俳優・暴啾析此∀誕蟶遒膿堯垢痢醗役”を経験。時には共演者からも嫌われるほど「常に本気でやらないと失礼」
高校生のときに『MEN’S NON-NO』のモデルオーディションでグランプリを受賞してモデルデビューし、パリコレやミラノコレクションにも出演経験をもつ胗俊太郎さん。
2012年に俳優デビューし、多くの映画、ドラマに出演。2020年には世界190カ国に配信された『今際の国のアリス』(Netflix)に出演。スキンヘッドで顔面に大きなタトゥーを施した“ラスボス”を演じて話題に。2022年には『ヒル』(WOWOW)でこれまでにないほどの悪役に挑戦。繊細かつ大胆に体現し、鮮烈な印象を残した。
現在、主演映画『僕の名前はルシアン』(大山千賀子監督)が公開中、2024年1月19日(金)には映画『ゴールデンカムイ』(久保茂昭監督)の公開が控えている。
◆スキンヘッドになる覚悟
2020年、胗さんは世界190カ国で配信されて話題を集めた『今際の国のアリス』(Netflix)に出演。この作品は、夢や目標もなく、不満を抱えながらも漠然と生きてきたゲーマー・アリス(山粼賢人)が友人2人(森永悠希・町田啓太)と異次元の世界“今際の国”に迷い込み、そこで出会ったウサギ(土屋太鳳)たちとともに、命を懸けた理不尽なゲームの世界に巻き込まれていく様を描いたもの。
胗さんは、スキンヘッドで顔面や腕に大きなタトゥーがいくつもあるという衝撃的な姿で“ラスボス”を演じた。かつてないほど変貌した外見もさることながら、183センチの長身で日本刀を巧みに操る激しいアクションシーンは圧巻だった。
――衝撃的な姿のラスボス、迫力があって印象的でした。
「そうですね。スキンヘッドにあのメイクなので、ほぼ僕じゃないですけどね(笑)」
――激しいアクションシーンも多く、かなりからだも大きく見えました。
「ある程度は鍛えて行きました。半年ぐらい前に話が来て、アクションに関しては、3カ月ぐらいは準備期間があったと思います。それまでも何回かお世話になっているアクションチームだったので、僕の動きもよく理解してくれていて、僕が動きやすいようなアクションを作ってくれました。
ただ、戦う相手が女性で、肌の露出が多い衣装だったし、素手だったじゃないですか。それで、僕は日本刀だったので、距離感の詰め方とかをめちゃくちゃ練習して、とにかくケガをさせないようにしなければいけないと気をつけていました。
絶対にケガをさせてはいけないし、でも暴れなきゃいけないのはこっちだし…そこはかなり難しかったですね。結構練習しました」
――撮影現場にマッサージの方もいたと聞きました。
「はい。やっぱりそこのケアというか、役者へのケアだったり、またスタッフさんへのケアなどは、時代の最先端を走っているなあという感じではありました。
(からだに)電気を流す機械もあって。まるでスポーツ選手みたいにからだのケアを常にしてくれていたので、めちゃくちゃありがたかったです」
――原作は人気漫画ですが、胗さんは『今際の国のアリス』のことはご存じだったのですか?
「いいえ、知らなかったので、話が来てから漫画を読んでという感じでした。まずスキンヘッドになる覚悟。当時は結構長髪のイメージを持たれていたので、スキンヘッドになるというワクワク感。
あとは単純に、Netflixの作品がすごく波に乗ってきたなというときだったので、そういう壮大なスケールの作品に自分が参加できる喜びもありました。『本当に映像化できるの?』というような世界だったのでワクワク感がすごく大きかったです」
――実際に撮影が始まっていかがでした?
「スケールの大きさを現場で感じました。無人と化した渋谷を忠実に再現するために、渋谷のスクランブル交差点を栃木に作ったんですよ。
(実在の街をセットで作るというのは、)ハリウッドでは聞いたことがあったけど、日本ではあまり聞いたことがなかったので驚きました。『渋谷だ!こういうのを作っちゃうんだ』って(笑)。これはとんでもない作品になるなという気持ちは、今でも鮮明に覚えています」
――とくに印象に残っていることは?
