解ける人にはすごく簡単、でも解けない人には超難問・・・・・・そんな東大の入試問題から見えてくる「東大が求める頭の良さ」の一端を解説します(写真:Mugimaki/PIXTA)

覚えられない、続けられない、頑張ってもなぜか成績が上がらない――勉強が苦手で、「自分は頭が悪い」と思い込んでいる人も、実は「勉強以前の一手間」を知らないだけかもしれない。

そう話すのは、中高生に勉強法の指導をしている「チームドラゴン桜」代表の西岡壱誠さんです。

「僕も昔はこれらの工夫を知らなくて、いくら勉強しても成績が上がらない『勉強オンチ』でした。でも、『勉強以前』にある工夫をすることで、『自分に合った努力のしかた』を見つけられて、勉強が楽しくなったんです。効果は絶大で、偏差値35だった僕が東大模試で全国4位になり、東大に逆転合格できました」

西岡さんをはじめとする「逆転合格した東大生」たちがやっていた「勉強以前の一工夫」をまとめた書籍『なぜか結果を出す人が勉強以前にやっていること』が、発売すぐに3万部を突破するなど、いま話題になっています。ここでは「勉強以前」に気をつけたい、日常の習慣を紹介します。

解ける人と解けない人、差が大きい問題

2020年、東大地理ではこんな問題が出題されました。



「高知県と香川県では、ある重要な資源をやりとりしている。資源の名称と、このようなやりとりが生じる理由を、この資源の供給と消費の両面から述べなさい」(東大地理 第一問 設問B (2) ※文言は一部変更しています)

この問題は、簡単な人にとってはとても簡単です。

ですが、もしみなさんが「あること」に気づかないと、どんなに勉強している人でもこの問題に答えることはできません。

地理を何百時間も勉強した人でも、香川県や高知県に住んでいる人でも解けない、難問になってしまうのです。

ということで、今回はこの問題から見えてくる「東大が求める頭の良さ」について解説したいと思います。

この問題は、質問の仕方が巧みです。

この質問の仕方だと、「ある重要な資源? 高知県と香川県で産出する資源って何があったっけ? 『重要な』って言ってるってことは、有名なもので、僕たちの生活にも直結するようなものだろうけど。でも、石油とか石炭とかは取れないはずだし」と、ドツボにハマってしまいます。逆に、「香川県が高知県からもらっているものを答えなさい」くらいだったら、答えられる人はもっと多かったはずです。

この問題を難しくしているのは、「ある重要な資源」という言葉です。

資源といえば、天然資源・鉱石・石油とか、そういうものを想像しますよね。でも、高知県とか香川県とかで、その手の資源がたくさん取れるという話って聞かないですよね。

逆に、この問題が簡単に感じられる人は、この「資源」という言葉の定義をしっかりと理解している人だと思います。資源という言葉は「生産活動に使う物資」のことを指します。なにも、石とか燃料だけを指す言葉ではないのです。生きるために必要な水・食料も含めて「資源」なのです。

ここまでで、答えがわかったという人も多いのではないでしょうか。

正解は、「水」です。

香川県は降水量が少なく、テレビや新聞でも夏になると「香川県の水が不足している」ということが全国的にニュースになることがあります。そしてそんなとき、どこに頼っているかというと、吉野川を通じて、高知県にあるダムから水を供給しているのです。

これこそが、問題文で書いてある「ある重要な資源をやりとり」なのです。「香川県の人の生活に必要な資源」=「水」であり、これを高知県から香川県に供給しているというわけです。

どうでしょう?「香川県は水が不足しがちで有名だって話は知っていたけど、解けなかった」という人も多いのではないかと思います。

日常から「言葉の定義」を意識する

この問題が解けるかどうかは、勉強以前の問題です。言葉の定義をしっかりと理解しているかどうか、言葉に対する感度が高いかどうかが問われているのです。

頭の良い人は、言葉の定義をしっかりと理解している人だと言えます。人の話を聞くときでも、本を読んでいても、ちょっとした言葉の選び方を見て、「ああ、この人はこう考えているんだな」という深い部分を理解します

例えば、「これは恣意的に決められたルールだ」と言われたら、みなさんはどう解釈するでしょうか。恣意的とは、論理的な必然性がなく、個人の感情に任せる様子のことを指します。

だから、この言葉は「このルールは、感情的に決められたものだよね」という解釈をすることができます。

その上で、この恣意的という言葉は、ほとんどの場合、否定的なニュアンスで使われます。「個人の感情に任せて勝手に決められたもの」という否定の意味が強いので、この言葉は「このルールは、わがままに決められたものだから、間違っている」と言いたいのだとわかります。

頭の良い人ほど、他人の話を聞くときも、相手に話すときにも、言葉選びにとてもこだわる傾向があります。頭が良い人であればあるほど、言葉の選び方がすごく上手なのです。

もう1つ例を挙げましょう。「信用」という言葉と「信頼」という言葉の違いを知っていますか? これって同じような意味に見えて、実は全然違うんです。

「信用」は過去のその人の行動などを鑑みてできていくもので、「信頼」は未来のその人のことをどれくらい信じることができるかを考えるものです。クレジットカードは「信用」がないと作れませんが、「信頼」は必要ありません。逆にその人とずっと仕事をしていきたいと思うのならば、「信頼」されなければならないと考える必要があります。

このように、実はその人の考えが、「信用」「信頼」というちっぽけな漢字2文字でわかってしまうことがあるのです。頭の良い人はこの2つをしっかり切り分けて使っていますし、「なぜこの人は、信用という言葉を使ったんだろう?」「信頼という言葉を使わなかった意味はあるのかな?」と考えながら人の話を聞いているわけです。

「言葉に対する感度」が頭の良さを左右する

東大が求めている人材、そして東大に合格するくらい頭の良い人は、「言葉に対する感度を高くする訓練」を積んでいる人だと思います。

普段から人の話を注意深く聞き、相手の話をより深く理解しようと心がけ、逆に自分が言葉を使うときにはきちんとその言葉を使う必然性があるのかを意識をするのです。

このように言葉に対する意識が高いと、相手の意図をより深く、より高次元で理解することができるようになるのと同時に、問題も解くことができるようになると思います。普段から言葉に対する意識を高めることで、先ほどの「重要な資源=水」という発想ができるようになるわけです。

翻って考えてみると、僕は偏差値35のとき、言葉に対する意識が非常に低かったように思います。思いついたことを言って、「どうしてこの言葉を使ったのか」と聞かれても答えられないような話し方をしていたのです。

いかがでしょうか。「頭を良くする訓練として、言葉に対する意識を変えてみるべきだ」という話でした。

例えばこうした記事を読んでいるとき、相手から話を聞くとき、本を読むとき……さまざまな場面で、「頭を良くすることができるきっかけ」があります。みなさんその時間をぜひ、大切にしてみてください。

(西岡 壱誠 : 現役東大生・ドラゴン桜2編集担当)