気が一切なく、女性の常連客も多い。
老舗ワインバー仕込みのワインの目利きにも唸る!
“利粼”の前には西麻布『ツバキ』でワインを学んだ塩谷さん。
「ボーヌ・ブラン モンターニュ」、「シャサーニュ・モンラッシェ」などセレクトも秀逸。グラスは常時3種 1,000円〜。
西麻布交差点から約2分。外苑西通り沿いで、螺旋階段のあるビル1階の大ぶりな表札が目印だ。同じ通りを外苑前方面に約5分歩くと、青山店が現れる
青山店で予約が取れなければ徒歩圏内の同店へ、という流れも確立し、ハイエンドな本店やよりカジュアルな恵比寿店を含めた各店を、臨機応変に使い分けることも可能。
店とゲストにとって、嬉しい好循環なのだ。
【Taisho's Profile】
奥渋の本店『鮨利粼』で3年間、親方の毛利太祐さんを支え、31歳で西麻布店を任された塩谷さん。
『菊乃井 本店』で和食、『ツバキ』でフランス料理と多彩なジャンルも経験した。
■店舗概要
店名:鮨利粼 西麻布
住所:港区西麻布2-10-7 西麻布来山ビル 1F
TEL:03-6674-2437
営業時間:[一部]18:00〜
[二部]20:30〜
定休日:不定休
席数:カウンター10席、個室1(4席)
3.“銀座の御三家”の技を受け継ぐ、クラシックな江戸前鮨の心地良さ
『材木町 鮨 奈可久』@東麻布
落ち着いた店内で、ひと際目を引くのは、カウンター中央に鎮座する氷柱。両脇に並んだ鮨ダネを冷やすためで、『奈可田』の系譜を象徴する独特のスタイルだ
笑顔が絶えない気さくな空間で、正統派の粋を知る
いまはなき銀座の名店の系譜を継ぐ江戸前鮨の正統派が、14年暖簾を守った西麻布から移転。
昔ながらの仕事を施した握りはいぶし銀の味わいで、新天地でも確かな存在感を放つ。
◆
江戸前鮨における「銀座の御三家」のひとつとして、往年の鮨ツウたちに愛された『奈可田』。そんな名門の流れを汲む一軒が、東麻布で今年2月に再始動した『材木町 鮨 奈可久』だ。
「“奈可田”出身の師匠から受け継いだ仕事を、次世代へとつないでいきたい」とは、店主の木戸隆文さん。
「蛸の桜煮」を冒頭で出すのも、現代ではユニーク。ほろほろ溶ける
その言葉どおり、甘辛く煮たタコや、煮切りに漬けて寝かしたまぐろなど、伝統的な仕事が評判だ。
ねっとりと絡む「赤身」。
漬けにした「赤身」は、ひと晩寝かすことでねっとりした食感が生まれ旨みが熟す。
「車海老」の黄身酢おぼろ漬けは同店のスペシャリテ。江戸時代から続く仕事で、本来は酢の殺菌効果を利用した保存目的だった。エビの風味は生かしつつ味わいを深めている。すべてコース(19,800円)より
中でも昨今珍しいのは「車海老」の黄身酢おぼろ。全卵で作る酢おぼろに漬けることで旨みが凝縮され、茹でたままよりも酢飯にフィットする。
いずれも派手さはないが、間違いのない熟練の味わい。
伝統の技が凝縮されたばらちらしを手土産に!
テイクアウトの「ばらちらし」4,320円。
小肌や穴子、芝海老のおぼろにたまご焼きと、昔ながらの仕事をしたタネが入る。米酢100%の酢飯は味に丸みがあり、ベストマッチ。
下町情緒を残す東麻布エリアには、ここ数年、各ジャンルの実力店が相次いで進出。10月号で紹介した和食店『せん心』が1階に入るビルの2階に店はある。東京タワーを間近に古き良き江戸前鮨を。このギャップがクセになる
一方で、軽快なトークとサービス精神が持ち味の木戸さんは、「つまみ多め」「酢飯は小さめに」などゲスト一人ひとりの嗜好に即した気遣いも欠かさない。
心地良く時代を遡るようなひとときが、江戸前鮨の真髄を改めて教えてくれる。
【Taisho's Profile】
51歳の木戸さんは、大阪の老舗料亭『花外楼』で和食の経験を積んだあと、鮨職人を志し23歳で上京。
鈴木隆久さん率いる六本木の名店『奈可久』で13年半修業した。36歳で独立。
■店舗概要
店名:材木町 鮨 奈可久
住所:港区東麻布1-17-15 ザ・パーク麻布レジデンス 2F
TEL:03-6277-6585
営業時間:18:00〜23:00
定休日:月曜
席数:カウンター7席、個室1(4席)
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