「自分が演じたシーンだと、もちろんアクションシーンは結構練習して挑んだので思い出深いですけど、いじめられて引きこもりになっていた世界から、“今際の世界”に放り出されたときのシーンですね。
道路を封鎖して、一人で『ここはどこだ?』って佇んでいるシーンがあって。スキンヘッドになる前なんですけど、あのシーンの撮影のときは、コロナ禍ということもあって、町に普通に人がいなかったんですよ。
自分も撮影以外は外に出られないタイミングだったんですよね。しかも引きこもりの役だったので、外に出て人のいない東京で朝がた道路の真ん中にポツンと立ったときに、何か自然に涙が出て泣けてきたんですよね。役も相まってなんですけど。『東京も今まさにそうだよな、こんな感じになって。普段いっぱい人がいる場所なのに全然人が歩いていない。本当にやばいな』って。
何か作品の“今際の世界”とちょっとリンクした部分があって、そういうのも相まって、『この作品ちょっとやばいかも』っていう風に思ったんですよね。それで、映像を観たら、実際に人も車も通っていないレインボーブリッジを映し出していて…やっぱり作品に“運”ってあるんだなって思いました」
――心情と重なりますよね。あの作品は海外でも反響が大きかったですね。
「はい。インスタをやっているとわかりやすいんですよ。ブラジル人がすごくコメントをしてきてくれたりして(笑)。日本の普通の映画だとブラジルの方に届くことって難しかったけど、Netflixを通じて、こんな遠い国の人たちも見てくれているんだという実感が湧きました」
◆意識しているのは“人の優しさ”
2022年、胗さんは『ヒル』(WOWOW)に出演。これは、成りすましをされたことで、他人の部屋を無断で使う不法滞在者“ヒル”の存在を知った主人公・勇気(赤楚衛二)が、彼らに果敢に立ち向かっていく姿を描いたもの。
胗さんは、かつて両親を殺害したことで世間を騒がせた元少年Aで、現在は他人の部屋に無断で不法滞在し、仲間とともにヒルを玩具のように残虐に痛めつけ、もてあそぶヒルのヨビを演じた。勇気になりすまし、追い込んでいくヨビを大胆かつ繊細に体現。金髪のヨビを演じるために髪の毛を3回ブリーチしたという。
「僕の演じているヨビという役は、本当にイヤな最低のやつだったので、そのあと赤楚くんと『ゾン100〜ゾンビになるまでにしたい100のこと〜』(Netflix)で共演したときに『本当にあのときには胗くんに、めっちゃムカつきました』って言われました(笑)。
たしかに『ヒル』の返しの芝居で、僕が映ってなくて赤楚くんを映しているときに、カメラの裏で僕が芝居をする際も、わざとめちゃくちゃイラつかせるようにやったんですよ。そういう設定だったからですけど、赤楚くんも普段の僕なのか、ヨビとしてやっているのかわからなくなってきたらしくて(笑)。現場でもほとんどしゃべらなかったので。
赤楚くんは結構追い込まれるキャラクターだったので、『本当に嫌いでした。でも、今回(『ゾン100』の現場で)話をしていると、やっぱりあれは役でやってくれていたんだなってわかって、本当に感謝しています』と言っていただきました(笑)」
――本当にひどい人だと思われるほどリアルだとやりやすかったでしょうね。
「そこは、お芝居をする相手には常に本気でやらないと失礼だなと思っているので」
――ヨビは、最初はとんでもなくひどいやつだと思うんですけど、なぜそうなってしまったのか、抱えている痛みがだんだんわかってきて。正しい大人が周りにいたなら…と思わせますね。
「そうですよね。そこの原因がちゃんと描かれていたので、もちろんやってはいけないことではあるんですけど、僕はやっぱり悪役を演じる上で、どこか優しさということは常に重要視しています。
『今際の国のアリス』のラスボス、『るろうに剣心 最終章 The Final』の乙和瓢湖(おとわひょうこ)とかもそうですけど、どこかやっぱり人って優しさがあって、そこを理解してあげないと狂暴な役も何か嘘になってしまうと思うんです。
ヨビは人物背景もきちんと描かれていたので、それに従うだけという感じでしたが、そういうところは大事にしたいなと思って演じました」
――シーズン1では、あれだけ荒れて狂暴だったヨビがシーズン2では、表情も雰囲気も違っていました。抱えていた苦悩、痛みが取り払われて別人のように変貌したところがちゃんと描かれていて。
「そうですね。ヨビはうまれつき平気で人を殺すような冷酷非道なサイコパスにみられがちですけど、反社会的な人格障害をもつようになったのには理由があって…というところがちゃんと描かれていたので良かったです。もちろんやったことは悪いことだし、許されないことですけど」
――ただ冷酷非道で残虐なだけではない心の奥の痛みを感じさせる繊細な心情表現が絶妙でした。
「ありがとうございます。そういう風に感じてもらえていたらうれしいです」
――いろんな役柄を演じられていますが、一番すんなり入り込めるのは?
「難しいですよね。自分と近い役がやりやすいかと言われたら、そんなこともなくて。近いからこそよりリアルにというか、自分の感情を生かさないとなって思うんですけど、自分の感情を生かそうと思えば思うほど、結構体力的にきつくなったりして。
自分とかけ離れた役のほうが結構吹っ切れて迷いなくできるかもしれないです。もちろんそっちに自分を持っていく作業もなかなかしんどいんですけど。どっちがすんなり入り込めるとは言えないですね」
――イメージ的にはとても繊細な感じですが、ご自身としては?
「繊細かもしれないです。結構気にするほうだし…。やっぱり芸能界とか表に出る人は、どっしり構えていたほうが強いと思うんですけど、僕はそんなことなくて。すごく気にするほうだし、何かちょっとあると傷つきやすいし。あまりそういうところは人に見せたくないというのは自分でわかっているんですけど。
だからこそ、周りにいる人にはちょっと甘えてもいいんじゃないかという風に逆に意識しているくらい、結構一人で考え込んでしまうことはありますね。ヘビーな役も結構多いので」
感情表現の激しい役も多いが、本人はいたって穏やか。一見わからないほど外見を激変させることも厭わず、さまざまな役柄に挑戦し、2022年にはドラマ9本、映画4本が公開。
次回は、『ゾン100〜ゾンビになるまでにしたい100のこと〜』(Netflix)、公開中の主演映画『僕の名前はルシアン』の撮影エピソードなども紹介。(津島令子)
ヘアメイク:望月光(ONTAST E)
スタイリスト:伊藤省吾(sitor)