よくあるストレス解消法、効果感じられぬ納得理由
そのストレス解消方法、もしかしたら間違っているかもしれません(写真:ペイレスイメージズ1(モデル)/PIXTA)
ストレスがたまったときの対処法は、体を動かす、甘いものを食べる、何も考えずに寝るなど人それぞれ。ただ、それでもなかなか元気が出なかったり、もっとしんどくなったりすることもあります。
実は、ストレスを解消しているように見えて、あまり効果がないもの、むしろマイナスになる可能性があるものがけっこう存在しているのです。
メンタルドクターSidowさんの著書『ケーキ食べてジム行って映画観れば元気になれるって思ってた』は、世間によくあるストレス解消法の、より効果的な使い方を教えてくれる一冊。同書から一部抜粋・編集して、実はあまり知らない「ストレスの正体」についてご紹介します。
実は知らないストレスの正体
最近は「ストレス」という単語を毎日のように耳にします。
仕事で疲れているとき、人間関係がうまくいかないとき、なぜか嫌なことが続いたとき......毎日生きているだけで、ストレスを感じる瞬間は誰にでもあるでしょう。
それだけみなさんにとっても身近な存在ですが、ストレスとは一体何か、知っていますか?
「あの人とは考え方が合わなくて、話すだけでストレスがたまる」
「何だか体調が悪いけど、ストレスが原因なのかも」
「部屋が散らかっていると、ストレスを感じる」
そんなふうに、人間関係の不満や体調不良の原因、物事に対する不快感を「ストレス」と呼ぶ人が多いかもしれません。
でも実際に、「ストレス」という言葉の意味や、発生する原因、たまっていく仕組みまで知っている人はあまりいないように思います。そして、そのうえで正しいストレス解消法を実践できている人はもっと少ないでしょう。
「彼を知り己を知れば、百戦殆うからず」
これは孫子の言葉ですが、ストレス解消法についてもまったく同じことがいえます。つまり、ストレスとは何なのか、そして自分自身がどんな性質を持っているかを把握することで、ストレスに負けないメンタルを手に入れることができるのです。
人から教えてもらったり、本やネットで見つけたりしたストレス解消法で効果を感じないのは、ストレスに対しての誤解があるからかもしれません。または、その方法は自分の性質に合っていないのかもしれないのです。
まずはストレスとは何かを知ったうえで、自分に合った正しいストレス解消法を探していきましょう。
「ストレス」という単語を『広辞苑』で調べると「種々の外部刺激が負担として働くとき、心身に生じる機能変化」とあります。
ここで注目してもらいたいのは、ストレスとは本来「機能変化」のことを指し、仕事や人間関係などストレスを引き起こす「外部刺激」のことではないということです。
ストレス=嫌なことではない
例えば、「あの人とは考え方が合わなくて、話すだけでストレスがたまる」は、「あの人と話すことによって、今まで平穏だった自分の気持ちが変化している」ことであって、「あの人と話す=ストレス」ではないということです。
ストレスを引き起こす原因になるものは、「ストレス因」もしくは「ストレッサー」と呼ばれます。つまり私たちが日々使っている「ストレス」という単語は、本来の意味とは若干違うことを認識しておきましょう。
「あの人と話す」こと自体をストレスだと思っているとただ嫌な気持ちになるだけですが、ストレスを起こす「原因」だと思うと、そこに対処すればいいとわかり、気持ちも少し楽になると思います。
また、ストレスの原因というと、何となく心理的なものを想像する人も多いと思いますが、本来はより広い意味があり、物理的なものも含まれます。
具体的には寒暑や騒音、空腹、感染などです。心理的なものも含め、それが続いて心身の正常な状態が保てない場合は、ストレスと考えていいでしょう。
もう少し細かく説明すると、人間の体には恒常性(ホメオスタシス)という機能が備わっています。恒常性とは、「どんな環境にいても体をある程度一定の状態に保つ」ことで、これが乱されたときに、ストレスが生まれるのです。
例えば、人の体温、脈拍、血圧などは、恒常性のおかげで普段は一定に保たれています。しかし、暑い場所や寒い場所に長時間いたり、感染症に罹ったりすることで、体温や脈拍が正常の範囲を外れてしまうことがあります。
このように、何らかの刺激を受け、心身の機能が健康的な範囲から外れてしまうような状態のことを、ストレスと考えるとわかりやすいでしょう。
また、私たちがイメージしやすい心理的なストレスも、それが心身の正常な状態を乱すのであれば、紛れもなくストレスになっているといえます。
ただ心理的なものは非常に個人差が大きく、特定の出来事がストレスになるかどうかは人によって変わります。
例えば、職場で上司に怒られたことをかなりつらく感じる人もいれば、そんなに気にせずに気分への影響もない、という人もいます。
また、世間的には喜ばしいと考えられていることが、その人にとってはストレスに感じる場合もあります。会社で昇進をしたけれど責任感が強まったことが余計にプレッシャーになる、結婚をしたけれど新生活への不安から気分が落ち込む、いわゆるマリッジブルーなどもその例です。
こうした心理的なストレスは受け取り方が人によって異なりますし、物理的なストレスからの影響もすぐには現れるものではありません。そのため、誰にでも効く、即効性のある対処法はないのですが、まず意識してほしいのはストレスの元になっていることに対処すること。
ストレスは刺激そのものではなく、刺激によって起こる変化。つまり原因になっている刺激にアプローチすることが大切なのです。これを「ストレスコーピング」といって、たまってしまったストレスをスムーズに解消することも、ストレスコーピングに含まれます。
つまり、ストレスの対処には、第一に入ってくるストレスをなるべく減らすことと、たまったストレスを早めに解消することの両方を意識することが大切なのです。
ストレス解消法が、かえってストレスに!?
自分ではストレスや疲れを解消するつもりの行動であっても、それがあまり効果的ではないことや、かえってストレスを増やしてしまうことはよくあります。ネットや雑誌、書籍に載っているさまざまな「ストレス解消法」も、それが本当に効果的かどうか疑わしいものもあります。
だからこそこの本では、誤った情報や自分に合わない方法によって振り回されないように、ストレスの正しい知識と、より効果的なストレス解消法をお伝えしたいと思います。
うまくストレスと付き合うために大切なことは、次の2点です。
・できる限りストレスをためないこと
・適切にストレスを解消すること
ストレスについて理解し、なるべくためない環境をつくって、仮にストレスをためてしまっても適切な対処法を実践できるようになれば、より快適な生活を送れるはずです。
そしてこの本に書いてあることがすべてとは思わず、これをヒントに自分に合った対処法を探してみてください。
(メンタルドクターSidow : 精神科専門医)